かつての韓国ドラマのヒロインは、財閥の御曹司に愛され幸せをつかむ“シンデレラ型”が定番だった。ところが近年は、自ら人生を切り開く女性たちが強い存在感を放っている。その姿には、価値観や社会が大きく変化した現代韓国が映し出されているのだが、韓国ドラマが描く「新ヒロイン像」とは、どのような女性たちなのだろうか。
【関連】ロマンスの裏で重なる設定ミス。『21世紀の大君夫人』視聴者が抱いた“違和感の正体”とは?
「愛される」より「生き抜く」ヒロインたち
近年の韓国ドラマで支持を集めているのは、『愛の不時着』(2019)のユン・セリ(演者ソン・イェジン)や、『涙の女王』(2024)のホン・ヘイン(演者キム・ジウォン)に象徴される、「自ら決断し行動する女性」たちだ。恋愛・結婚だけを人生のゴールにせず、仕事や格差、ルッキズム、権力、孤独──厳しい現実と向き合いながら前に進む。
その姿には、現代社会を生き抜くための強さとしたたかさがにじむ。また、彼女たちは完璧な聖女ではなく、傷や欠点、時には毒っ気まで抱えながら、それでも進み続ける点も特徴だ。「誰かが幸せにしてくれる」のを待つのではなく、「自分で幸せをつかみにいく」――それが、いま韓国ドラマで支持される新ヒロイン像なのである。
新時代のヒロインが活躍する話題作
『素晴らしき新世界』(2026)
▼ヒロイン:シン・ソリ(演者イム・ジヨン)

朝鮮時代の稀代の悪女カン・ヒビンの魂が、現代を生きる無名女優シン・セリに憑依して巻き起こるラブコメディで、セリは突然放り込まれた現代社会の中で、持ち前の賢さと度胸で道を切り開いていく“突破型ヒロイン”と言える。
財閥や男性中心社会にもひるまず、情報力と判断力を武器に主導権を握ろうとする姿は、同性からも憧れられる“ガールクラッシュ”系ヒロインそのものだ。「かわいそうな女性」として扱われることを拒み、傷つきながらも前に進み続ける姿は新鮮で、自分の欲望や成功願望を隠さず、“生き残るために戦う”ことを選ぶ点もすがすがしい。
『21世紀の大君夫人』(2026)
▼ヒロイン:ソン・ヒジュ(演者IU)

立憲君主制が続くという設定の現代の韓国を舞台に、財閥家の娘でありながら「婚外子」という立場への葛藤を抱えるソン・ヒジュ。恵まれた環境に安住せず、“お飾りの女性”として生きることを拒むヒロインだ。
王室、財閥、世論という巨大な権力構造の中でも、自分の意思と感情を失わず、不足している「身分」を得るため、自ら王族に婚姻という取引を持ちかける。与えられた運命を受け入れるのではなく、自らの野心と戦略で人生を切り開いていく。また、家柄や財力を“守られるため”ではなく、自ら人生を選び取る力として使いこなしている点も新しい。
『サラ・キムという女』(2026)
▼ヒロイン:サラ・キム(演者シン・ヘソン)

高級ブランド店員だった女性が、架空のセレブ「サラ・キム」になりすまし、高級ブランドを築き上げていく。やがて彼女は不可解な殺人事件に巻き込まれ、欲望と野心が渦巻く世界へと足を踏み入れていく。
泥臭い絶望から這い上がり、他者の欲望すら利用しながら頂点を目指し、韓国社会に根強く残る「スジョ(匙/親の経済力で決まる階級を表す新語)」の壁を、自らの強烈な上昇欲求と執念で突破していく。
また、貧困や格差を“かわいそうな境遇”として受け入れるのではなく、這い上がるためのエネルギーへ変えていく点が際立っている。周囲に見下されても、自分の価値を他人に決めさせず、自ら選択し続けるサラ・キムのしたたかさと生命力が強い印象を残す。
『マスクガール』(2023)
▼ヒロイン:キム・モミ(演者イ・ハンビョル、ナナ、コ・ヒョンジョン)

外見に強い劣等感を抱える平凡な会社員キム・モミは、夜になるとマスク姿のライブ配信者として承認欲求を満たしていく。やがて凄惨な事件に巻き込まれ、整形、逃亡、収監へと転落していくが、それでも立ち止まらず、運命にあらがい続ける。
韓国社会に根深く存在するルッキズム(外見至上主義)を背景に、1人の女性の壮絶な人生を3人の女優が演じる本作でモミは、欲望や怒り、醜さまでむき出しにしながら、「清潔感のある理想的なヒロイン」とは真逆の存在だ。
それでも彼女が強く心に残るのは、「きれいに生きる」ことではなく、「どれほど傷ついても生き延びる」ことを選び続けたからだ。ルッキズムと競争社会の中で、「強くならざるを得なかった」女性の姿を体現した、“生存戦略型ヒロイン”と言える。
韓国ドラマの新ヒロインたちは、単なる強い女性ではない。年齢や立場に縛られず、「誰かの妻」「誰かの母」ではなく、自分自身の名前で人生を切り開こうとする姿が、日本と韓国の視聴者から幅広い共感を得ている。現実では簡単にできないことを、彼女たちは傷つきながらも堂々とやってのける。その姿に勇気づけられ、時には解放感を覚える人も少なくない。
恋愛のときめきだけではなく、「自分の人生をどう生きるか」を考えながら楽しむ──それが今、韓国ドラマの新たな視聴トレンドとして定着しつつある。
(文=田名部 知子/Xで気ままなソウルの日常を発信中:@t7joshi)
■【関連】『素晴らしい新世界』主演イム・ジヨン、多才な魅力で視聴者を魅了した!


