橋口監督はわたしの中で『桜貝の人』である。『人生で嫌なことがあってどん底でも、お風呂に入った時指の爪がピンク色になって桜貝みたいで綺麗だなあ、ってそういうときあるでしょ…』というお話と、そのときの監督の表情をよく覚えている。なんて繊細な人なんだろう、と胸に響いたし正しくあろうとする優しさ、みたいなものを(勝手に)感じてわたしはますます橋口監督が好きになった。もちろん『ハッシュ!』が好きで(だから今年の初め片岡礼子さんと共演出来たときはすごく嬉しかった)『ぐるりのこと。』『ゼンタイ』も見ている。そして今年の11月に公開される『恋人たち』『ぐるりのこと。』からもう7年ぶりの新作長編なのだ。上司に言いくるめられて結婚した冴えない主婦に、幼じみをずっと好きだけど態度に出さないように頑張ってたゲイの弁護士に、とある理由で社会生活が十分に送れなくなってしまった幸せなはずの新婚の男。きっと街にいたら普通に見過ごしてしまうような人たちの群像劇。日常を一歩一歩、それでも、それでも、と踏みしめていく彼らの抱えてる思いがそっと紐解かれていく。優しくて、しょうもなくて、弱々しいのになんでかずっと胸に残ってるんだな。『恋人たち』という映画に実際恋人たちはそんなに出てこないのだけれど寒くなってきた頃大切な人とこの映画を劇場にもう一度、見に行きたいなと思ったのです。ハートフルなコメディ、って意外とこういう作品のことを言うのかも。11月14日(土)よりテアトル新宿ほか、全国ロードショーです。