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ウェス・アンダーソンの世界を作る立役者の1人『フレンチ・ディスパッチ』美術監督に聞く 「狙ったのはバランス感」

ウェス・アンダーソン最新作『フレンチ・ディスパッチ』の世界観を形づくった、2007年『ダージリン急行』以来、コンビを組む美術担当アダム・ストックハウゼンにインタビュー。

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『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
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映像を見れば、すぐにそうと分かるウェス・アンダーソンの世界。その記念すべき10作目となる長編映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』もまた、石造りの建物が並ぶ20世紀フランスの架空の街や、クセの強い記者たちの仕事部屋を備えた「フレンチ・ディスパッチ」編集部のビルなどにワクワクがたっぷりつまった、見るも楽しい“1冊の雑誌”となっている。

スクリーンではカラフルな世界からモノクロへ、画角もワイドからスタンダードへ、描かれるストーリー(記事)に合わせて変幻自在に移り変わる独特の世界観を見事に形づくったのは、アダム・ストックハウゼン。2007年のウェス監督4作目『ダージリン急行』以来、コンビを組んでいるプロダクション・デザイナーのインタビューがシネマカフェに到着した。


印象深いのは『グランド・ブダペスト・ホテル』
「大変でしたが最高の週末でした」


「私は(『ダージリン急行』の美術)マーク・フィリードバーグの依頼でその映画の美術を担当していました。その映画で最初にしたことは列車のシーンの準備でした」とストックハウゼンはふり返る。「何度も同じチームで働けることはすばらしいことです。お互いの理解が深まり、阿吽(あうん)の呼吸が生まれますからね」。

ウェスとの創作の中ですぐに心に浮かぶのは、『グランド・ブダペスト・ホテル』だと言う。「ロビーを重層的に造りました。1960年代のロビーを1930年代のロビーの中に造ったのです。ですから、全体としてどのように見えてくるのか、完成するまで分かりませんでした―。他のシーンから頭をひねって想像するしかなかったのです」と話し、「週末に大急ぎでセット替えをすることもありました。60年代調を引っ剥がして30年代風に仕立てるのです。大変な作業でしたが最高の週末でした。今は良い思い出となっています」と回顧する。

『グランド・ブダペスト・ホテル』より

そのほかにも、ウェス監督作品の美術を手掛けていて、ふと“思い出してしまうような”楽しい瞬間はあったか尋ねてみると、「たくさん楽しい思い出がありますよ! 必ずしも大がかりなセットとは限りません。『ムーンライズ・キングダム』で、ボーイスカウトがカヌーで上陸するときのボブ・バラバンの浜辺のシーンでは、私たちは草むらにロープを持って入り、そのロープでカヌーを引っ張り上げました。こんな場面の撮影にはそう簡単には出会えません」と、確かに楽しそうにふり返る。


「脚本を読んでいてめまいが…」膨大なセットの数


とはいえ、本作に関しては「脚本を読んでいてめまいがしました!」とストックハウゼンは打ち明ける。「サゼラック(演:オーウェン・ウィルソン)の話で、この街をどう捉えるかが最初の難関でした。調査から取り掛かり、美術の取り組み方を下書きしてゆくことで、他の話も進展しだしました」。

複数の短編からなり、複数のセットを要する本作。その数は約130にも及んだという。「この映画の美術の罠はおびただしい数の、細心の注意を要する、幅広いことがらがあったことです。それを切り抜けることができたのは、信じられないほど優秀なチームがあったからです」と話し、「エリカ・ドーンは次々と雪崩のように押し寄せる画像の要求にこたえました。ステファヌ・クレッサン(美術監修)とイラストレーターとアートディレクターから成る先鋭チームは監督の要望を1つずつかなえました。リナ・ディアンジェロ(装飾)は懸命に各セットを彩りました」とスタッフ陣をねぎらった。


「すすけた感じがあってこそ美しい」
古いフランスの街並


舞台となる架空の街“アンニュイ=シュール=プラゼ”は、全てフランス西部のアングレームで行われた。フランスで最も古いバンド・デシネ(漫画)の祭典「アングレーム国際漫画際」が行われる地としても知られる。その町でのストックハウゼンの狙いは「バランス感」だったという。

「私たちがよく写真や古い映画で見る美しいフランスはいつもすすけています。そのすすけた感じがあってこそその美しさが成り立っています。その均衡がとれることでフランスの美はさらに増します」と明かし、「実際の街とのバランスを取るように常に気を遣いました。建物に水を撒く場合もありました。小穴がとても多い石でできた建物が多く、濡れると色が濃くなるのです」と教えてくれた。

そういった細部へのこだわりを発見するのも、観客の楽しみとなる本作。1回見ただけでは気がつかないような場面はあるか尋ねてみると、「なんと言っても<ビフォー/アフター>の画ですね。肉市場とそれがその後、地下鉄の入り口に変わった姿を隣り合う画で対比させるセクションです。これをどう見せるかを考えるのはとても楽しかったです」とストックハウゼン。

「静物画を描く部分もとても気にいっています。<ビフォー/アフター>はとても難しかったですが、とても楽しかったです。その後、監獄の余暇室での争いの場面の美術を手掛けました。オペラの天井画を描く素晴らしい画家のチームが背景画を描いてくれました」と、ベニチオ・デル・トロが監獄の中の天才画家モーゼス・ローゼンターラーを演じるシークエンスも付け加えた。


カギとなったのは伝説的名作『赤い風船』


さらに、編集長のビル・マーレイをはじめ、ティルダ・スウィントンやフランシス・マクドーマンド、オーウェン・ウィルソン、ジェフリー・ライトら、錚々たる顔ぶれが集う「フレンチ・ディスパッチ」編集部のセットでは、それぞれの記者の個性が映し出される部屋も必見ポイントだ。

ストックハウゼンは「それぞれの記者の執筆スペースに関しては、トルーマン・カポーティ、ゴア・ヴィダル、ベン・ヘクト、リュック・サンテ、エミリー・ディッキンソンほかの多くの実在の作家の書斎を参考にし、イメージのテーマにしました」と語り、「編集部全体のイメージには、どの新聞からか思い出せないのですが、参考となる素晴らしい写真がありました。広々としていて、再利用により記者の作業スペースとなった打って付けの佇まいでした」とヒントになった写真があったことを明かす。

この編集部のように、すすけた街の雰囲気とは極めて対照的な黄や赤、青が効いた色調も見どころとなる。「(先ほどの)美しさとすすけた感じのバランスという話に通じます。これを実現するために私たちは具体的な方法をとりました」とストックハウゼン。「映画『赤い風船』を参考のカギとしました」と、パリの路地裏に色鮮やかな赤い風船が映えるアルベール・ラモリス監督の1956年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品を挙げる。

「『赤い風船』では当時の街のほこりっぽさが背景にあることで、色彩のポップさが鮮やかに浮き上がっていることが分かります。もちろん映画に出てくる風船の色もそうですが、車の色も、お店の店先の色も効いています。最も重要なことは<古いすすけた建物を背景にした明るい対象物>というバランスを保っていることです」と、本作にもつながる色彩のマジックを打ち明ける。

現在、「残念ですが、まだあまりお話できない」というウェス監督の次回作をスペインで撮影中というストックハウゼン。次はどんなウェス・アンダーソンの世界を魅せてくれるのか、まずは彼らが創りだした20世紀フランスの街を堪能してみてほしい。

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は1月28日(金)より全国にて公開。

《シネマカフェ編集部》

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