カイロ・レン=アダム・ドライバーだからこそ愛されたSW史上最も複雑なヴィラン

そもそもカイロ・レンをヴィランと呼んでいいのか、といつも悩む。

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そもそもカイロ・レンをヴィランと呼んでいいのか、といつも悩む。

『スター・ウォーズ』を見たことがない人でも知っている圧倒的なヴィランとして、映画史にその名を轟かせるダース・ベイダー。だが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でベイダーを信奉し、その遺志を継ごうとする後継者として初登場したカイロ・レンは“光と闇”の間を揺れ動く青二才。そのあまりの精神的未熟さに、誰もが面食らうことになった。

そんなカイロ・レンを、最新作にして完結編『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』まで3作にわたり演じたのがアダム・ドライバーだ。すでに鑑賞した人たちからは、「アダム・ドライバーがカイロ・レンで本当に良かった」「この映画のベストパフォーマンス」「アダムドライバーに手を差し伸べられたい人生だった」「エモいとしか言いようのない」など、彼が演じたカイロ・レンことベン・ソロへの絶賛が相次いでいる。

その一方で、Netflix作品の離婚に向かう夫婦の物語『マリッジ・ストーリー』では各映画賞の主演男優賞に軒並みノミネートされており、アカデミー賞ノミネートも確実視されている。いま、半端ないキャリアの過度期にいる彼と、その彼が体現した『スター・ウォーズ』史上最も複雑なヴィランに迫った。


カイロ・レンを演じるため『七人の侍』を鑑賞


俳優アダム・ドライバーを『フォースの覚醒』('15)で初めて知った、という人は多いだろう。一部の映画ファンにはグレタ・ガーウィグ主演『フランシス・ハ』('12)の背の高い個性派イケメンとして認知され、レナ・ダナムが手掛けた海外ドラマ「GIRLS/ガールズ」では上半身裸がデフォルトで俳優志望の、一風変わった主人公の恋人役で知られていたアダム。ディズニーが製作する新たな『スター・ウォーズ』シリーズという超ド級の大作に起用されたことは正直驚きだった。

アダム・ドライバー『フランシス・ハ』-(C) Pine District, LLC.『フランシス・ハ』
『沈黙ーサイレンスー』(’16)『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(’14)など、ほかの作品からアダムを知った人は、朴訥で無口な青年やN.Y.の文化系男子などがハマる現代の性格俳優が、なぜ『スター・ウォーズ』のようなブロックバスター映画に出演しているのか不思議に思ったことだろう。

しかし、彼にとってはメジャースタジオだろうが、インディペンデント系だろうが関係ないらしい。与えられた役を全身全霊で演じることが、彼には最も重要なのだ。「壮大なSF世界の一員になるのも、例えば『フランシス・ハ』のようなヒューマンドラマの登場人物になるのも、結局は同じことだと思うんだ」と、『フォースの覚醒』のインタビューでも語っている。

そうは言っても、子どものころから夢中になった『スター・ウォーズ』だ。「圧倒されて固くなってしまう部分も確かにあったと思う。でも、そんな時、監督のJ.J.(エイブラムス)が言ったんだ。『1つの瞬間がまた1つの瞬間を生み、それが積み上がって出来上がるのが物語というものなんだ』とね。その言葉を聞いて、世界がパッと開けた気がしたよ。それでいいんだってね。僕はただ、瞬間ごとの真実を求めて積み重ねていけばよかったんだ」。

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』アダム・ドライバー/photo:Nahoko Suzuki役柄と素のギャップも魅力『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』インタビュー
また、カイロ・レンを演じるために、黒澤明監督の『七人の侍』や『隠し砦の三悪人』を鑑賞して役作りの参考にしたという。十字型ライトセーバーを手に不気味なマスクと黒装束に身を包んで登場した『フォースの覚醒』では、190cm近い長身と屈強な体格から繰り出される荒々しくもダイナミックなアクションを披露した。

