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【シネマモード】この人に会いたい! 『フローズン・リバー』監督、コートニー・ハント

先日、このコラムでもご紹介しましたが、ゴールデン・グローブ賞の発表が終わると、いよいよ気になってくるのがアカデミー賞のゆくえですよね。今年は、どんな物語が待っているのでしょうか。

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『フローズン・リバー』
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先日、このコラムでもご紹介しましたが、ゴールデン・グローブ賞の発表が終わると、いよいよ気になってくるのがアカデミー賞のゆくえですよね。今年は、どんな物語が待っているのでしょうか。

ところで、みなさんは昨年のアカデミー賞で、ひとつの女性映画が異例の賞賛を浴びていたことを覚えていますか? 作品のタイトルは『フローズン・リバー』。超有名ハリウッドスターが出ているわけでも、特殊効果を駆使しているわけでも、有名作家の原作本があるわけでもない、最近のヒット作の法則からはことごとく外れているはずの映画。でも、アカデミー会員を始め、世界の映画祭で、本当に映画が好きな人々から、絶賛された作品です。

主人公は、責任感も甲斐性もない夫に大切な貯金を持ち逃げされ、2人の子供を抱えて途方に暮れる白人女性・レイ。そして愛する夫に先立たれ、義理の母親に奪われた我が子を取り戻そうとするモホーク族のライラ。経済的にも、精神的も追い込まれた2人の女性が切羽詰った状況の中で出会い、厳しい選択を繰り返し、違法なアルバイトに手を染めながらも、希望の光を見いだそうとする物語です。

確かに、現在公開中の大ヒット作『アバター』のような最先端技術も使われていないし、あのような派手さのある作品作りではありません。でも、誠実にいま世界が抱える問題のひとつである貧困と向き合い、差別も偏見もない温かい眼差しで人間を見つめる監督の感性と才能に興味津々。来日したと聞き、お会いしてきました。

作品が渋めなので、どんな真面目そうな女性が登場するかと思いきや、取材部屋にいたのは、笑顔が華やかな、むしろ柔らかい雰囲気を持ったお姉さま。朗らかな表情で迎え入れてくれ、和やかなムードの中、映画の話が始まりました。

この作品が多くの映画賞を受賞しているのは前述の通りですが、なかでも2008年のサンダンス映画祭審査員大賞(グランプリ)ドラマ部門を受賞したときのことを監督はこうふり返ります。
「実は、サンダンス映画祭での上映が、観客を招いての初めての上映会だったの。それまでは、5人以上の人がいる前で上映をしたことがなかったから。だから、自分にとっては、この映画がいけるかどうか分かる瞬間だったの。もちろん、映画祭側が気に入ってくれたから、とてもいい条件の中で上映されたのだけれど、実際にフィルムが回り始めてからは、隣に座っていた夫の腕をぎゅっと握ったままだったわ。最初の見どころのシーンでみんなが笑ってくれたときは、本当にほっとした。その瞬間、これでもう大丈夫だと思えたわ。ただ、グランプリを受賞したときは、本当にショックだった。映画の評判が良いことは、自分でもわかっていたの。開催中、街を歩いていると、いろいろな人が“とても良かったわ”と声をかけてくれていたから。でも、多くの映画が出品されているから、まさか自分が受賞するとは思いも寄らなかったんだもの。その後、主演のメリッサ・レオや脚本家で監督である私がほかの映画祭でも賞をいただいたり、ノミネートされたりするようになって。2人とも、この作品で賞をもらえるなんて思っていなかったから、すべては予定外のこと。そのたびに、笑ってしまって『なんだかシュールよね』と言い合っていたわ。なかでも、最もシュールだったのはアカデミー賞の主演女優賞とオリジナル脚本賞のノミネート。そこから、全てのフェアリーテイルが始まったのよ」。

