【シネマモード】この人に会いたい!『パリ20区、僕たちのクラス』L・カンテ監督

中学校は、あなたにとってどんな場所でしたか? 楽しい思い出ばかりなら、あなたはかなりの幸せ者。学校は社会の縮図とも言われます。大人の世界の問題が、そのまま子供の世界に反映されているとも。そう、なかなか深刻な世界なのですよね。もしかすると、私たちが知る時代に比べ、いまはよりシビアな問題も多いのかもしれません。

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『パリ20区、僕たちのクラス』 - (C)  Haut et Court - France 2 Cinema
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  • ローラン・カンテ
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中学校は、あなたにとってどんな場所でしたか? 楽しい思い出ばかりなら、あなたはかなりの幸せ者。学校は社会の縮図とも言われます。大人の世界の問題が、そのまま子供の世界に反映されているとも。そう、なかなか深刻な世界なのですよね。もしかすると、私たちが知る時代に比べ、いまはよりシビアな問題も多いのかもしれません。

そんな子供たちの世界をリアルに描いているのが、フランス映画界の俊英ローラン・カンテの『パリ20区、僕たちのクラス』です。第61回カンヌ国際映画祭で、『悪魔の陽の下に』のモーリス・ピアラ監督以来21年ぶりにパルムドール(最高賞)を、開催地フランスにもたらしたこの作品。全く演技経験のない24人の子供たちが見事な表現力で、観客をパリ20区にある、とある中学校の教室へと誘ってくれます。登場する子供たちと同世代の観客からも厚い支持を得たという本作。監督が来日すると聞き、会いに行ってきました。

監督にお会いして、まずは遅ればせながらパルムドール受賞へのお祝いを述べると…。
「ありがとう。受賞にはすごく驚きましたよ」との言葉。というのも「この作品は、フランス的すぎる、実験的すぎるなどと批評されてきましたから。教室の中で、生徒たちと撮影してきたもので、いままでの映画の手法とは全く違います。パルムドールを獲るような作品ではないという雰囲気はありましたから」とのお話。ただし、カンヌで初めて観客の前で上映されたとき、その反応を見て、自分たちがやろうとしていたことが上手く機能しているという手応えを感じたといいます。「ただ、そんな良い反応を得てはいても、パルムドールを獲るなどとは思っていませんでした。ですから、会期の最後まで子供たちも帰らずに残っていてくださいと映画祭側から言われたときも、何か子供たちが受賞するんだなと思っていただけだったんです。ところが、段々と賞が発表されていくにつれ、自分たちがいつまで経っても呼ばれないという現実を目の当たりにし、ああ、パルムドールなんだなという実感が湧いてきました(笑)。受賞時は、賞を獲ったということに加え、受賞の喜びを晴れの舞台で、子供たちと分かち合えたことが本当に嬉しかったんです。これは個人の映画ではなく、集団の映画ですからね」。

21年ぶりにフランス作品がパルムドールを獲得したとはいえ、その瞬間ですら特に自分がフランス人であることを自覚しなかったというカンテ監督。
「ただ、モーリス・ピアラのことは考えましたが。彼は私が敬愛する監督の一人。自分にとっては大切な人。彼がパルムドールを獲ったときは、賛否両論ありました。受賞にはひと悶着ありましたから、そういった経緯を思い出しながらの受賞ではありましたね。また、受賞の言葉として、知性あふれたことを言わなければと感動しながらも冷静に考えていましたっけ(笑)。ただ、これだけは強調しなければと思っていたことがあります。一緒にいた子供たちの中には、若いため、また海外出身の移民であるために軽んじられてきた者もいますが、それこそフランスという国の多様性を象徴しているということであり、ステージに上がった彼らこそが、フランス社会を象徴している存在なんだということです。彼らにとっても自分たちを改めて認めてもらえ、自分たちの存在をしっかり考えてもらえる良い機会になったと思います」。

それこそが、本作を作ろうと思ったきっかけなのでしょうか?
「そうですね。それだけではないですが。多様性というものが、子供たちにとっていかに素晴らしいことであり、彼らが体現しているフランス社会にとってもいかに恵みであるのか伝えたかったんです」。

