【MOVIEブログ】Cinemage: 風を味方に、太陽を敵に(後)

そんな真っ白な色はいままでどんな人の中にも見たことがなかった。

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そんな真っ白な色はいままでどんな人の中にも見たことがなかった。基本的になにがしかの色を人はまとっているもので、黒という人も何人かはいたが、白というのは見たことがなく、それはつまり人にはない色だと思っていた。

その女性はどんな心の在り様なんだろうか? 気になって仕方がなくなった。

俺にはもう一つ、ほかの人に出来ないことがあった。これも歌っているときだけなのだが、俺には自分の歌が人の心に響いたかどうかが目に見える形で分かった。歌っている本人には届けようという気がさらさらないにもかかわらず、たまにそれが誰かの琴線に触れることがあった。俺の歌がそうやって人の心を動かすことがあると、その人の胸のあたりの色が赤く変わる。それは、文字通り、心に火が灯るような感じで、ボッと沸き立つのだった。そうなると、そうなった人はほぼ間違いなく立ち止まったり、涙を流したりして、外面にもその炎が発露する。そういう状況に至ったときは、俺はその後はその人に向かって歌うようにしていた。せめてものサービスだ。

その白い女性が通ったとき、実はその人にも火が灯っていた。その人の胸が赤く燃えているのが俺には見えていた。だが、その人は立ち止まることはなかったし、外面にもその炎が発露している感じは全く見られなかった。確かに色は変わっていたのだが、その人の動きに変わったところは微塵も見られずに、ただ通り過ぎていっただけだった。皮肉なもので、届けようという意思はないものの、それが届いていると分かったときには、もっとしっかりと届けようと思っている自分がいた。だから、それからというもの、俺はその人が通りそうな時間に駅前で歌うようになった。

しばらくはその人を見かけることはなかったが、ひと月くらいたった頃から頻繁に見かけるようになった。その人はいつも違う服装をしていたが、目線は常に斜め上を向いてどこか遠くを見ている感じだった。色は最初に見たときと変わらない新雪のような白のままで、どこかで立ち止まったり、歩みをゆるめたりするようなこともなかった。それでも俺の前を通るときには必ず胸のあたりには赤い色が灯っていた。

なぜなんだ? この人には確かに俺の歌は届いている。それなのに、なぜ反応しないんだ?

何回歌っても変わらなかった。その人がこっちを向くことは一度もなかった。ただ、それと同じく、どんな歌を歌ってもその人の胸には必ず赤い光が灯っていた。ほかの人なら立ち止まったり、涙を流したりしてくれようものだが、その人はいつもただ過ぎ去るだけだった。もしかしたら、白というのはそういうものなのかもしれない。何があっても動じない。何色が来ても自分の色に寄せていく。そういう動かざる色なのかもしれない。俺自身には俺の色は見えなかったが、俺ももしかしたら白なんじゃないか、そう思えた。むしろそうありたかった。だから、次にその人が俺の前を通るときに、その思いを歌にしてみた。

雲のような、雪のような、白
雲は流れても、雪は溶けても、白は消えない
それは常に心の地平にあり続ける
僕は歌う 自分の中の白い線に従うために♪

その人にこの俺の歌が聞こえたとき、その人は全身が赤く燃えた。触れたら火傷しそうなくらいに赤くなった。こんなに激しく人の色が変わるのも初めて見たが、それでもやはりその人がその歩みを止めることはなかった。目の前をいつものように過ぎ去ろうとしていた。俺はどうしてもその人を止めて、こっちをふり返らせてみたいと思い、歌の最後にもう一言加えた。

「君のために♪」

その瞬間、その人は立ち止まってこっちをふり返った。その顔には空に滲んだ雲のようなほのかな笑みが浮かんでいた。

なんだよ、やっぱり愛かよ。

(おわり)
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今回モチーフにした映画は『ラヴソング』です。ピーター・チャン監督、マギー・チャン、レオン・ライ出演の香港映画(98年公開)です。香港で出会った二人の男女の10年に渡る愛を描いた映画で、二人をつなぐ象徴として随所にテレサ・テンの曲が流れるんですが、これが絶妙なんです。この映画のマギー・チャンが最高で、10年の時の流れも見事に感じさせながら、なおかつ美しい佇まいを全編にわたって保ち続けていて、その在り方に感動したものでした。ラストも秀逸です。ちなみに、個人的には映画で言えばラブストーリーは嫌いではありません。
《text:Yusuke Kikuchi》

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