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『鬼滅の刃』大ヒットによる錯覚と、正念場を迎える2021年の映画界

本稿では、2020年の「主に北米をはじめとする海外」と「日本」、それぞれの映画界で2020年に起こったことについて、前後編に分けて振り返っていきたい。

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炭治郎『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
炭治郎『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
  • 炭治郎『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
  • 『犬鳴村』 (C)2020 「犬鳴村」製作委員会
  • 『劇場』(C)2020「劇場」製作委員会
  • 『劇場』(C)2020「劇場」製作委員会 
  • 『Fukushima 50』(C) 2020『Fukushima 50』製作委員会
  • Netflixアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会
  • 煉獄杏寿郎『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
  • 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
《text:宇野維正》

 2020年、日本映画の最初のサプライズヒットといえば、『犬鳴村』(最終興収14.1億円)が挙げられるだろう。2月7日に公開された同作は週間動員ランキングで2位に初登場すると、その後、10週にわたってトップ10をキープ。11週目からは日本全国に緊急事態宣言が発出されたためランキングそのものが発表されなくなってしまったが、同時期に公開されたアメリカ映画の『ミッドサマー』のスマッシュヒットと合わせて、日本におけるホラー映画興行の新局面を予感させた。そして、その予感は8月28日公開の『事故物件 恐い間取り』(最終興収23.5億円)の大ヒットによってより確かなものとなった。

『犬鳴村』 (C)2020 「犬鳴村」製作委員会『犬鳴村』
 そんな今年のホラー映画のヒットを支えていたのは主に10代、20代の観客層だったが、その層の映画興行への貢献が最も顕著に表れたのは緊急事態宣言明けの『今日から俺は!!劇場版』(最終興収53.7億円)、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(最終興収38.4億円)の連続大ヒットだった。いずれも民放のテレビドラマの映画化作品だが、これはゼロ年代に粗製濫造されたテレビドラマ映画の人気が復活傾向にあるというよりも、コロナウイルスに対する警戒心が比較的少なかった若い世代が、まずは劇場に戻ってきたと捉えるべきだろう。また、その背景には、同時期に公開が予定されていたハリウッド映画の大作が、軒並み翌年以降に公開延期となっていたこともある。6月以降、劇場、特に日本全国に展開している大手シネコン・チェーンで観られる作品の選択肢は狭まっていて、それは現在も回復してない。

 コロナ禍で、日本においても配信シフトへの動きは着々と進んだ。高齢層の観客の客足を中心に、既にコロナウイルス感染拡大の大きな影響が出ていた3月6日に公開された『Fukushima 50』は、日本全国に緊急事態宣言が発出された4月16日の翌日に、異例のタイミングでPVOD配信されることに。東宝映像事業部配給で6月5日に劇場公開を予定していたアニメーション作品『泣きたい私は猫をかぶる』は、劇場公開の延期を発表した4月27日のたった2日後の4月29日に、6月18日からNetflixで全世界独占配信されることを発表。松竹・アニプレックスの配給で4月17日に劇場公開を予定していた行定勲監督の『劇場』は、劇場公開の延期を発表した後に配給が吉本興業へと移行し、新たな劇場公開日である7月17日に、同時にAmazonプライムビデオで全世界独占配信されることとなった。

Netflixアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会Netflixアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』
 しかし、海外におけるドラスティックな配信シフトと比べると、日本のそれは限定的なものだと言えるだろう。何故なら、海外では多くの国で独占禁止法で禁じられている同一の資本による配給と興業の一体化が、日本では慣習的に許されているからだ。劇場公開もされた行定勲監督の『劇場』が配給会社を移さなくてはいけなくなったのも、大手シネコンチェーンでは上映することができず上映館数が極端に限られてしまったのも、それが理由だ。また、世界的に配信の2週間前に設定されているNetflixオリジナル映画の劇場公開作品も、日本の大手シネコンチェーン(独立系のイオンシネマを除く)では上映されることはない。そのような事情によって、結果的に日本の劇場は「守られた」ことになる。少なくとも、今のところは。

『劇場』(C)2020「劇場」製作委員会『劇場』
 そして、ご存知のように日本の映画界の状況を一変させたのは、10月16日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の歴史的大ヒットだ。その記録破りのスタートダッシュの要因については、同時期に公開されるハリウッド映画が一つもなくて異例のスクリーン数での公開が可能となったことが挙げられるが、公開から70日強しか経っていない年内に日本歴代興行収入記録を塗り替えるにいたっては、過去の映画興行のあらゆる常識を超えた社会現象と捉えるしかない。12月9日に発表された東宝の2020年11月映画営業部門興行成績速報によると、2020年11月の東宝の興行収入は154億2375万円。前年同月比は1063.3%。つまり、このコロナ禍において、東宝は昨年同期の10倍以上の興行収入を得たことになる。

煉獄杏寿郎『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』『千と千尋の神隠し』を抜いて歴代興行収入1位に
 しかし、『鬼滅の刃』一作で2020年の日本の映画界が救われたとするのは錯覚であり、大きな誤りだ(確かに東宝は救われたかもしれないが)。コロナウイルスのパンデミックは、人々の行動様式、海外メジャースタジオ作品の配給体制、独立系の映画配給会社や映画宣伝会社や『鬼滅の刃』を上映してない街の映画館やミニシアターの経営などに決定的な影響を与えて、その中には仮に2021年中に平常が戻ったとしても「戻ることがない」ものもあるだろう。2020年の映画界に本当は何が起こっていたのか?ーーそれに多くの人が気づくのは、きっと2021年になってからだ。

前編:ハリウッドがパンデミックで迫られる変革、現実味帯びる配信による「ニューノーマル」
《text:宇野維正》

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