【MOVIEブログ】2018東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ部門」作品紹介

東京国際映画祭の作品紹介、次は「日本映画スプラッシュ」部門に行ってみます。

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『銃』
  • 『銃』
  • 『あの日々の話』
  • 『海抜』
  • 『鈴木家の嘘』
  • 『月極オトコトモダチ』
  • 『僕のいない学校』
  • 『漫画誕生』
  • 『メランコリック』
東京国際映画祭の作品紹介、次は「日本映画スプラッシュ」部門に行ってみます。

日本のインディペンデント映画を応援する「日本映画スプラッシュ」、今年は新人若手がずらりと揃うフレッシュな顔ぶれとなりました。この部門は、あくまでインディペンデント映画応援が主旨で必ずしも若手発掘部門ではないのですが、巡り合わせもあるのか結果として新人が揃う年もあり、今年は若手押しでいくことになりました。

■『銃』(武正晴監督)



新人押しの今年のスプラッシュ、しかし! ひとり例外がいらっしゃいます。武正晴監督です。一世を風靡した『百円の恋』(13)は「日本映画スプラッシュ」部門でワールドプレミア上映されて見事作品賞を受賞、その後の快進撃への号砲となったのでした。映画祭にとっても歴史的に重要な作品であります。スプラッシュの存在感をググっと引き上げてくれた武監督が戻ってきて下さって、本当に光栄です。

今年公開された『嘘八百』に続く武監督の新作が『銃』です。芥川賞作家の中村文則氏が2002年に新潮新人賞を受賞した同名小説を原作としており、武監督はクールなモノクロ画面を駆使し、スタイリッシュな「ノワール」映画に仕立てました。画面はクールですが、中身は異常な情念や焦燥感も含んだエモーショナルなものであり、虚実も入り混じった実に貴重な作品であります。

ひょんなことから拳銃を拾ってしまった大学生の青年の運命が徐々に狂っていく…。という一節以上のあらすじ紹介は不要でしょう。青年の心理描写を丁寧に重ねて行くスリラーであり、もちろんダークな青春映画でもあります。そして心理スリラーではあるのですが、文学的な香りが漂う瞬間もあり、どこか「格」が感じられる作品です。さらにひとつ重要な主題が隠されていますが、これはネタバレなので触れません。お楽しみに!

拳銃を持ったことによる高揚感と全能感の虜になる青年を、村上虹郎さんが実にリアルに演じていきます。時おり眼に狂気が走り、本来の端正な顔がゆがんで見える。村上虹郎、やはり只者ではないですね。そして主人公の青年と対極の価値観を象徴する広瀬アリスさん、青年を悩ませる存在のリリー・フランキーさんのいやらしさなど、共演者の存在感も豪華。切れ味鋭い演出で武監督が役者陣を躍動させます。さらに主役のひとつはキャメラで、夜の雨が際立つモノクロ撮影のシャープなカッコよさがたまりません。

「実力者の武監督が7人の若手を迎え撃つ」という構図に今年のスプラッシュ部門はなりました。迎え撃つ武監督の武器はもちろん『銃』。なんともスリリングではないですか!

『あの日々の話』(玉田真也監督)


『あの日々の話』
玉田真也監督は劇団「玉田企画」を主宰する劇作家で、芝居の世界では既に人気を博している存在です。2016年に初演し今年再演もされた自作「あの日々の話」を、自らの映画監督第1作として映画化したのが本作です。

毎年恒例の幹部選挙を終えた大学のサークルの面々が、カラオケボックスで打ち上げをしている。当初はみんなで楽しく盛り上がっていたが、先輩後輩の上下関係のこじれや男子の悪ノリが重なり、徐々に気まずい空気が漂ってくる…。

カラオケボックスを舞台にした、ひと晩のシュチュエーション・コメディです。なんとまあ、リアルであることか。僕もバカ大学生だった時期がありますが、もう30年近く前だというのに劇中の学生たちと全く同じだったことにたまげました。バカ大学生は時代を越えるのか…。

おそらく現代的な風俗を描くよりも、いつの世でも若者たちが起こしがちな暴走や勘違いから生まれる気まずさと、そこから生まれる笑いや哀しみを掬い取ることに玉田監督は関心があるのでしょう。それはもう見事に成功しています。

自作の戯曲が元であるメリットを活かした脚本の洗練度が高いこと、演劇版のオリジナル・キャストがそのまま出演しており、役者陣がとても上手いこと、そしてカラオケボックス内の閉じられた世界を観客が息苦しくならないように見せる演出がスムーズであることなどが相まって、とても完成度の高いデビュー長編であります。

演劇と映画を結ぶ新たな存在、玉田真也監督に注目です!

