※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【映画と仕事 vol.10】『佐々木、イン、マイマイン』プロデューサー・汐田海平が新サービス「uni」をはじめたワケ  映画と観客の幸せな関係とは――?

映画業界に携わる人々にその仕事内容について話を伺う【映画お仕事図鑑】。連載10回目となる今回は、映画の製作から宣伝、さらには「uni」を通じた映画にまつわる発信まで、多岐にわたって活躍する汐田海平さんに話を聞いた。

最新ニュース インタビュー
注目記事
「Shake,Tokyo」汐田海平代表
「Shake,Tokyo」汐田海平代表
  • 「Shake,Tokyo」汐田海平代表
  • 「Shake,Tokyo」汐田海平代表
  • 「Shake,Tokyo」汐田海平代表
  • uni

「uni」が導く映画と観客の出会い 映画を伝えるための“オーディエンス・デザイン”



――「Shake,Tokyo」でやられているお仕事について、詳しく教えてください。

まず映画『佐々木、イン、マイマイン』が最初の製作作品となりました。映画製作に関しては、既存の枠組みでは作りづらいテーマの作品であったり、新人監督や若い才能を最大化したいという思いでやってます。そうするにはやはり、誰かリスクを強く背負う人間がいないとダメなんですよね。それなら自分でもできるかもなって思ったんです。リスクを負うだけならできるぞと思ってしまいました(笑)。

それ以外には、広告などの映像制作の受託業務をやっていて、これが売り上げの大きな部分を占めています。会社が潰れないのはこれのおかげです。

もうひとつ、「オーディエンス・デザイン」と僕は呼んでいるのですが、映画を伝えるためにお客さんと積極的に関わっていくような活動をやっています。

――それが昨年、結成された「uni」と深く関わってくる活動ですね? 詳しく教えてください。

『佐々木、イン、マイマイン』以前にもいろんな作品に関わらせてもらってきて、宣伝業務のお手伝いなどもさせていただいてきたんですが、その中で、映画の観客(オーディエンス)と作品の関係性をちゃんと考えたいなって思うことが増えてきたんですね。

そのなかで始めたのが、松竹さんと共同で運営する、映画ファンのコミュニティ「SHAKE(シェイク)」で、コミュニティを中心に、もっと映画を楽しんでもらう仕掛けをしようという活動で、いまは100名ちょっとのメンバーがいます。

そしてもうひとつ、「映画との出会いを作る」というコンセプトで仲間たちと始めたのが「uni」というチームです。

「Shake,Tokyo」汐田海平代表
――先ほど「オーディエンスと作品の関係性をちゃんと考えたい」とおっしゃっていましたが、具体的に何がきっかけで、どのような思いを抱かれたんでしょうか?

きっかけはいろいろあったんですけど、いろんな作品に関わらせていただいたときに、いろんな手応えやリアクションを感じることもあった一方、映画祭の場ではものすごく受け入れてもらえても、劇場公開となると全然人が来なくて…みたいな経験もありました。そういうときは作品を届ける方法について考えてしまいます。

加えて昨年、経産省のプロジェクトでロッテルダムやベルリンの映画祭に若手プロデューサーを派遣するというプログラムがあって、行かせてもらったのですが、そこで海外のクリエイターと話をする中で「全然、日本とは考え方が違うな」とすごくショックを受けたんですね。

よく言われていますが、日本の映画ビジネスって特殊な部分が多くて、映画人口が約1億人いて、内需で全て完結できてしまうので、その1億人のパイをどう分け合って活用していくか? というビジネスモデルなんですね。

そうすると何が起こるか――? 例えば『佐々木、イン、マイマイン』という作品を盛り上げようという時、そこに誰が宣伝のためのお金を出すかというと、もちろん作品側が出すことになる。つまり宣伝が作品に寄り過ぎてるんですね。そこは本来、メディア、劇場、映画ファンなど、それぞれの利益のためにもみんなで盛り上げていく必要があるはずなんですけど、疑問に感じている人が少ない。作品が自分で自分の宣伝をする以外の方法があまりに少ないんです。そうした状況が進むと、基本的に原作の知名度の高さか出演者の人気でしか、映画を広めるためのフックを作れなくなってしまうんです。

そうなると映画を作る前から原作とキャストが決まった状態で企画がスタートして、監督の手に渡る頃には企画の概要が固まっていて、監督のクリエイティブの幅が狭くなってしまう。これは既に起こっている、ものづくりにとってよくない悪循環だと思います。

本来は映画会社や映画館、クリエイター、レーベル、コミュニティなど、それぞれにファンがつくような状態で、彼らに「この映画なら観たいな」って思ってもらうような流れ、構造を育てていかないといけなかったのに、僕たちはそれをやってこなかった。

そんな状況で、「とはいえみんな生活をしていかないといけないから…」と次から次へと新しい作品を回していかないといけない――。それって映画のコミュニケーションとしては速すぎるんですよね。そのコミュニケーションをもっとゆっくりにすることはできないか? と考えます。

もちろん、映画をたくさん見てくれる人たちの存在はすごくありがたいんですけど、その一方で、日本は公開される作品の数はものすごく多いのに、映画を観る人の数は多くないというミスマッチが業界的な構造として発生してるんです。

1本1本の作品を丁寧に選ぶカルチャーを作りたい――。そんな問題意識でこの活動を始めました。

マス広告ではないやり方で映画を届けるために



――人々に映画を届けるコミュニケーションの速度や形を変えて、届くべき人たちにきちんと作品を届けていこうと?

言い方が悪いですが、いまってインディーズであっても、多くの作品がやっているのは“しょぼいマス広告”であって、やっていることのベースは、大衆に向けたマス広告なんです。でもそれでは大作と比べて予算も人も少ないので、露出量で負けて、興行収入でも勝てない…。

一方でここ数年、小規模ながらに成功したと言える作品を考えた時、『カメラを止めるな!』も『愛がなんだ』もそうですが、これらの作品がマスに向けた広告を先立って打ったかといえば、そんなことはしていないんです。

そうした前例も踏まえて、小規模な映画なりの“伝え方”がきちんと確立されるべきだと思っていて、プッシュ型ではない、プル型の形を作っていけたらと思っています。

「PR」という言葉は「パブリック・リレーションズ」の略ですが、作品と観客の“関係性”をちゃんと作りたいし、それをやらないと、規模の大きな、宣伝費のある作品順にヒットするだけになってしまうと思います。

先ほども言いましたが、いま現在のような公開本数とスピード感で回し続けていかないといけないというやり方って、自分たちの首を絞めることになっていると思います。それは僕自身、映画を“届ける”立場であると同時に、“作る”側の立場としても感じていることで、果たして本当にこれだけの作品数が必要なのか?と思います。

日本が世界有数の公開本数を誇る、それ自体は素晴らしいことだと思いますし、多くの人に作品を作るチャンスがあるっていうのも大事なことです。一方、劇場、配給も含め「本当にこれだけの本数を掛ける必要はあるのか?」「そうでないと劇場が回らないというのは本当か?」ということは問い続けていきたいなと。

《text:Naoki Kurozu》

関連記事

特集

【注目の記事】[PR]

特集

page top