【MOVIEブログ】Cinemage: 黄色いハンカチ(前)

自分なり映画へのオマージュ、Cinemage。 今回は昨年見た衝撃的な映画へのオマージュ・ストーリーです。

最新ニュース
【MOVIEブログ】Cinemage: 黄色いハンカチ(前)
  • 【MOVIEブログ】Cinemage: 黄色いハンカチ(前)
  • 【MOVIEブログ】Cinemage: 黄色いハンカチ(前)
  • 【MOVIEブログ】Cinemage: 黄色いハンカチ(前)
自分なり映画へのオマージュ、Cinemage。
今回は昨年見た衝撃的な映画へのオマージュ・ストーリーです。


「黄色いハンカチ」(前)

それは春先のとても風の強い日のことだった。

大学受験に合格した娘に合格祝いを買うために娘と2人で出かけているときだった。世間の大方の家はそうではないようだが、我が家では高校生になっても娘が父親と2人で出かけることはよくあることであり、その日も新宿に行きたいと娘の方から誘われていた。蕾がうっすらと薄桜色がかってきていた桜並木を、同じような頬の色で少し上気した娘と歩くのは、控えめに言ってもとても幸せなことだった。この子が春から大学生か。そう思うと、月日の流れは本当に風のように過ぎていくのだなと、強い向かい風を浴びながら思っていた。

新宿に向かう電車に乗るために最寄り駅のホームで娘と2人で待っていたとき、折からの風にあおられて黄色いハンカチがどこからともなく降りてきて、私の目の前で舞い始めた。風が強かったのでそんなこともあるのかと思って眺めていたが、不思議なことにその黄色いハンカチは一向に私の前から消えない。ずっと地面に落ちることもなく、まるで生まれたばかりの蝶のような感じで私の目の前をひらひらと舞い続けた。何だかどこかに行きたいのに、うまく動けなくてモゾモゾしているようなもどかしさすら感じた。隣にいた娘は携帯電話の画面に夢中で空飛ぶハンカチには気がついていなかった。娘にも見せようと思ったが、きっとそうしようとした瞬間にハンカチはどこかに吹き飛んでいくだろうと思ってやめた。同時に私もそのことに対する興味を失い、娘と同じように携帯を眺め始めた。視界の端でそれでもまだ舞い続けているハンカチをとらえてはいたが、もはやそれは私にとっては本物の蝶のように、近くを飛んではいるが特に害はないものとして気にならないものになっていた。

電車の到着を知らせるベルが鳴り渡った。娘はそのベルにボタンを押されたかのように私の目の前のハンカチに気がつき、それを掴み取ろうとしたが、その矢先に強い風が吹いた。ハンカチは私の視界から消えて、ホーム後方に飛んでいき、娘はそれを無意識のうちに追いかけていった。私はその様子をかつて幼い娘が蝶を追いかけて走っていた様子に掛け合わせて微笑ましく眺めていた。そのときだった。ハンカチを追いかけていた娘がホームで転んでしまい、ホームの端から上半身が突き出る形になってしまった。娘は何とかそこから立ち上がろうとしたが、そこに電車が飛び込んできた。全てがあっという間の出来事だった。ゴン!という小さな鈍い音だけが私の耳に響いた。次の瞬間私が見たのは、ホームに横たわる娘とその上に覆い被さった青年の姿だった。

電車が入ってくる瞬間に近くにいた青年が倒れていた娘を懸命に引き上げ、娘はかろうじて電車に轢かれるのを免れたのだった。だが、引き上げられたギリギリの瞬間に娘は電車に少しだけ頭をかすり、ゴンという音が響いていたのだった。私はすぐに娘を助け起こしたが、娘はショックで意識を失っていた。助けてくれた青年はなぜか「すみません」と横で頭を下げていた。

「いやいや、君のおかげで娘は助かった。本当にありがとう」

私はそう言ってその青年を抱きしめ、お礼を言った。その場で彼の名前と連絡先だけ聞いて、私はすぐに娘を病院に連れて行った。検査の結果、娘は命には別状もなく、頭の傷も大したことはないでしょうということだった。私は胸をなで下ろし、救ってくれた青年にお礼の電話をした。丸帝(まるてい)という名の青年は電話口でもしきりに恐縮していたが、娘が無事なことが分かるととても安心していたようだった。その声は少し朴訥としたところがあり、何か好感の持てるところがあった。その後、丸帝くんと私が直接話すことはなかった。

だが、娘には大きな傷が1つ残った。

(つづく)
《text:Yusuke Kikuchi》

関連ニュース

特集

page top