"ロンドンらしさ"と多彩なムスリム女性のエナジーがぎっしり詰まった大傑作！「絶叫パンクス　レディパーツ！」

《text：野中モモ》

「絶叫パンクス　レディパーツ！」というタイトルを聞けば、レディパーツがパンク・バンドの名前であることはすぐに推測できるだろう。しかしこのバンドは、たぶんあなたがこれまで現実世界や映像の中で目にしてきたパンク・バンドたちとは一味違う。なんといってもメンバー全員がムスリムの女性なのだ。

これまであまり見たことがないけれど、ロンドンならもしかしたらこんなバンドが元気に大暴れしているかもしれない――このリアリティとファンタジーの配分がなんとも絶妙なコメディ・シリーズを生み出したのは、ニダ・マンズールという新進気鋭のクリエイター。シンガポールのパキスタン系ムスリム家庭に生まれ、10歳の時に家族でロンドンにやってきた移民の女性だ。大学で法律・政治学を学んだのち映像業界に入った彼女は、60年代から続く人気SFシリーズ「ドクター・フー」で２本のエピソードの監督を任されるなど順調にキャリアを積み、31歳にして初のオリジナルシリーズ「絶叫パンクス　レディパーツ！」を手掛けるに至った。

主人公のアミーナ（アンジャナ・ワサン）は博士課程で微生物学を研究する26歳の大学院生。はやく落ち着きたいという思いから結婚相手を探してお見合いを重ねているものの、失敗続き。親友の結婚式を前に気持ちは焦るばかりだ。そんな彼女は子供の頃からギターを弾くのが趣味なのだが、さまざまな理由から人前での演奏を避けている。しかし、ひょんなことからそのギターの腕前を見込まれ、同じムスリムとはいっても自分とはまったく違う生き方をしている女性たちのパンク・バンドに参加することに。最初は気がすすまなかったアミーナだが、次第にメンバーたちとの距離も縮まり、バンド活動の喜びに目覚めてゆく。

この物語とキャラクターに、ロンドンのムスリム・コミュニティで育ったマンズール監督自身の経験が反映されているのはあきらかだ。これまで映画やドラマであまりスポットが当たることのなかったムスリム女性の日常をコミカルに描いている時点でユニークなのに、さらに踏み込んで「ムスリム・コミュニティ内部の多様性」が前面に出されているのも面白い。

すごく保守的で厳格な家庭があれば、アミーナの両親のように比較的リベラルな人々もいる。レディパーツのメンバーの容貌だけでも、ギターボーカルでリーダーのサイラ（サラ・カミーラ・インビー）は頭髪を覆わずタトゥーだらけの腕を露出している一方で、マネージャーのモンタズ（ルーシー・ショートハウス）は目の部分以外を覆い隠すニカブを着用しているという具合に、スタイルに幅がある。ドラムのアイーシャ（ジュリエット・モタメド）は頭を覆うヒジャブをつけて鼻ピアス、ベースのビズマ（フェイス・オモーレ）はアフリカンなヘッドスカーフを巻いている。婚活に必死なアミーナとは対照的に恋愛・結婚に積極的になれない者、すでに母親になっている者、レズビアンなど、考え方やセクシュアリティもさまざまだ。

そして彼女たちが暮らすロンドンは、音楽が生活と共にある多文化都市だ。バッキンガム宮殿やビッグベンといった「観光客のロンドン」とは違う「生活者のロンドン」の風通しのいい雰囲気が画面に収まっている。幼い子供から高齢者までさまざまな世代が集う地域の公民館、小さなライブやポエトリー・リーディングのイベントが開催されるパブやバー、ハラルの精肉店にセクシーなランジェリーショップ。アミーナはイーストロンドンにある大学のキャンパスや公園の池のほとりでハンサムな男性を見かけ、胸ときめかせる。アイーシャはUberのドライバーとして街をゆき、ビズマはストリートマーケットの屋台で自主制作のコミックを売る（あまり売れないのだが）。ちょっと気分転換にバンドのメンバー揃って街の外の緑地に出かけるのも「ロンドンあるある」だ。

とはいえ、完全にリアリズムを指向しているわけではなく、衣装や美術には漫画的なセンスが光り、ポップな画面が目に楽しい。パステルカラーのヒジャブで装うムスリム女子大学生たちや自宅のインテリアにも心躍るかわいらしさがある。レディパーツの面々が心の中で「成功した自分」を夢見る場面には、ノルウェー出身のポップ・パンク・バンドSLØTFACEの曲「S.U.C.C.E.S.S.」に合わせてアニメーションが導入されるミュージック・ビデオ的な演出もあり、飽きさせない。

物語と密接に結びついたオリジナル楽曲の数々は、マンズール監督が兄（または弟）のシェズと姉（または妹）のサンヤ、　義理の兄（または弟）のベンニと共同で作詞作曲したもの。新型コロナウイルス感染症対策で外出制限が命じられた期間、キャストはシェズからオンラインで楽器演奏のレッスンを受け、撮影時には実際に演奏したそうだ。自分の思いを音楽で表現すること、また同じ空間で一緒に合奏することの喜びにも説得力が宿る。また、ザ・プロクレイマーズ「アイム・ゴナ・ビー（500マイルズ）」、レディオヘッド「クリープ」、クイーン「伝説のチャンピオン」といった中高年には懐かしい往年の名曲がドラマを盛り上げるのも見どころだ。

ロンドンにはマイノリティの女性たちがパンク・バンドを組んで自分たちの存在を世に知らしめてきた歴史がある。70年代にいちはやくパンクに反応したポリー・スタイリン（母親はスコットランド/アイルランド系、父親はソマリア出身）のX-レイ・スペックスから、ブラック・フェミニスト・バンドとして近年注目を浴びるビッグ・ジョーニーまで、彼女たちの勇気と革新性は性差別や人種差別が未だ解消されていない現在、ますます深く胸を打つ。「絶叫パンクス　レディパーツ！」は、そんなクールな女性たちの功績を踏まえて今の時代だからこそのジョークを散りばめた、心あたたまるコメディなのだ。

「絶叫パンクス　レディパーツ！」は字幕版・吹替版ともに「スターチャンネルEX」にて配信中。

「スターチャンネルEX」とは

映画とドラマを、観る。掘る。もっと。スターチャンネルEXは、独占作品を中心に、日本初上陸の最新海外ドラマとスターチャンネルの厳選映画が観られる動画配信サービスです。映画スターが出演するドラマや、有名映画監督が手掛ける話題のドラマ、スターチャンネルの映画レーベル最新作など、映画ファンが楽しめる“ここでしか観られない“作品の数々を月額990円(税込)で見放題！オンデマンド配信に加え「テレビ」と同じ感覚で映画や海外ドラマが楽しめる独自編成のライブ配信や、作品のみどころを掘り下げるこだわりの作品解説も充実。

初めての方には「初回7日間無料体験」にて、スターチャンネルEXのサービスを無料でお楽しみいただけます。 https://ex.star-ch.jp