シリーズの“異端児”と呼ばれる『最後のジェダイ』('17)についても、「非常に新鮮な作品に仕上がった」とポジティブにとらえており、「限界を突き詰める監督」ライアン・ジョンソンとのタッグに喜び、「革新的なアプローチで、あえて“あいまい”な人間性にスポットを当てている。観客の知性と想像力を信じているからなんだ」とインタビューで語っていた。

マーク・ハミル&アダム・ドライバー『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』レッドカーペット・イベント『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』レッドカーペット・イベント
かと思えば、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙ーサイレンスー』では約23kgもの減量を行い、やせ細った姿で宣教師を演じたことが話題に。「ほとんどの時間、お腹をすかせて、疲れていることは(演技にも)役に立った」とコメントしているアダム。さらには、凍るような海に飛び込むシーンも自らこなしており、役に命を吹き込み、それを最高のものにするための努力は惜しまない。

『沈黙-サイレンス-』(c) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.『沈黙-サイレンス-』
そんなストイックなまでの姿勢、決しておごりを見せない謙虚さは、紆余曲折を経てつかんだ俳優という仕事への感謝、作品に関わるほかのキャスト・スタッフへ敬意といった形でも表れ、ファンの心を掴んでいる。


『スター・ウォーズ』続3部作はレイとベンの物語だった


そして、公開されたばかりの『スカイウォーカーの夜明け』では、前作『最後のジェダイ』で暗黒面の師スノークを倒してファースト・オーダーの最高指導者となったことで、どこか風格と余裕すらも感じさせる佇まいに。冒頭から圧倒するライトセイバーのバトルでは、ワイルドさにさらに磨きがかかったようにも見える。

また、『最後のジェダイ』以上にフォースによる結びつきを強めたレイ(デイジー・リドリー)との関係も変化を見せていく。今作でも、フォースを通じてコネクトするレイとカイロ・レン。離れた場所にいても、すぐ傍にいるように語り合い、怒りも、恐れも、悲しみも、お互いの感じていることが手に取るようにわかる。

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』 (C)2019  Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
すでに来日記者会見やインタビューでも話題に上っているいるように、今回鍵となるのは「レイは何者なのか」という出生の秘密がついに明らかになること。その上で、お互いにとって唯一無二の存在であることを諭すカイロ・レンは、改めてレイに手を差し伸べるのだ。

しかし、一度破壊したマスクを再び被るようになっても、『フォースの覚醒』でレイの前で初めてマスクを外してみせたときの、瞳を潤ませた、繊細そうで神経質そうな青年の姿はいまでも我々の脳裏にある。レイとコネクトする間、そんな“ベン・ソロ”が覗く瞬間が今作においても幾度も登場する。

ベン・ソロは偉大すぎる伯父ルーク・スカイウォーカー、母レイア・オーガナ、そして父ハン・ソロという血筋のプレッシャーと背負った宿命に耐えきれず、それを祖父ダース・ベイダーへの崇拝に変容させ、暗黒面に傾倒していったが、そのマスクの下に恐れや悲しみを必死に隠してきた。レイからも「マスクの裂け目から怯えた顔が見える」と本質を突かれている。銀河を支配しようとする段階に来てもなお、“光と闇”の迷いの中にいるカイロ・レン/ベン・ソロ。自分が何者なのかを知ったレイと共に、本当の自分に向き合うことをついに試される彼の姿は、今作でも観る者の共感を誘うはずだ。

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』カイロ・レン (C)2019  Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
『スター・ウォーズ』は旧三部作で希望と救済、新三部作で転落と絶望を描いてきたが、続三部作とその全ての完結となる今作では再び希望と救済、さらに贖罪をテーマにしているのではないだろうか。エイブラムス監督から『フォースの覚醒』の時点で、カイロ・レン/ベン・ソロが巡る旅路について大筋を聞いていたといわれるアダムは、そのブラウンの瞳や表情に微細な心の揺れを宿らせ、今作でもベストアクトを見せる。