では、そのほかの理由とは?
「学校というのは、未来の社会、未来の世界市民を作り出す場だと思うんです。そして、子供たちが自分自身で考えることを学ぶ場だとも思っています。その学校がどのように機能しているのか見てみたいという興味、好奇心もありました。実は学校というところは、教師、生徒以外の人には、秘密の場でもありますからね。ティーンエイジャーの持つエネルギーや、軽蔑的に見られている彼らの姿を別の視点から提示するということも、やりたいと考えていたんです」。

舞台は20区。監督は、この場所を舞台としたことにも大きな意味を込めたと言います。
「やはり20区は、多様性が如実に出ている場所です。パリには優秀な生徒が集まるシックな学校もありますし、郊外には貧困層しかいない場所もあります。そういった場所では、混成というものがありません。その点、20区には、社会階級、民族といった違いが残っています。そういう意味でここを選びました」。

それにしても、先生と生徒のやり取りは、あまりにリアル。ついドキュメンタリーだと思い込んでしまう人も多いはず。いま、ドキュメンタリーの人気も定着していますが、この作品を観ているとフィクションだから表現できる真実というものがあるのだと感じることができます。そこで、監督があえてフィクションにこだわっている理由を聞いてみました。
「ストーリーを語ることに興味を持っているからです。ストーリーテラーとして、感情とか、シーンの持つ意味とかを明確に表現したいと思っているんです。ドキュメンタリーでは、1年間を通してそういった瞬間はぽつぽつとしか現れないかもしれない。ですから、私はそういったものをもっと凝縮した形で表したいと思っているんです。準備段階では、当事者たちの意見、経験談を十分に聞くようにはしています。今回は、素人の子供たちを俳優として起用しましたが、彼らはある意味で学校に関するスペシャリスト。ですから、彼らの意見を聞き、経験を脚本に盛り込み、キャラクター作りに反映させたりしました。それがおそらく、私の映画がフィクションでありながら、ドキュメンタリー的なタッチを持つ理由なのだと思います」。

敬愛する監督はロベルト・ロッセリーニだと教えてくれたカンテ監督。「彼は、カメラに収める社会、世界について赤裸々で飾り気の視点を持ちながら、それをメロドラマティックな物語に混ぜ込んでいくというスタイルを持った映画監督です。映画を撮るときには、いつも彼のことを考えます。私自身は、社会の中にある特定の一部分へ視点を投げかけていきたい。実は、今回の映画で、現実をいかにスクリーンに投影するかという自分なりの手法を見つけたんです。それを今後も続けていきたいと思います」。

フランス的すぎる、実験的過ぎるなど厳しい評価もあったようですが、これまでにあった賞賛の言葉で最も嬉しかったものとは?
「一番嬉しかったのは言葉ではないんです。多くのティーンエイジャーがこの作品を観に来てくれたこと。彼らはこういう映画をなかなか観に来ないものですよね。アメリカのアクション映画を観ることが多いですから(笑)。では、なぜ彼らは足を運んでくれたのか。きっと、彼らは自分たちの世界が映画の中に描かれていることを喜んでくれたからではないでしょうか。それも、いつも大人たちに批判的に受け止められているのに、いままでにはない視点で自分たちを受け止めている。そのことに、感動してくれたのではないかと思います。ですから、その事実そのものに、強い感銘を受けましたね。もうひとつ感銘を受けたのは、観客が笑っている声です。どんなにシリアスなテーマを扱っていても、やはりリラックスできるシーンや、笑えるシーンがあるべきだと思うんです。今回登場してくれた子供たちは、見事な話術を使って自分たちの考えを言葉にしている。そこにおかしみがあるというのを観客も感じてくれているのは嬉しいことです。日本でのみなさんの反応はどうなのか気になりますね」。

私が「大いに笑いましたよ」と伝えると「BON!」(=Good!)と嬉しそうに微笑んでくれた監督。さて、みなさんは、映画に込められた監督の想いをどう受け止めるでしょうか。

《text:June Makiguchi》

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