【MOVIEブログ】Cinemage: 走れ森君(前)

前回の投稿で書いた映画にまつわるショートストーリーです。 映画に対する自分なりのオマージュということで、"シネマージュ"。自分が好きな映画をモチーフにして書いてみました。

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前回の投稿で書いた映画にまつわるショートストーリーです。
映画に対する自分なりのオマージュということで、"シネマージュ"。自分が好きな映画をモチーフにして書いてみました。前後編の2つに分けて投稿していくので、これが何の映画をモチーフにしたものか、想像しながら楽しんでもらえればと思います。(最後にネタ明かしをするようにします)
今回は大学時代、アメリカ留学中に観た大好きな映画です。


「走れ、森君」

どうしてこんなことになってしまったのだろう。

森君が走り続けている。

かれこれ数時間がたつらしい。友達から追いかけられて逃げ回っているうちに止まらなくなってしまったようだ。とはいえ、友達は別に彼をいじめようとしていたわけではなく、ただ森君に学校で見つけたカブトムシを見せようとしていただけだった。それでも、森君にとっては、得体の知れない角の生えた、それなりに大きな黒い虫は人生で初めて見る恐怖だったようで、逃げ回っているときの彼の形相は必死そのものだった。それだから、友達たちもそれを面白がって森君を追い回すことになった。
ところが、森君は実は足が速かった。教室では常に本を読んでいたり、何かを描いていたりして、文系タイプという印象だったのだが、本気で走り出したらとても速かった。しかも、そのスピードは走れば走るほど速くなった。だから、ほどなくして、森君は独走状態になった。友達も早々に追いかけることはあきらめ、森君のその走りに目を奪われていった。森君は独走状態になっても、カブトムシがすでにどこかに飛んでいってしまっても、止まることはなかった。走る速度は建築現場で張られる糸のように、ある一定の速さに固定されて走り続けた。その走りはまるで機械のようだった。

「おい、森、もう止まっていいぞ」
「もうカブトムシはいないよ」

友達がそう声をかけても森君が止まることはなかった。たまたま、その昼休み時間の後が体育の時間だったので、その授業の間も森君は校庭をただただ走り続けた。体育の授業が終わった後も彼の走りが止まることはなかった。その走りは次第に学校中の注目を集め始め、下校時間の頃には森君は半ば学校のスターのようになっていった。もし、誰かが森君の走りの時間をきちんと記録していたなら、きっとそれはとんでもない記録になっていただろう。そして、そういうスターが生まれるときには色んな噂話が出てくるのが常で、森君に関しても短い間に色々な噂が流れた。

「森君って、ちょっと天然らしいね」
「でも、すごくイイ人なんだって」
「卓球がめちゃくちゃ上手いらしいよ」
「アメリカの大統領にも会ったことあるんだって」
「森君ってエビが好きで、夢はエビ会社の社長なんだってさ」

もちろんこれらの話は下校時に森君を横目で見ながら交わされた他愛もない話であって、そのほとんどは根も葉もないものだった。敢えていうのなら、すごくイイ人というのだけは間違っていなかったというところだろう。全校生徒のほとんどが帰った後も残って彼を見守る友達がいたし、彼らから森君はとても好かれていた。だが、そろそろ陽が落ちそうになるという頃になっても、森君が止まることはなかった。さすがにこの頃には、彼の走りを感心しながら見ていた友達たちも心配になってきた。

「やばいよ…」
「走りすぎだって」
「もう止まった方がいいよ、心臓破裂しちゃうよ」

(つづく)


【2018.8.1】
《text:Yusuke Kikuchi》

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