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【ネタバレあり】『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』7つの見どころ…マーベル最大の喪失を世界が受容する

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』ワカンダの国王ティ・チャラにしてブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンの亡き後、いったいどんな物語を紡ぐのか。ネタバレありでふり返り

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『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 ©MarvelStudios 2022
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 ©MarvelStudios 2022
  • 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 ©MarvelStudios 2022
  • 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』©Marvel Studios 2022
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『ブラックパンサー』の主演で、ワカンダの国王ティ・チャラにしてブラックパンサーを演じたリアルヒーロー、チャドウィック・ボーズマンの亡き後、いったいどんな物語を紡ぐのか。世界中が注目するなか、11月11日より公開された『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、日本では公開3日間で前作の138%となる興行収入を記録し、世界的にも大ヒットスタートを切っている。

“主人公不在”という前代未聞の出来事を、ライアン・クーグラー監督はチャドウィック=ブラックパンサーを喪ったことのグリーフワーク(グリーフ:悲嘆からの立ち直り)として、いわば追悼作品のように描ききった。「喪失と心痛、そして復讐を、MCUには稀有な成熟ぶりとシリアスさで描いていた」「俳優それぞれの道のりと追悼を全編に感じる」「あらゆる意味でMCU最高傑作のひとつ」と評論家陣から言われるのも納得。そして、シュリたちが直面する喪失の大きさは、もちろん私たち観客も共有することになる。

そのため、今作はMCUのどの作品と繋がっているとか、実はあまり気にしなくてもいい映画でもある。前作はチェックしておいたほうがベターだが、しいて言えば『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』くらいか。たとえ、それらを観ていなくても1本の新作映画として十分に楽しむことができるはずだ。

※以下、本作とこれまでのMCU作品のネタバレにふれています。ご注意ください。


★オープニングのマーベルロゴから涙…シュリの悔いと悲しみ


兄の病気を治させてほしい…」。シュリ(レティーシャ・ライト)がワカンダの神バースト(パンサーの女神)に祈る場面から幕を開ける本作。ワカンダのロイヤル・パープルに染まったチャドウィック追悼の特別版オープニングロゴから涙腺が決壊した方は多いだろう。ディズニープラスで配信中の『ブラックパンサー』も同様のロゴとなっている。

屈強なワカンダの守護者ブラックパンサー/ティ・チャラを襲ったのはヴィランではなく、不治の病だった。超文明国ワカンダで、物心ついたときからヴィブラニウムによるテクノロジーとともに育ち、あらゆる課題を科学とテクノロジーで解決してきたシュリは、兄の延命のためにハート型の“ハーブ”を人工で作ろうとするが間に合わなかった。飲んだ者に超人的なパワーをもたらす自生のハーブは、前作でキルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)がすべて焼き払ってしまっていたためだ。

シュリはずっと科学とテクノロジーの力を信じてきたが、愛する兄の命だけは救えなかったことを激しく悔い、なかなか彼の死を受け入れることができない。悲嘆と自己嫌悪の中で、1年もラボに籠もりきりとなっていた。

前作ではコミックリリーフ的な役回りでもあり、国王にしてヒーローである兄ティ・チャラを唯一からかうことのできる存在で、けらけらと無邪気に笑っていたのに、今作では“兄”不在の世界を生きていかなければならないシュリ。彼女が心の底からの笑みと安らかな表情を見せたのは、下の項で触れるラストシーンだけだ。

今回は、王位継承の儀式に代わりにやってきたジャバリ族のリーダー、エムバク(ウィンストン・デューク)や、国王親衛隊“ドーラ・ミラージュ”隊長のオコエ(ダナイ・グリラ)らが喪失感貫く劇中でユーモアを提供するキャラクターとなっている。


★母ラモンダの悲しみと葛藤


前作『ブラックパンサー』も喪失が始まりだった。『シビル・ウォー』で描かれた前国王ティチャカの死、そして1992年のカリフォルニア・オークランド、ティ・チャカの弟でキルモンガーの父ウンジョブの死。その後、キルモンガーという脅威の出現と、戦いと決着。今回もおおむねその流れを組み、海底王国タロカンを治め、マヤ神話の創造神で“羽の生えた蛇”を意味する“ククルカン”と呼ばれるネイモア(テノッチ・ウェルタ・メヒア)たちが新たな脅威となった。

それだけでなく、ワカンダの高い技術力と資源のヴィブラニウムを広く世界に開放すると宣言したティ・チャラの亡き後、母である女王ラモンダ(アンジェラ・バセット)は、“世界の安全保障”とかいう名目で「ヴィブラニウムを分けてよこせ」と迫る欧米諸国という別の脅威とも対峙する。ラモンダは毅然としてその要求を突っぱねるが、ヴィブラニウムで無敵の大量破壊兵器を作りたいアメリカやフランスの思惑のせいで、結果的にワカンダがタロカンから攻め込まれることになる。

夫を亡くし、息子を亡くし、そしてシュリまでネイモアたちにさらわれてしまったラモンダの悲しみや怒りもまた図り知れない。そんな彼女も、ネイモアの襲撃時にリリ・ウィリアムズを庇って命を落としてしまい、たった1人遺されたシュリがその復讐のために新たなブラックパンサーとして立ち上がることになる。


★CIAエージェント・ロスの上司“ヴァル”って誰?


