洋画吹替えのこれからを想う
──洋画の吹替えはもちろん、アニメシーンでも長いキャリアを歩まれていますが、改めて吹替えとアニメのお仕事での違いとは何ですか?
単純に生身の人間が一旦演じているものですから、自分がどんなふうにしたいかってことはさておいて、本作で言えばヴァネッサさんが演じたかったものを汲み取って、どれだけ日本語でも寄り添えるかってところですよね。そうやって作品の全体の方向性に寄り添うことが何よりも大切で、アニメとかは本当に音楽も何もないところにまず声を当てていくので、いろいろなアプローチの違いがあります。映画の吹き替えのお仕事も長くやってきて、自分としてはすごく好きな仕事です。
吹替えってどれだけ人にとってニーズがあるのか、これからどう変わっていくのかわかりませんが、やはりマーベルもそうですけど世界中のいろんな言語で吹替えを作られていることは、その国語で聞くことでより一層作品への没入感を高め、その国の価値観を投影しながらより共感を持って観られるようにする工夫でもあると思うんです。
今いろいろと技術が発達して、いつかはなくなるお仕事かもしれないって想像もしながら、でもヴァネッサさんとの呼吸の合わせ方とか、生身の人間同士だからできること、きっとあるだろうなと思ってやっています。今回はそれが難しい部分でもありましたが、最終的には寄り添える音声になっているんじゃないかなと思っています。

──長年洋画の吹替えを務めてきた坂本さんだからこそ、吹替えの現場の変化や、これからどんなふうになっていくのか想像した時に感じるものは何ですか?
なんでしょうね、でも本作でいえばアメリカのスタッフさんも「吹替えは日本に任せるよ」ってわけでなく、一緒に作ってくれる感覚があって。それはすごく良いことだと思うんです。やはり現場で作っている人にしかわからない思い、キャラクターの描き方、作品のテーマってあって、日本版は日本版だけの解釈を作るのではなく、意見を交換しながら一緒に作っていける環境がありました。作品の一部として深く携われているって実感にもなってとても誇らしいし、言語の壁を超えてより多くの人に作品を楽しんでもらいたいという願いは共通のものだと思います。
今回すごく面白かったのは、最新作なのにレトロ・フューチャーな世界観の作品なので、少しだけ古風な音声作りをしたことですね。たとえばテレビ司会者の語り口調とか、街の人の短いセリフなどでも、60年代らしい独特な雰囲気をまとっているというか。日本版でもその時代ならではの特徴を捉えた演じ方を大切にされているなと思いました。私もスーを演じながら、あまり現代的な表現になりすぎないようにと心掛けていたんです。だから最新作でありながら、懐かしいものになっている、そういう面白さがありましたね。
──最後に、本作を日本版で楽しみにしている観客に向けてメッセージをお願いします。
吹替えは映像に没入できる良さがあると思うので、劇場で映像に釘付けになりながら、日本版ならではの良さを味わって楽しんでいただけると嬉しいです。あと、マーベルはたくさんの作品があって追えなくなってしまう方も多いと思いますが、「どこから観たら良いかわからない」っていう方は改めてここから観てください、っていうのが『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』なので、マーベル作品はこれが初めて、という方もぜひ観ていただければと思います。


