【シネマモード】“孤独感”を演出するのは60年代のインテリアたち『追憶と、踊りながら』

最愛の息子カイの来訪を、心待ちにしているカンボジア系中国人のジュン。ロンドンにある介護老人ホームで暮らしていますが…

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ベン・ウィショー主演/『追憶と、踊りながら』 (C)LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014
  • ベン・ウィショー主演/『追憶と、踊りながら』 (C)LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014
  • ベン・ウィショー、ラブシーン画像/『追憶と、踊りながら』 (C)LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014
最愛の息子カイの来訪を、心待ちにしているカンボジア系中国人のジュン。ロンドンにある介護老人ホームで暮らしていますが、英語ができずに1人寂しい時間を送っています。

唯一の楽しみは、カイと過ごすひと時。自慢のひとり息子と一緒に暮らしたいものの、それを阻んでいるのは、彼と一緒に暮らしている友人リチャードの存在。3人で暮らすには、いまのフラットは手狭だからと母に伝えているカイですが、実はリチャードは友人ではなく、恋人なのです。いつかは、3人で暮らしたい。そのためには、自分がゲイであることを伝える必要が。母に告白したいと悩むうち、悲劇が息子を襲います。愛するカイの思いを知るリチャードは彼の代わりに、言葉の通じないジュンの面倒を見ようと、友人を装ったままホームを訪れるのですが、息子との同居を難しくしてきた彼をジュンは好きになれず…。

愛する人を失ったという大きな悲しみを共有しているにも関わらず、なかなか分かり合えないリチャードとジュンを描いた『追憶と、踊りながら』。英語と中国語という言葉の問題だけでなく、文化、世代、そして感情に阻まれた二人は、愛する者がかつて望んだように、分かり合える日が来るのでしょうか。

愛する者の思い出と暮らし、追憶と踊り続けるリチャードとジュンの気持ちを映し出す切ない物語が魅力的な本作。過去から抜け出せずにいる二人の心情を反映させたかのように、どこかレトロで懐かしい映像も魅力。全体的にベージュがかったスモーキーで褪せたような色味は、悲しみを表現しつつも、“それ以前”を懐かしむ思いをそこに重ねているかのようです。

実は、そんなムードを醸し出すもうひとつの立役者が、ジュンが暮らす老人ホームのインテリア。歳を重ねた人々が、若々しい気分になり、幸せな頃を思い出せるよう、内装が5,60年代をイメージしたものになっているとカイが言及しています。でも、ジュンはアジア人。息子の幸せのために大人になってからイギリスに来た人ですから、欧米のインテリアを懐かしいとは思えません。しかも、息子にここに入れられてしまったと思い込むジュンにとってその内装はかえって孤独感を強めるのかもしれず、「壁紙を見て。息がつまりそう」と話すのです。

ところが、ジュンには悪いのですが、正直なところミッドセンチュリー好きにはたまらないこのインテリア。柄物だけれど決して煩くないベージュとホワイトが落ち着いた印象の壁紙、ウッディなブックシェルフにサイドボード、一人がけ安楽椅子など、室内はレトロ感たっぷり。登場人物の1人もこのホームに初めてやって来たとき、「昔に戻ったみたい」とつぶやきます。シンプルで機能的なのに温かみがある家具、そして電気スタンドからこぼれるオレンジ色の灯りが、とても穏やかな気持ちにさせ、優しさに溢れた本作の雰囲気にぴったりなのです。内装にはベージュ、ブラウン、ウッド、イエロー、オレンジが中心に使われ、赤や青と言った強い色も少し沈んだトーンの深みを感じさせています。

私のようにミッドセンチュリー好きなら、きっとこんな部屋に住みたい! ときっと思うはず。カイを演じた新星アンドリュー・レオンの静かな美しさは、特に強調したくなるほど必見! ですが、インテリアにもぜひ注目してみてください。
《text:June Makiguchi》

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