人生はさまざまな選択の連続だ。
「あなたがやることはすべてが“選択”。今日もいい選択をするのよ」
アマンダ・サイフリッドが主演・製作総指揮を務める海外ドラマ「ロング・ブライト・リバー」で、主人公のミッキーは息子トーマスにそう伝える。
『レ・ミゼラブル』や『マンマ・ミーア!』で注目を集め、『Mank/マンク』でアカデミー賞候補にもなったアマンダ・サイフリッドがフィラデルフィアの貧困地区で生まれ育った警官役に挑んだ本作は、1人の女性とその家族、そしてコミュニティが“レジリエンス”(回復する力・再起する力)を発揮していく心揺さぶるヒューマンドラマの側面を持つ。

その力は、流れを止めることのないひと筋の川のように“長く輝く”光となって、疲弊しきった社会をいま照らしてくれる。
薬物の蔓延、権力の腐敗…ケンジントンが映し出すアメリカの縮図

全米で最も貧しく、最も薬物中毒者が多い地域のひとつとされるフィラデルフィア、ケンジントン地区。本作は、この土地出身のリズ・ムーアの経験から生まれたベストセラー小説「果てしなき輝きの果てに」(早川書房刊)を原作にした犯罪サスペンスドラマ。3月に全米プレミアされたばかりの最新作だ。
オバマ元大統領が毎年選ぶ“Favorite Books of the Year(今年のお気に入り本)”にも選ばれた原作小説を、「ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男」のクリエイターで、骨太なエンタメドラマに定評のあるニッキー・トスカーノがリズ・ムーアとともに脚色し、映像化。

主演のアマンダ・サイフリッドをはじめ、製作総指揮・監督陣には、アカデミー賞3部門受賞の映画『ブルータリスト』の脚本を担当したモナ・ファストヴォルドや、少年刑務所を舞台にした「バッド・ボーイ」が絶賛されているハガル・ベン=アシャー、「ジ・オファー」や「フュード/確執 ベティ vs ジョーン」など数多くのドラマを手がけるグウィネス・ホーダー=ペイトン、さらに『スパイダーマン』シリーズのエイミー・パスカルら、俊英の女性クリエイターたちが名を連ねている。
物語は、ケンジントン地区で若い女性の遺体が発見されるところから始まる。地元出身でフィラデルフィア市警のパトロール警官ミッキー・フィッツパトリック(アマンダ・サイフリッド)は他殺を疑うが、相棒のラファティ(ダッシュ・ミホク)をはじめ、署内の同僚や上司は“いつものこと”だと薬物の過剰摂取として処理しようとする。
しかし、遺体は他殺であることが判明。ミッキーは仲違いしたままの薬物依存症の妹ケイシー(アシュリー・カミングス)の行方を捜しながら、街角に立つ女性たちを次々と狙う連続殺人事件の犯人を単独で追う。
やがて、ミッキーはケイシーも関わる自身の過去が連続殺人事件と関係しているのではないかと疑い始め、過去の記憶を紐解いていくーー。

舞台となるフィラデルフィアといえば、アメリカ独立宣言が採択された都市として知られる。フィラデルフィア美術館の階段は映画『ロッキー』でロッキー・バルボアが駆け上がった、自由と理想、夢を追うことを肯定する象徴的な場所だ。
ところが、同市の中心部にあるケンジントン地区は近年、高架下やその周辺に麻薬の売人や常習者がたむろし、路上生活者がキャンプ生活を送っている。アメリカで社会問題化している「オピオイド」系麻薬が蔓延し、街は「ゾンビ・タウン」と呼ばれるほどの窮状だという。

その地で実際に撮影された本作は、荒廃したコミュニティをなんの修飾もなく映し出す。いわばケンジントンの街自体も、ドラマの主人公となっている。
街角に立つ女性が狙われるサスペンスから、温かな涙があふれ出すラストへ

麻薬欲しさに街角に立つ女性たちを、ミッキーの相棒ラファティは“あの手の女”と呼ぶ。
彼女たちは、麻薬を手に入れるためならば何だってするのだろう。嘘をつき、家族や気にかけてくれる人を裏切る。脅されながらセックスにも応じる。
ラファティだけではない。警察も行政も、自分の意思ではどうすることもできず、その選択しかできなくなった彼女たちに手を差し伸べるどころか、存在そのものを蔑視している。
ミッキーとケイシーも、この地域の負のスパイラルの中で育った姉妹だ。母親は薬物の過剰摂取で亡くなり、父親は行方をくらました後に死亡、姉妹は母方の祖父に引き取られて育ったことなどが、「現在」と「過去」を行き来しながら語られていく。

「お互いのママになる」と約束し、支え合ってきたはずの姉妹はティーンになり、放課後、地元の「警察青少年クラブ(PYC)」に通い始めたころから距離が生まれ始めた。
その当時は、トーマスの父親であるサイモン・クレア“巡査”(マシュー・デル・ネグロ)のグルーミングに気づかないほど自身も幼く、飲酒や麻薬に手を出すケイシーを冷たく突き放してしまったミッキー。
イングリッシュ・ホルンの演奏者になる夢も手放さざるを得なかった。「なぜ賢い選択ができないのか」と妹を責めたこともある。たったひとりの妹ではなく、サイモンを選んだことへの深い後悔と自責の念を抱えながらミッキーは大人になった。

人生に失望し、何度も裏切りを経験してきたせいで心を閉ざしてしまったミッキーは、元相棒のトルーマン(ニコラス・ピノック)や、大家のセシリア(ハリエット・サンソム・ハリス)といった身を案じてくれる人、窮地に駆けつけてくれる人さえもつい遠ざけてしまう。
負のスパイラルは、しばしば人の選択を誤らせる。誰を頼ればいいのか、誰に助けを求めればいいのか。心を開くべき相手を間違えさせてしまうのだ。

ただ、本作では袋小路に入り込んでしまったようなミッキーに、ひと筋の光が差し込む。信頼や敬意が失われた社会でも、孤独ではないと、人の体温を感じられる繋がりは途絶えていないと確信する道を彼女は選びとった。
たとえ「ゾンビ・タウン」と名づけられても、この街にはお互いを思いやる共感と連帯が息づいていたのだ。おかげで最終話では、安堵にも似た温かな涙があふれ出すことになった。

ケンジントンからほど近いアレンタウン出身のアマンダ・サイフリッドは、インタビューで「外の人々に避けられ、無視されてきた」ケンジントンのコミュニティこそ、「スポットライトを当てられるべき存在だと思いました」と強い使命感に駆られたことを語る。
「この作品はリアルに、現実に起こっていることを描いています。そして、地元のコミュニティがその本当の姿を描き出すことを助けてくれたことに感謝しています。そんな背景に支えられた徹底的なリアルさが、この作品の特長でもあります」とも明かしている。

もちろん主演としてもアマンダ・サイフリッドは、息子トーマスへのスパイラルを断ち切ろうと孤軍奮闘するシングルマザーを繊細に演じている。トラウマとなっている回想から我に返るシーン、少しずつ素直さを取り戻していく過程の微細な変化は必見である。
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また、映画『TIME/タイム』スターチャンネル新録版でアマンダ・サイフリッドの吹替を務めた折井あゆみをはじめ、咲野俊介、あらいゆい、天野心愛、立川三貴、駒谷昌男、小原雅人といった実力派声優陣による吹替版も、没入感をいっそう高めてくれるはずだ。
「ロング・ブライト・リバー」公式サイト
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