NYに住む伝説のファッションフォトグラファー ビル・カニンガムの生活を追ったドキュメンタリー。片時もカメラを体から離さず NY の道行く美を切り取る人。年齢は推定80歳過ぎ。「The New York Times」のファッション欄と社交欄を何十年担当している。カーネギーホールの上の狭いスタジオ、無数のキャビネット(写真保管用)に囲まれて暮らしている。いつもニコニコしていて楽しそう。食に興味がない。日常で着られない服には興味がない。スタイリストを付けて無料のドレスを着ているセレブリティにも興味がない。どこへ行くにも自転車で移動する。だから26台盗まれて27台目。清掃員の青いトレーナー、雨の日はガムテープで継ぎはぎした黒いポンチョを愛用。彼は自分の好きなことをやるためなら お金は受けとらない。笑って断言する。“Money is the cheapest thing.”それよりも大事なのは自由だ、と。毎週届く無数のパーティの招待状の中で彼が優先するのはチャリティーイベント。決して飲み物にも食事にも手を付けない。ひたすら写真を、撮る。体が持たないですよ、奥から飲み物を取ってきましょうか。上品な婦人が声を掛けると”It’s not work. It’s my plesure.” といってまた写真を撮りはじめる。彼は気高いものが好きだ。きっと彼は勇気ある人が好きなんだ。”A lot of people have taste, but they’re not daring enough to be creative.”(誰でもセンスはある。ただ勇気がないんだ。)これ着たらどう思われるかな、これ言ったらどう思われるかな、変だってみんな言うかな。目立ちすぎるかしら。そんなのを吹き飛ばして 果敢に着飾る人を その心を 彼はかけがえのない仲間のように歓迎する。自分の影響力なんて考えない。順風満帆、年齢を感じさせないバイタリティ。そんな彼の生活を見ているうちに誰しも一つの疑問が頭をもたげてくると思う。この人、家族はいるの?最後の最後にインタビュアーは二つの質問をした。あなたは今までに誰かと恋愛関係になったことはありますか?照れたようにビルは言う。「一度もない。本当にないんだ。忙し過ぎてそんな時間が無かった。動物だからそういう衝動はあるけどね」。次の質問。宗教や信仰はあなたにとって大きな生活の軸となるものですか?(ビルは敬虔なカトリックの家庭に育ち、今も毎週日曜日に教会へ通う。)不気味な静寂が訪れた。前の質問の余波なのかこの質問が苦痛なのかうつむいて顔を歪めるビル。インタビュアーが思わず「無理に答えてなくて大丈夫ですよ」と言葉を挟んでしまうほどに長い、間。計り知れない、80年という人生の中のなにか。結局彼は70%くらい肯定する返事をしてこのインタビューは終わった。80分の映像のうち75分ビルは朗らかで陽気でクリエイティブでエネルギッシュで人生を謳歌していて満ち足りていてかつ貪欲だった。でもこの5分。そのうちの長い長い間(私がやたらに、そう感じただけかもしれない)に 人の心の複雑さを見たよ。なんて不思議な生き物なんだろう。人。いびつだよ。紐解けないよ。秀逸なドキュメンタリーを見る度に思う。ノンフィクションを越えるフィクションは難しい、って。姫路に着きました。依然、撮影しています。まるで西日本寺巡り。ここは雲の立派なまちです。玄里★玄里 Official Facebook:https://www.facebook.com/HyunriOfficial☆Instagram 始めました:http://www.oninstagram.com/profile/hyunriiiiii