この作品には、社会的な視点が見事に盛り込まれているけれど、どのように鋭く社会、そしてそこにある問題を見わたす視野を養ったのかも気になるところ。
「母が小さい頃から映画に連れて行ってくれたんだけど、彼女の映画の見方というのは非常に幅広いものだったの。母にとって映画館は、本当の世界を私に教える唯一の手段だったんだと思う。外国映画、米国作品問わずいろいろ見せてくれたから、多くを学んだわ。ストーリーテラーとしての資質はそこで養われたと思う。つまり、スターが演じる主人公だけでなく、様々な人々に目を向けるということをね。『セントラル・ステーション』なんか良い例ね。最初に登場したときの女性主人公は、嫌悪を感じるほどのキャラクターだけれど、映画の最後には彼女のことを好ましく思う。そういうキャラクターに惹かれるの。映画は、社会からはみ出してしまった、忘れられがちな人々に目を向けるということが、ほかのメディア以上に可能だと思うわ。“私たちは境界線を越えていくことができるんだ”という強いメッセージを観客に伝えることができるんだってね」。

また、思慮深い彼女は、言葉を選びながら、こんな持論も展開してくれた。
「私にとって重要なのは、こういうことなの。人は必死な状況、貧しい状況にあるからといって、ドラマティックな人生を送っていないわけではないということ。人はどんな状況にあろうと、物語を持っているの。そういったことは、母が私にありのままの人間たちを見ることを恐れないでと教えてくれたことが大きいわ。その人の人間性、どんな思いやりをもっているかに注目しなさいと。人間の質はお金とは全く関係ないわけで、大邸宅に住んでいようと、トレーラーパークに住んでいようとそれで差別されるべきではないということ。そういった倫理観を母が映画を通して教えてくれたのよ」。

コロンビア大学で映画を学んでいたときには、“女性が主人公の映画にはアドベンチャーが足りない”という批判をよく聞かされ、そのたびに不満に思っていたという監督。今回の作品では、女性の物語にもアドベンチャーがあるということを証明できたとも言われるけれど、そのほかに何かこの作品を通して証明できたことはあるのでしょうか。
「どんなに少しの予算しかなくても映画は作れるということ。スペシャルエフェクトを使わなくてもスーパーヒューマンな映画を作ることができるということ。私、キャスト、カメラマン、プロデューサーをはじめ、多くのスタッフが女性だったけれど、女性が団結して力をあわせれば効率の良い仕事ができるということ。(男性だと、一人がリーダーになるというスタイルがいいのかもしれないけれど、私たちはみんながまるで働き蜂のようになって一緒に作業をしたわ。)あと、24日間で注目作を作れるということ。私は娘を現場に連れて行っていたんだけれど、子供が現場にいても撮影に支障はないということ。プロデューサーも子供を連れてきていたのよ。一日に1、2時間しか会えなかったけれど、それでも、母親が側にいる安心感はあったはずよ。そして、インディペンデント映画を作っても、結婚生活は破綻しないということ。これらはすべて映画界では、無理だとされていることだけれど、問題ないのだと証明できたわ。ほかにもいろいろ言いたいことがあるけれど…この辺でやめておくわね(笑)」。

もうひとつ、ハント監督が証明したことを私があえてつけ加えるなら、良い作品を作っていれば、支援者は自然に生まれてくるということでしょうか。そんな話をするには、理由があります。

実は、この『フローズン・リバー』、各国の映画賞を数多く受賞し、興業的にも成功を納めたにもかかわらず、日本公開が危ぶまれていました。日本ではここ最近、映画、特に洋画は、巨額予算を投じた大作系が幅をきかせ、良質なドラマ作品がなかなか注目されないという状況にあります。アカデミーも認めた良作が、日本だけ1年ほど延びてしまったのは、そんな理由からなかなか配給元が決まらなかったため。そこで、良質なドラマ作品を上映してきた劇場、シネマライズが直接、日本公開に関わることを決意したという異例の経緯を持っているのです。

見れば納得の素晴らしいヒューマンドラマ。豊かな映画文化が、今後も日本を彩ってくれるよう、あなたも劇場へ行って応援しませんか。

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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