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【MOVIEブログ】14日/ベルリン

14日、木曜日。ハッピー・バレンタイン! が、残念ながら本日は曇り。少しだけ小雪が舞っている。気温は、1~2度くらいかな。7時に起きて、少しメールをチェックして、朝食をたくさん食べて、いつものように8時過ぎには外へ。

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14日、木曜日。ハッピー・バレンタイン! が、残念ながら本日は曇り。少しだけ小雪が舞っている。気温は、1~2度くらいかな。7時に起きて、少しメールをチェックして、朝食をたくさん食べて、いつものように8時過ぎには外へ。

本日も9時からのコンペ作品のプレス試写からスタート。30分ほど並んで、いつもの1階の中央あたりの席に座ると、いつものように2列前にティム・ロビンスが座っている。毎朝ティム・ロビンスを見るというのも不思議な感じで、何だか出勤先にティム・ロビングがいる気分。今日は場内が暗くなってから審査員長のウォン・カーウァイの姿も見えて(毎朝いるわけではないようなので、他で鑑賞の機会もあるのかな)、今朝は審査員が勢ぞろい。

見たのは、カザフスタンの『Harmony Lessons』という作品。農村部の学校に通う少年の孤独な日々を描くもので、不運な出来事がきっかけでいじめにあうようになり、主犯格の少年への報復が残酷な運命へと発展していく内容。カザフの荒涼たる風景と、白を基調とした校内の模様との統一感が美しく、端正で力のある画面作りに引きこまれ、これは今年のコンペでも上位に来る作品のはず。

次の上映まで時間が空いたので、いったん宿に戻り、3週間を越える出張で溜りに溜まった大量の資料を袋に入れ、マーケット会場に行き、国際宅急便で日本に送付。スーパーにも寄り、お土産を物色したものの、何だか毎年同じものでマンネリだなあ。

13時にメイン会場に戻り、コンペ部門だけど賞の審査の対象とはならない作品(分かりにくいですね)で、アメリカ映画の『Dark Blood』へ。これは、かのリヴァー・フェニックスが93年の死の直前に撮っていた作品で、彼の突然死により製作が中止となり、未完のまま現在まで至っていたものを、監督のジョルジュ・スルイツァーが20年の時を経て発表にこぎつけたもの、ということらしいですね。

撮影済みの部分を繋げ、足りない部分は監督のナレーションでストーリーを補足して「完成」させています。当初、ナレーションはホアキン・フェニックスに依頼するはずだったものの、遺族関連の権利がクリアされておらず、ホアキンの起用は実現しなかったという噂を聞いたけれど、あくまで噂なので真偽のほどは定かではないです。

作品は、まあ大した内容ではなく、リヴァー・フェニックスのファンでなければそれほど必見ではないでしょう。ただ逆に、彼のファンなら当然必見で、やはりリヴァー・フェニックス、かなり素敵ではあります。本当に、惜しい俳優を亡くしたものだと(享年23)久しぶりにつくづく痛感…。

続けて、散々迷った末に、少し離れたところにある別会場に行き、これも「コンペ部門だけど賞の審査の対象とはならない作品」の『Night Train to Lisbon』という作品へ。主演がジェレミー・アイアンズ、共演にメラニー・ロラン、ブルーノ・ガンツ、シャーロット・ランプリングなど。観るのを躊躇した予感が的中し、なんとも安易な展開の、著しく刺激に欠ける人間ドラマ。

17時半から、がらりと変わって「フォーラム」部門で『Helio Oiticica』というブラジルのドキュメンタリー作品へ。60年代を中心に活躍した、ブラジルの現代美術の重要アーティストであるエリオ・オイチシカの足跡を、甥である監督が遺された豊富な映像フッテージを編集して1本の映画作品にまとめたもの。

一応クロノジカルに並んでいるものの、繋ぎがかなり自由で、本作自体が現代アートのような、実験映画的な作り。アーティストの芸術的インスピレーションの泉を辿る旅は刺激的で、リオ・デ・ジャネイロ、ロンドン、ニューヨークといった都市の60年代の記録としても貴重なはず。カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルといったミュージシャンとの交流が見られるのも嬉しい。

19時半からは、同じく「フォーラム」部門で、アメリカのジェームズ・ベニング監督の作品へ。アメリカのインスタレーション的アート映画や実験映画において最も重要な存在のひとりであるベニングは、日本でもイメージ・フォーラム映画祭や恵比寿映像祭で多く紹介されていますね。

非常に多作で、今年のロッテルダムでも新作が数作紹介されていたものの、どうにも時間が合わずに見られず悔しい思いをしていたところ、ベルリンではさらに別の新作が公式上映されていて、これは観なければと思った次第。

『Stemple Pass』と題され、2時間で4ショットの作品(写真)。美しい森を固定ショットで捉えた画面の右下に、小さな小屋が見える。この小屋をユナボマー(爆弾犯のセオドア・カジンスキー)が過ごした小屋に見立て、画面にはユナボマーが残した日記をベニングが読み上げるナレーションが被さっていく。

深い森と小屋とを収めたショットが、春夏秋冬に分けて4つ、季節ごとにそれぞれ30分ずつ上映され、合計2時間。つまり、固定ショットを30分間じっと見続け、それが4回繰り返される。同じ角度の、同じ構図の画面で、季節の色合いだけが異なっていく。4つの絵画を、2時間かけて見ていると言えばいいか。

心の底の芸術的センサーを刺激する素晴らしい2時間。これは映画祭でしか体験できない類のもので、商業公開が不可能なのはもちろん、美術館でも2時間座っていることはなかなか出来ない。コンセプトと技術と映像と構図と、音、そして時間とが絶妙に組み合わさった、総合的な芸術作品としか呼びようがない。

上映後にベニング監督のQ&Aが行われ、本作は何よりも時間の映画ではないかと思った僕は、挙手して「2時間という全体の上映時間と、ひとつの季節を30分で見せる、という決断はどうやって?」と質問。監督は、「ナレーションを被せると、どうしても映像を見つめることがおろそかになってしまう。ユナボマーの日記を読み上げるとそれぞれ15分かかるので、同じ時間をかけて映像にも入ってもらいたかった。なので、15分の朗読と15分の映像でひとつのくくりとし、それを4回の季節に分けて構成する発想を得たのです」。なるほど。

終了して22時過ぎ。次の上映に行くのは少し時間が中途半端になってしまい、本日はこれで終了。究極的にアートな映像作品(それも極上の)に触れることができて、何とも心が充実…。

宿に戻り、同僚の差し入れのおせんべいをぽりぽり食べつつ、ビールを飲みながら(失礼)これを書いても、まだ0時前! 今日は早めに寝られそうだ! そして明日はいよいよ出張最終日!
《text:Yoshihiko Yatabe》

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