前作でティ・チャラとシュリに命を助けてもらったことに恩義を感じるCIAエージェント、エヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)。タロカンの襲撃現場からキモヨビーズをこっそり持ち帰ると、ラモンダたちと秘密裏に情報を交換する。そんな彼を「ワカンダの専門家」と持ち上げながら、ちゃっかり盗聴していたのは、新しいCIA長官の“ヴァル”ことヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)。

“ヴァル”役ジュリア・ルイス=ドレイファス

彼女が実はロスの元妻だった、というのは衝撃の展開となった。ワカンダの力をもしアメリカが手にしたら悲劇になると話すロスに向かい、「その日を夢見てる」と返すデ・フォンテーヌ長官はやはり油断できない、恐ろしい存在。2人が離婚した理由がよく分かる。

デ・フォンテーヌ長官こと“ヴァル”は、ドラマシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」に初登場。キャプテン・アメリカの盾を一度継承して失敗したジョン・ウォーカーに名刺を渡していた人物で、さらに映画『ブラック・ウィドウ』のエンドクレジットにも登場して、エレーナに「姉ブラック・ウィドウの仇はホークアイ」と吹き込んでいたのが彼女。

2024年7月26日よりUS公開予定の映画『サンダーボルツ』(原題)にはヴァルがリクルートしたヴィランチーム、バッキーことウィンターソルジャーや、ジョン・ウォーカーことUSエージェント、『ブラック・ウィドウ』のレッドガーディアン、タスクマスターにエレーナ、『アントマン&ワスプ』のゴーストと、MCUの“クセモノ”たちが集結する。

『サンダーボルツ』(原題)

★アイアンハート=リリ・ウィリアムズがシュリと意気投合!


女性キャラクターたちが前作以上の大活躍を見せた今作。スピア(槍)での戦いにこだわるオコエよりも目新しいものを好むドーラ・ミラージュのアネカ(ミカエラ・コール)は、シュリが開発した“エナジー・ダガー”のほうが扱いやすいよう。悲しみを乗り越えた2人は新コスチュームを纏い、新たにミッドナイトエンジェルとなってタロカンと戦う。

また、アネカとドーラ・ミラージュの新隊長となったアヨ(フローレンス・カサンバ)は同性カップルとしても描かれていた。

そして注目は、MIT・マサチューセッツ工科大学の学生ながら“授業の課題”でヴィブラニウム探知機をうっかり発明したリリ・ウィリアムズことアイアンハート(ドミニク・ソーン)、19歳の登場だ。そのフレッシュさはシリアスな物語に活気を与え、シュリともすぐに意気投合。シカゴ出身ゆえ、シュリをブルズの試合観戦に誘う場面もあった。

リリ・ウィリアムズことアイアンハート役ドミニク・ソーン

2人とも幼い頃から発明が大好きで天才的な頭脳を持ち、既存の価値にとらわれない自由な精神と好奇心、探究心を持ち合わせていて共通点が多い。

ただ、潤沢な資源や資金のあるシュリとは違い、リリが車のパーツや身近なスクラップから工夫を凝らしてスーツを作り上げたのは、やはりアイアンマンぽい。鋼鉄を叩いて成形するところや、高度8,500mまで上昇して酸素不足となり急降下して海面すれすれで意識を取り戻すのも『アイアンマン』へのオマージュだろう。

ネイモアに捕らわれたとき、レイア姫やベルなどを例に出して“悪役はまずドレスに着替えさせる”と言うリリは、かなりの映画好きのようで、シュリとともにラボで作業する姿はピーター・パーカーも思い出させる。継父と「よく車をいじっていて」と何度も出てくるが、もしかしたらそれがトニー・スタークの可能性もあるのかも…。

アイアンハートことリリ・ウィリアムズは「ワンダヴィジョン」のモニカ・ランボーや、2代目ホークアイのケイト・ビショップ、カマラ・カーン/ミズ・マーベル、ジェニファー・ウォルターズ/シーハルクらに続く新しい女性ヒーローだ。今作のその後を描くドラマシリーズ「アイアンハート」(原題)が2023年にディズニープラスで配信予定で、2026年US公開予定の『アベンジャーズ』シリーズ第6弾『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ』(原題)にも登場する模様。今後のMCUのキーパーソンの1人となる。

「アイアンハート」(原題)

