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「アニメ映画の国」日本の確立と「発見された濱口竜介」がもたらすもの

 1位が『映画シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』、2位が『名探偵コナン 緋色の弾丸』、3位が『竜とそばかすの姫』。昨年の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の歴史的大ヒットに続いて、2021年の年間興収ランキングは国内アニメーション作品に上位が占拠されることとなった。

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『ドライブ・マイ ・カー』 (C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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  • 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(C)カラー
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《text:宇野維正》

 1位が『映画シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』、2位が『名探偵コナン 緋色の弾丸』、3位が『竜とそばかすの姫』。昨年の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の歴史的大ヒットに続いて、2021年の年間興収ランキングは国内アニメーション作品に上位が占拠されることとなった(きっとそこに現在公開中の『劇場版 呪術廻戦 0』も食い込んでくるだろう)。もちろん、エヴァやコナンや細田作品の強さは今に始まったことじゃないが、この結果の外的要因は明らかだ。

 まずは、昨年から外国作品に限らず国内作品の有力作でも公開の延期が続いてきたことで、ヒットが約束された有力アニメ作品に通常よりも多くのスクリーンが割かれ、公開期間も数ヶ月にわたって延々と伸ばすことができたことだ。昨年コロナショックに見舞われた映画興行界全体の要請もあったのだろう、強い作品への「選択と集中」がより強固に図られた1年だった。

 もう一つ大きな要因は、一つめとも重なるが、近年外国映画の配給では頭一つも二つも抜け出していたディズニーが配信シフト(劇場公開の同日、または翌日に配信公開)を図ったことへの日本の映画興行界からのリアクションとして、夏までに公開された作品は上映スクリーンが限定されていたこと。そして、上映スクリーンの縛りが戻ってからも、ディズニーが明らかにプロモーションの比重を劇場作品よりもディズニープラスの普及に偏らせていたことだ。国内アニメーション作品においては作品のステークホルダーでもある特定のテレビ局と一丸になって宣伝が繰り広げられ、ディズニー作品に関しては作品が公開されていることさえ周知されていない、といった環境の中で、このような結果となったのは必然だろう。

 2020年の国内年間興収トップ10に入ったのは『TENET テネット』1作品だけ。2021年の国内年間興収でトップ10に入ったのは『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』1作品だけ。もしこのような状況がこれからも続くようだったら、これまでの外国映画の配給や宣伝のシステムそのものが変わっていかざるをえないだろうというのが、映画業界で仕事をしている一人としての実感だ。

 そんな中で、2021年を代表する日本映画として例外的な作品を二つ取り上げたい。一つは、東京テアトルとリトルモアという独立系の配給作品でありながら、興収38.1億円をあげて年間6位(実写作品では年間3位)となった『花束みたいな恋をした』だ。このところ出演作が安定してヒットし続けている菅田将暉の(有村架純とのダブル)主演作、ドラマファンのあいだで絶大な支持を集めている坂元裕二脚本、先に述べたような同時期に公開されていた作品の手薄さ、などヒットの要因はいくつも挙げられるが、注目すべきは昨年のヒット作から続く傾向としての「若い世代の観客からの支持の高さ」だろう。また、映画のヒットがテレビや雑誌などのマスメディア主導からソーシャルメディアをはじめとするネット主導になってきたことも追い風となったに違いない。もっとも、その「追い風」は作品が本当に面白くなければ吹くことがないわけだが。

 もう一つの作品は、アカデミー賞授賞式同様に例年よりも2ヶ月遅く、7月に開催されたカンヌ映画祭で脚本賞、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞、AFCAE賞を受賞した濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』だ。本稿の前編でも述べた通り、今年は例年にも増して世界的にフランチャイズ作品ばかりに観客が集中し、スタンドアローン作品(オリジナル作品を含む非フランチャイズ作品)の足元が揺らいだ1年だったが、そのことも反映してアカデミー賞をはじめとする北米の主要な映画賞では、Apple TV+(日本ではGAGAの配給で劇場公開)の『コーダ あいのうた』、Netflixの『パワー・オブ・ザ・ドッグ』などの配信映画も含め、アートハウス系作品の健闘が予想されている。そして、その中でも有力作品としてここにきて俄然『ドライブ・マイ・カー』に注目が集まっているのだ。

 濱口竜介監督はカンヌ映画祭での受賞に先立って、ベルリン国際映画祭でも(日本では『ドライブ・マイ・カー』の後に公開された)『偶然と想像』で銀熊賞(審査員大賞)を受賞。そうしたヨーロッパでの旋風がそのまま北米にも伝播するという、同じアジアの映画監督として、まるで2年前の『パラサイト 半地下の家族』でのポン・ジュノ監督を彷彿とさせる現象が起こっているのだ。一貫してインディペンデントな体制で作品を作り続けてきた濱口竜介の快挙は個人に属するものであって、日本映画界の快挙ではないわけだが、『パラサイト 半地下の家族』の賞レース席巻以降、ドラマシリーズを含む韓国製作の映像作品がさらなる世界的躍進を遂げたようなことを、日本の映像作品にも期待される時代がやってきたのではないだろうか。

 しかし、もともと海外にもファンが多く実績も重ねてきている国内のアニメーション作品はまだしも、実写の日本映画や日本のドラマシリーズにその準備ができているとは、正直なところ思えない。Netflixをはじめとする配信プラットフォームから全世界に配信されている作品も、国内のビジネスモデル(オリジナル作品の多くは海外で見られることよりも国内の契約者数増加を目的としている)がそうさせているのか、稀に『全裸監督』や『浅草キッド』のように日本だけで話題になる作品はあっても、国外ではほとんど見られていない(今年は『イカゲーム』視聴後のサジェストによって『今際の国のアリス』まで海外の視聴者に見られるという現象が一時的に起こったが)。『ドライブ・マイ・カー』のような世界的に評価される作品だけでなく、そろそろ日本発の世界的なヒット作が実写作品からも生まれてほしい。


前編:中国市場の締め付けとシリーズ作品以外の危機
「パンデミック&配信シフト」以降も激震が続く映画界
《text:宇野維正》

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