アダムが演じたからこそ、カイロ・レン/ベン・ソロはダース・ベイダーのように後世まで語り継がれるキャラクターとなることは間違いないだろう。しかも、ベイダーことアナキン・スカイウォーカーが暗黒面に堕ちた、そもそもの理由である“成し遂げられなかったあること”を実現させたという功績(と呼んでいいと思う)も人々の心に残り続けるはずだ。


元海兵隊の異色の経歴、NYの名門ジュリアードを卒業


1983年11月19日、カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。7歳のときに両親が離婚し、インディアナ州で育つ。高校時代に演劇を始める。9.11米同時多発テロが起きたことをきっかけに海兵隊に入隊するが、イラク派遣を前にマウンテンバイクの事故でけがを負い、名誉除隊。その後、1年間インディアナポリス大学に通った後、俳優を目指してニューヨークの名門ジュリアード音楽院に入学、という異色とも呼べる経歴の持ち主で知られる。

オスカー・アイザック&アダム・ドライバー(C)Getty Images
2009年に卒業後、ブロードウェイの舞台に出演し、クリント・イーストウッド監督『J・エドガー』('11)の端役でスクリーンデビュー。スティーヴン・スピルバーグ監督『リンカーン』('12)にも出演し、コーエン兄弟監督の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』('13)ではポー・ダメロン役のオスカー・アイザックとも共演(オスカーはジュリアードの先輩でもある)。2012年からレナ・ダナムが主演・監督・脚本・製作総指揮を務める「GIRLS/ガールズ」のアダム・サックラー役でレギュラー出演、エミー賞に3年連続でノミネートされるなど注目を集めるように。2014年には妻の育児ノイローゼに直面する夫を演じた『ハングリー・ハーツ』でヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞する。

『パターソン』/Photo by MARY CYBULSKI (C)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.『パターソン』
『スター・ウォーズ』の一方で、有名監督の話題作に相次いで出演。バスの運転手にして“詩人”を演じたジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』(’16)、チャニング・テイタムと兄弟役でイラク帰りの元海兵隊を演じたスティーブン・ソダーバーグ監督『ローガン・ラッキー』('17)、『フランシス・ハ』のノア・バームバック監督とは『ヤング・アダルト・ニューヨーク』、『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』('17)、さらに『マリッジ・ストーリー』まで組み、絶大な信頼を寄せられている。

『ローガン・ラッキー』UKプレミア (c)Getty『ローガン・ラッキー』UKプレミア

もっと知りたいアダム・ドライバー、ついにオスカー獲得か!?


『ブラック・クランズマン』で昨年度の第91回アカデミー賞に初ノミネートされたアダム。2019年は『スカイウォーカーの夜明け』にも出演するケリー・ラッセルとブロードウェイの舞台で恋人役で共演しており、日本では4作の映画が公開・配信されるなど、幅広い活躍ぶりを見せている。

オスカーも有力『マリッジ・ストーリー』Netflix配信中、劇場公開中


Netflix映画『マリッジ・ストーリー』
『アベンジャーズ』シリーズのブラック・ウィドウとして知られるスカーレット・ヨハンソンと離婚調停中の夫婦役を演じる。N.Yで小さな劇団を運営する舞台監督で、子どもに甘く、映画を観て泣く、負けず嫌いの良き父親チャーリーは、自身の浮気もあって女優の妻ニコールと離婚することに。ニコールは実家のあるL.A.に息子と移ってしまったことから、チャーリーは西海岸と東海岸を行き来しながら息子の親権争いをすることになるが、やがて泥沼化。2人の結婚生活には確かに、愛があったはずなのに…。

Netflix映画『マリッジ・ストーリー』
終盤で見せる、重箱の隅をつつくようなことまで持ち出し、顔を真っ赤にして涙ながらに罵り合う口論シーンは2人の真骨頂。キャリア最高の演技として賞レースを席巻している。