『海抜』(高橋賢成監督)


『海抜』
新人の多い今年のスプラッシュにおいても、ダントツに若い高橋賢成監督はなんと22歳。城西国際大学在学中に作った作品が『海抜』で、スプラッシュの前身である「日本映画・ある視点」時代からの歴史の中でも最年少監督であるはずです。

高校時代に友人の女性が暴行を受ける現場にいながら行動を起こせなかった男の、長年に亘る罪悪感との葛藤を描くドラマです。忘れようとしても忘れられない過去が男の人生に影を落とし、彼は苦悩を深めるが…。

深刻なテーマの選び方に監督の並々ならぬ気合いが伝わってきます。ノーギミックのストレートな演出は時おり荒さを見せるものの、勢いと意欲が上回り、エモーショナルなドラマへと昇華していきます。映画内で長い年月が流れる物語を手掛けること自体が低予算インディペンデント映画では珍しいですが、ダークな情念が渦巻く骨太ドラマを22歳の青年が作ったことに僕を含めた選定スタッフ全員が驚き、これは祝福に値するとの意見で一致したのでした。

スタッフやメインキャストは撮影当時に全員大学生だったという事実にも驚かされます。要所にハッとするショットも多く、映像に魅力が備わっており、これはたいしたものだと唸らざるを得ません。そしてダークな情念とは書いたものの、作品を見て感じるのは監督の誠実さであり、映画に対するひたすらに真摯な姿勢です。

『海抜』で日本の若手の未来を目撃されたし!

『鈴木家の嘘』(野尻克己監督)


『鈴木家の嘘』
一方、新人監督ではあるけれども、(武監督を除けば)「ダントツ年寄りです」と先日行われたイベントで笑っていたのが野尻克己監督です。長く助監督経験を積み、組んだ監督には熊切和嘉、大森立嗣、三宅唱、石井裕也、橋口亮輔、横浜聡子などの名前が並び、日本映画の最前線で長年仕事をされてきたことが伺えます。

従って、『鈴木家の嘘』は業界待望の監督デビュー作と言えるかもしれません。亡くなった長男が生きていると入院中の母に嘘をついてしまった家族が、嘘を貫こうとするが…、という物語。監督の手によるオリジナル脚本で、風変りな感動ホームドラマです。

物語の核はとてもヘヴィーですが、コミカルなタッチで回りを包み込む構成と演出が絶妙です。悲劇とコメディのバランスを取るのはとても難しいはずで、やはり並の新人ではないと見た人は感じるはずです。

助監督経験が長いと役者さんとのつながりが出来て監督デビューの時に役に立つという話を聞くことがありますが、本作もそうだったかどうかは監督に映画祭で伺うとして、岸部一徳、原日出子、大森南朋、岸本佳世子、加瀬亮など、ここも並の新人には不可能であろう充実のキャスティングが実現しています。そして『菊とギロチン』で鮮烈な印象を残した新人の木竜麻生が本作でも素晴らしい存在感を見せています。木竜さんは今年の日本映画の新人賞に値する存在と言って反対する人はいないでしょう。

待望のデビューを果たした大型新人監督をお見逃しなく!

『月極オトコトモダチ』(穐山茉由監督)


『月極オトコトモダチ』
会社員として働きながら映画美学校で映画作りを学び、初長編を完成させたのが穐山茉由監督です。『月極オトコトモダチ』は女性選定スタッフたちの評価がすこぶる高く、スプラッシュ部門の多様性を証明してくれる存在としてお迎えできるのがとても嬉しい作品です。

ネット媒体の記者をしているヒロインは、合コンで知り合った男性が幹事の「レンタル友人」として連れてこられたことを知る。そんな仕事があるのかと興味を持ち、ヒロインは男性を「友人としてレンタル」し、取材していくが…。

いいですねー。恋の予感がしますねー。が、果たして恋になるのか? いや、そもそも男女に友情はありえるのか? というあたりを巡ってドラマは廻っていきます。ヒロインはいわゆるアラサーで、仕事のキャリアにも恋にも人生にも少し焦っている時期が、リアルにしかし爽やかに伝わってきます。主演の徳永えりさん、まさに等身大の存在感というのは本作の徳永さんを指すのだなと思わされるというか、とても身近に感じられて素敵です。

本作は直井卓俊プロデューサーが率いる「Moosic Lab(ムージック・ラボ)」の企画のひとつとして製作されていて、11月14日(水)に開幕する「ムージック・ラボ」の前であるにも関わらず東京国際映画祭での上映を許して下さった直井プロデューサーに感謝です。この企画の一環であるということは、音楽とのコラボレーションが期待できるということなのですが、その効果も是非お楽しみに。

爽やかな監督デビューに拍手を!

