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“優しい女性嫌悪”の存在を表に、『シスター 夏のわかれ道』で中国若手監督が語ること

家族関係や将来の進路など、人生の岐路に立つ女性の成長を描いた映画『シスター 夏のわかれ道』。自分の人生を生きるか、家族のために生きるか。女の子であるというだけで、苦労を強いられてきた彼女の選択が中国で議論の的になった話題作だ。

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『シスター 夏のわかれ道』© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved
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家族関係や将来の進路など、人生の岐路に立つ女性の成長を描いた映画『シスター 夏のわかれ道』。自分の人生を生きるか、家族のために生きるか。女の子であるというだけで、苦労を強いられてきた彼女の選択が中国で議論の的になった話題作だ。

看護師のアン・ランは、ある日突然、両親を交通事故で亡くす。疎遠だった両親が遺したのは、それまで交流のなかった6歳の弟ズーハンだった。親戚たちは、当然のように姉であるアン・ランが育てるべきだとズーハンの世話を押しつけるが、彼女は医者になるという夢をかなえるべく、北京の大学院受験を準備していた最中だった。アン・ランは、ズーハンを養子に出すと宣言。親戚や周囲からの「姉なんだから」という決めつけに必死に反発するが、ズーハンと暮らすうちに、振り回されながらも姉弟の情が芽生えていく。最後に彼女が下す決断は――。

大人になって気づく、根深い男女差別の存在


この物語には、家族の問題という一言では語りきれない背景がある。1979年から2015年まで中国で実施された一人っ子政策の影響で、男尊女卑の考えが根強い親や祖父母らに望まれず生まれた女性たちが少なからずいたという現実だ。

監督を務めたのは1986年生まれの新鋭イン・ルオシン。彼女は、家族の中で女児が軽視されてきた情況は、一人っ子家庭に限らないと語る。

「実は私のまわりにも、アン・ランのように、男子を望んでいた親から軽視されて育ったと感じている女性たちがいます。一人っ子に限らず、2人や3人子供がいる家庭で育っている場合も同様で、女の子であるがために、父母だけでなく、祖父母の世代からも兄弟とは差別されていたというのです」。

イン・ルオシン監督

中国の農村部では働き手として男子を望むケースが多く、それによって人口における男女比の不均衡が起きているという現象は日本でも報じられることが多い。しかしイン監督は、農村部に限った話ではないと言う。

「この映画の舞台には成都を選びました。四川省の省都であり、国内外の情報も比較的よく入る開かれた大都市でも、アン・ランのような境遇の女性がいると伝えたかったからです。一見、男女平等が実現している都市部でも、いまだに差別が存在し、一部の女性は生まれながらにして疎まれる。表面的には彼女を尊重し、理解を示しているけれども、いざという時に行く手を阻む“優しい嫌悪”が存在するのです」。

「たとえばアン・ランが、男性との競争が激しい医者を目指すより、地元の専門学校に行って看護師になれと父親に強要され、医学部受験を断念したように。さっさと学業を終えて就職し、親を養えという考え方であり、それが正しい女の子の生き方だと思われていたからです。こうした差別の存在を、映画を通して表に出すべきだと思いました」。

同じような差別を、2019年に中国で大ヒットしたドラマ「それでも、家族~All is Well~」(原題「都挺好」、CS放送「女性チャンネル♪LaLa TV」で放送中)でも観ることができる。主人公は、2人の兄ばかり贔屓する両親と反目し、早くから自活してキャリアを築いた女性だ。親子関係や高齢の親との同居問題など、家族の「あるある」を描いて本国で大きな反響を呼んだ。

筆者には中国に主人公と同世代の友人がいるが、このドラマについて話した時、「かなり大げさ」と笑っていたことが気になった。確かにドラマは誇張してはいるが、留学経験があり、都市部の恵まれた環境で育った彼女たちは、家庭内で男女差別を感じたことはないという。それこそ、『シスター』を通じてイン監督が指摘したかったことではないだろうか。

「まわりに差別を受けている女の子がいても、幼い頃は分からなかった。大人になり、故郷に帰った時、家族や友人らと話したりする中で、実は彼女たちがどんな経験をしてきたのか、初めて気づくことになるのです。私の高校時代の同級生が、この映画を観た感想を寄せてくれました。実は幼い弟がいることを、ずっと秘密にしていたという内容でした。なぜ秘密にしたのか? 彼女がどんな苦しい思いをしていたか、想像できます。アン・ランはこうした女性たちの縮図でもあるのです」。

『シスター』が描く差別は、一人っ子政策という特殊な政策が施行された中国だけのものではなく、日本や韓国などでもいまだに残る男尊女卑的な価値観だ。共働きが当たり前で男女平等をうたってきた中国も例外ではなかったという事実を若い映画監督が語り始めたことが心強い。

「世界はあなたたちのもの」若い女性たちへのエール


『シスター』は、中国映画のこれからを担う新しい女性の作り手、キャストで作り上げられた作品だ。アン・ランを演じる張子楓(チャン・ツィフォン)は、2001年生まれ。中国では子役から活躍している人気者で、映画の名門大学・北京電影学院に在学中の若きベテランだ。この映画の撮影時は、役柄の設定より5才も若かった。イン監督は、「アン・ランは様々な葛藤や痛みを抱えた女性ですが、ツィフォンはそんな感情に入り込み、苦しみを味わうことを恐れない優れた俳優」と彼女を絶賛する。また、脚本を手掛けたヨウ・シャオイン(『妻の愛、娘の時』など)は、イン監督の大学時代のルームメイトでもある。

この映画の大きなテーマの1つに、女性たちの連帯がある。アン・ランに姉として弟の面倒をみる義務を説く伯母の描写が象徴的。彼女は自分の人生の全てを、弟たちを支えるために捧げてきた世代だ。

「伯母のキャラクターは、私たちの母親世代のイメージを形にしたものです。苦労を厭わず、不満を言わず、家族のために自分を犠牲にしてきた。中国を含め、アジアの多くの家庭では、家族の間で愛情や自分の過去について語ることは少ないと思います。特殊な情況を除いて。劇中、伯母はアン・ランに自分の過去を語ります。『私と同じ道を歩むな』と」。

伯母の告白を通して監督が若い女性たちに伝えたかったのは、自分の意思で新しい道を歩んでほしいというメッセージ。「なぜなら、この世界は、あなたたちのものだから」。

アン・ランは葛藤の末にどんな決断を下すのか。その選択が、本国では賛否両論を呼んだ。否定的な意見も多かったが、アン・ランの人生は観客にだって決められないし、予測もできない。ただ彼女はその時、彼女が心から欲しかったものを確かに選択する。あなたは、このラストをどう受け止めるだろうか?

《新田理恵》

趣味と仕事が完全一致 新田理恵

大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、日中友好関係の団体職員などを経てフリーのライターに。映画、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆するほか、中国ドラマ本等への寄稿、字幕翻訳(中国語→日本語)のお仕事も。映画、ドラマは古今東西どんな作品でも見ます。

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