★シュリが共鳴した海の王ネイモアと、“あの人”


ネイモアが率いる海底王国タロカンは、ワカンダと同じく、ヴィブラニウムの恩恵を受けながら海中で栄えてきた。シュリはネイモアの案内でタロカンを見て回るうちに、彼が武力行使をしてでも守らなければならない美しい王国と民について知り、共鳴する。アフリカと同様、タロカンのモチーフになったマヤやアステカなどのメソアメリカも侵略・搾取されてきた歴史がある。ネイモアはタロカンとワカンダが手を組めば、外の世界は脅威ではなくなると考え、兄亡き後に「世界を燃やしたい」と吐露したシュリに共感を寄せていた。

なお、足首に羽根を持ち、空を飛べて、老化は遅く、肺呼吸と皮膚呼吸を使い分けるネイモアは自身を「ミュータント」と呼んでおり、『X-MEN』シリーズとの関連が予想されている。

だが、タロカンの襲撃によって母ラモンダまでも喪ったシュリは、ネイモアから譲られたヴィブラニウムで育った海草を編んだネックレスを用い、さらにティ・チャラのDNA情報も加えて再度、人工のハーブ作りに挑戦。そこで、ついに新生ブラックパンサーのパワーを手に入れる。パンサーらしい、しなやかなアクションはシュリにぴったりだ。

また、ティ・チャラがハーブを飲んだときには父ティ・チャカが幻覚に現れて彼を導いたが、シュリの幻覚に現れたのはまさかのキルモンガーことウンジャダカ! 仇討ちをするならやはり彼が背中を押すのか。彼もまたワカンダの秘匿主義を好まず、ワカンダの力で世界を制圧したいという野望を持っていたためか。シュリはウンジャダカが身につけたブラックパンサーのマスクを選択する。

とはいえ、シュリとキルモンガー/ウンジャダカが決定的に違うのは、彼女はワカンダやタロカンはもちろん、この世界を愛していること。『シビル・ウォー』で父の仇ジモ、前作でキルモンガー/ウンジャダカにとどめを刺さなかった兄ティ・チャラのように、ヒーローとして気高くあることを忘れなかったこと。それには「自分が何者かを示しなさい」と語りかけてくれた母ラモンダや、ナキア(ルピタ・ニョンゴ)、オコエ、さらに「神を倒したら、それこそ戦争が起きる」と進言したエムバクらの思い、いわばティ・チャラが遺してくれたものがあったからだ。

それに、ティ・チャラとはまた異なるブラックパンサーとなったのも、シュリの頭脳と才能があればこそ。


★落涙必至…MCU史上最もエモーショナルなラストシーン


ワカンダには、人は亡くなっても、バーストやセクメトという神のもと祖先たちと“緑の草原”に存在し続けるという死生観がある。ティ・チャラの死を1年たっても受け入れられないシュリに、母ラモンダは彼は常にそばにいて、サバンナで佇んでいるときにはそよ風に彼を感じたことがあるとも話していた。

そうした価値観には懐疑的だったはずのシュリが、戦いを終えた後、王位継承の儀式には参加せずに訪れたハイチのビーチで、そよ風に吹かれながら兄の存在を感じて静かに涙するシーンは本作で最もエモーショナルな場面。チャドウィックが亡くなっているため回想に現れるのは前作のティ・チャラ/ブラックパンサーなのだが、そこには兄の傍らで無邪気に笑うシュリ自身の姿もある。


★賛否両論!? のミッドクレジット


シュリが兄の面影と再会した感動も冷めやらぬうちに、ミッドクレジットに現れたナキアが連れていたのはティ・チャラとの息子、トゥーサン。ナキアがワカンダを去ったのは6年前との言及があり、トゥーサンも6歳くらい。まさしくティ・チャラのレガシーである。ワカンダの王座が重荷にならないようにハイチでひっそり暮らしてきたと言い、2人だけで葬儀もおこなったという。トゥーサンは言う。「僕の名前はティ・チャラ王子、ティ・チャラ王の息子」と。

ただ、少年の手を引いたナキアの姿が見えたとき、「おやおやおや?」と不安がよぎってしまったのも事実。ここまで女性たちが大活躍して、王女シュリが新しいブラックパンサーとなったところに男子が突然現れるとなると、話はちょっと違ってくるのではないか。大人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の新シリーズ「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」では、家父長制に女性主人公が必死に抗ったばかりなのだが…。

とはいえ、シュリは王になるよりもラボにいるほうが自分らしいことは自身でもよく分かっているはず。クーグラー監督もマーベル・スタジオもそれは承知のことだろうから、もしかしたら、王(王位継承者)と守護者ブラックパンサーは必ずしも同じ人物でなくていいという、これまでの前提を覆していく展開を示唆しているのかもしれない。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は全国にて公開中。


前作『ブラックパンサー』をDisney+で見る
《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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