『僕のいない学校』(日原進太郎監督)


『僕のいない学校』
自主映画には映画製作現場が舞台になるものが少なくないですが、映画学校の職員の目を通じて現場を描くという新しい視点を導入して成功しているのが日原進太郎監督の長編1本目『僕のいない学校』です。

映画専門学校の出身者でそのまま職員となった主人公は、自ら映画を作る夢を捨ててはいないが、日常業務に忙殺されている。学生を叱咤激励する一方で、予算と入学者の確保にしか関心のない経営者の理不尽な要求に耐え続ける…。

映画製作の現場ものとしての個々のエピソードの面白さはもちろんですが、本作はそこに留まらず「教育とは何か」という領域にも踏み込んでいく深みを見せ、見事です。教育とビジネスの垣根を巡る難しさ。理想と現実の狭間で葛藤する主人公の立場の辛さが見ている者の胸に迫ります。

主人公のキャラクター造形にしみじみと感動するのですが、その役を演じる嶺豪一さんが素晴らしい。朴訥とした味わいの中に強い意志を秘めた存在を自然体で演じています。さらに「悪役」(と言い切れないのがこの映画の深いところですが)の上司の役者陣が猛烈に上手いので映画が締まります。

日原監督の実体験もおそらくふんだんに盛り込まれているはずで、エピソードのリアリティは怖いくらい。上映時間は2時間20分ですが、見始めた瞬間に惹き込まれてしまい、長さが全く気にならないことにも驚きます。渾身のデビュー作であります。

新人離れした演出力の日原監督を見逃されぬよう!

『漫画誕生』(大木萠監督)


『漫画誕生』
長編1作目『花火思想』(12)の独創的なタッチも印象に残る大木監督が、スケールの大きな物語に挑んだ2作目が『漫画誕生』です。

明治から昭和にかけて人気を博し、漫画を職業として確立させた存在と呼ばれる北澤楽天という漫画家の半生を描く物語です。老年を迎えた楽天が昭和期に検閲官と表現の自由を賭けて激論を交わすパートと、世に出ようと奮闘する若い時期のパートが平行して描かれていきます。

インディペンデント映画で歴史ものを手掛ける志の高さに感動します。想像ですが、楽天という存在に興味を持った大木監督が創作意欲に駆られるまま、立ち現れる障害をもろともせずに突き進んだ作品なのではないでしょうか。若い表現者の志やかくあるべし、と思わずにいられません。

楽天という存在を知る面白さもさることながら、表現の自由は国際的競争力に直結すると語る楽天の信念は現在に突き刺さるメッセージであり、作品の射程範囲の広さに襟を正す気持ちになります。

楽天役にイッセー尾形さん。風刺画に信念を持って取り組んだものの、仕事上の要請で妥協した葛藤も抱く複雑な人物像を、説得力に溢れたさすがの名演技で見せてくれます。検閲官との議論のシーンは単なる善と悪の二元論に留まらない迫力があり、イッセー楽天に対しがっぷり四つに組む稲荷卓央さん(検閲官役)も素晴らしい。

日本インディの底力を見せつける『漫画誕生』、必見でお願いします。

『メランコリック』(田中征爾監督)


『メランコリック』
一粒で何度も楽しめるのが『メランコリック』です。この作品はサプライズが満載なので、あらすじは書きたくないのですが、ほんのさわりだけ…。

主人公の青年は学歴があるが定職に就かず、家族と同居している。ひょんなことから銭湯でバイトを始めるが、その銭湯には裏の顔があり、閉店後に洗い場で殺し屋が運び込んだ死体の解体処理をしていた…。

なんとも血なまぐさい話で、これだけでも十分に惹き付けられるプロットなのですが、この設定は本作の魅力のほんの一部に過ぎません。ああ、何を書いてもサプライズを減じてしまいそうで紹介が難しい。犯罪スリラーの面も見応えがある一方で、本作にジャンルを与えるとしたら「青春映画」になるでしょう。しかも絶妙な(ブラック)ユーモアと感動付きの! とにかく、殺しと愛、友情と家族に関するとびきりオリジナルな物語を堪能してもらいたいです。

禁じ手を承知で書いてしまうと、僕は終盤に落涙してしまいました。ダメ男の物語に弱いという生来の体質はあるとして、今年のグッドサプライズでありました。

エンタメ度も高く、長編第1作の新人監督の手によるものと知ってこれまた驚きます。あとから田中監督がアメリカで映画作りを学んだと知って納得でしたが、絶品のコンビネーションを見せる二人の俳優、皆川暢二さんと磯崎義知さんが田中征爾監督と組んで3人で立ち上げた製作ユニットによる作品とのことです。この成り立ちにも惹かれます。

新たなストーリーテラーの誕生に刮目です!

<スプラッシュあとがき>
以上「日本映画スプラッシュ」で賞を競う8本の紹介でした。新人が多いとはいえ、作品はバラエティに富んでいます。現在の若手監督の多様性を楽しみつつ、新たな才能を「発見」し、そしてもちろん実力派監督作品にも唸ってもらえたら嬉しいです。
《矢田部吉彦》

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