『火の女神ジョンイ』の主人公ユ・ジョンは、最初から恵まれた環境で育ったわけではない。
彼女の人生は、陶工たちの激しい争いと、母の死、そして隠された出生の秘密から始まる。のちに朝鮮最高の女性陶工を目指すジョンイだが、その運命は、生まれた瞬間から宮廷と陶磁器をめぐる因縁に巻き込まれていた。
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物語の発端となるのは、2人の沙器匠による対立である。優れた陶工ユ・ウルダムとイ・ガンチョンは、王室用の陶磁器を製造する司甕院分院で、官職の座をめぐって競い合っていた。
高い技術を持つウルダムの存在を疎ましく思ったガンチョンは、正面から技を競うのではなく、策略によって彼を陥れようとする。ウルダムは濡れ衣を着せられ、罪人として収監されてしまう。
やがて恩赦によって釈放されたウルダムは、司甕院分院の窯の前で、女児を出産したヨノクと出会う。ヨノクはすでに死を目前にしていた。彼女はウルダムに、生まれたばかりの娘を託して息を引き取る。
こうしてウルダムは、赤ん坊を自分の娘として育てることを決意する。その子につけられた名前が、ユ・ジョンだった。
出生を知らずに育ったジョンイ
ジョンイは、自分がウルダムの実の娘ではないことを知らないまま成長する。活発で好奇心が強く、土や窯に囲まれた環境で育った彼女は、幼い頃から陶磁器に特別な感覚を見せていく。

しかし、その才能の裏には、本人さえ知らない出生の秘密があった。
ヨノクはなぜ窯の前で子どもを産んだのか。ジョンイの本当の父親は誰なのか。そして、彼女の誕生が陶工たちの対立とどのようにつながっているのか。
物語が進むにつれて、ジョンイの出生は、単なる家族の秘密ではなく、司甕院分院の権力争いや過去の因縁と深く結びついていたことが明らかになっていく。
山中で出会った少年の正体
おてんばな少女に成長したジョンイは、ある日、山中で一人の少年と出会う。自らを王子だと名乗るその少年こそ、のちに朝鮮王朝第15代王となる光海君(クァンヘグン)だった。
自分の出生を知らない陶工の娘と、王位をめぐる争いに巻き込まれていく王子。身分も立場もまったく異なる2人は、この偶然の出会いをきっかけに、互いの人生へ深く関わっていく。
ジョンイにとって光海君は、ただの恋の相手ではない。宮廷という、自分とは無縁に見えた世界へ彼女をつなぐ存在でもある。
一方の光海君にとっても、ジョンイは王子として扱わず、率直に接してくる特別な少女だった。
2人の関係は、やがて陶工たちの因縁、宮廷内の権力争い、王位をめぐる政治的な対立に巻き込まれていく。
窯の前で生まれ、出生を知らずに育った少女が、陶工としての才能を開花させ、やがて王子と運命を交差させていく。ジョンイの人生を形作ったのは、血筋ではなく、彼女自身が土と炎に向き合い続けた時間だった。
『火の女神ジョンイ』は、王子に愛される少女の物語ではない。生まれながらに背負わされた因縁を、自らの技術と意志で乗り越えていく女性の物語なのである。
文=森下 薫
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