白人至上主義団体に潜入捜査『ブラック・クランズマン』発売中、配信中


『ブラック・クランズマン』(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.
黒人新米刑事ロン・ストールワースが白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)に潜入捜査したというまさかの実話を、スパイク・リー監督が映画化。デンゼル・ワシントンの息子で、クリストファー・ノーラン監督『TENET テネット』にも抜擢されたジョン・デヴィッド・ワシントンがロン役に。リー監督が第91回アカデミー賞脚色賞を初受賞し、来る米大統領選に向けて「レッツ・ドゥ・ザ・ライト・シング!」と自身の作品タイトルを引用したスピーチをしたことも話題となった。

アダムが演じたのは、ロンの身代わりとなって実際に団体に潜入するユダヤ系の同僚刑事フリップ・ジマーマン。ユダヤ系に対しても差別的なKKKに潜入することは、フリップにとっても人ごとではない。辛酸をなめながら、命の危険にもさらされながら潜入捜査に臨んでいく役柄を、時に軽妙さを見せながら好演した。

黒塗りの報告書は他人事じゃない『ザ ・レポート』AmazonPrimeVideo配信中


タイトルが意味するのは、9.11以降、CIAが行ったアルカイダ関係者などの拘留・尋問プログラムについて米上院の情報委員会がまとめた報告書のこと。原題では『THE TORTURE(拷問) REPORT』のTORTUREの部分が黒く塗りつぶされている。アダム演じる実在の人物ダン・ジョーンズが、5年近くもの年月をかけて、CIAの膨大な文書から残忍で非人道的な「EIT(強化尋問テクニック)」について調べ上げ、要約だけで500ページ、全7,000ページに及ぶ報告書にまとめ上げていく様を真摯に追った社会派ポリティカルサスペンス。

公文書が改ざんされたり、消えてしまったりする日本も決して他人事ではなく、映画『ゼロ・ダーク・サーティ』でも描かれたビンラディン捜索・殺害はこの“強化尋問”により知り得た情報としたいCIAや官邸から激しい反発がありながらも、ダンはレポートを(マスコミにリークするのではなく)正しい形で明るみにしようとする。9.11後に自分も何かをしたかったけれども実際にはできなかったアダムが、この調査にすべてを賭けた青年を、狂気に近い執念を覗かせながら抑えた演技で見せる。

ようやく完成!『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』1月24日(金)公開


『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』 (C)2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mato a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU
構想30年、企画が頓挫すること9回、ようやく完成した鬼才テリー・ギリアム監督の渾身作で、第71回カンヌ国際映画祭のクロージングを飾った。ジョニー・デップやユアン・マクレガーなどが次々降板した主人公のCM監督トビー役を演じるのがアダムだ。また、ギリアム監督とは『未来世紀ブラジル』('85)など4度目のタッグとなる英国俳優ジョナサン・プライスが、自らをドン・キホーテと信じる俳優役に。かつての才能を失った若手監督が巻き込まれていく、奇想天外な幻想世界。先日解禁された予告編では喜々として演じているようにも見えるアダムだが、果たして!?

ビル・マーレイらとゾンビ退治!?『The Dead Don’t Die』(原題)2020年春公開


『The Dead Don’t Die』 Credit : Abbot Genser / Focus Features (C) 2019 Image Eleven Productions, Inc.
アダムの出演作でも人気の高い『パターソン』のジャームッシュ監督3年ぶりの最新作で、第72回カンヌ国際映画祭オープニング作品として上映。アダムとビル・マーレイ、クロエ・セヴィニーが演じる田舎町の保安官たちがゾンビ退治をする(?)という驚きの内容。ティルダ・スウィントン、スティーヴ・ブシェミ、トム・ウェイツ、セレーナ・ゴメス、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズら豪華共演者にも期待が高まる。
《text:Reiko Uehara》

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