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【MOVIEブログ】2020東京国際映画祭 Day9

11月8日、日曜日。8時35分起床。外に出ると曇り時々晴れ、という感じかな。今夜は雨の予報らしく、ひどくならないといいのだけど。映画祭もいよいよ終盤!

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『皮膚を売った男』(c)2020 TIFF
『皮膚を売った男』(c)2020 TIFF
  • 『皮膚を売った男』(c)2020 TIFF
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11月8日、日曜日。8時35分起床。

外に出ると曇り時々晴れ、という感じかな。今夜は雨の予報らしく、ひどくならないといいのだけど。映画祭もいよいよ終盤!

10時45分に劇場に行く。到着してから、いつも登壇時に装着している、口のまわりの部分をカバーする透明の「マウス・シールド」を事務局の席に忘れたことに気付いた。しまった。劇場スタッフに予備があるか聞いてみると、舞台監督さんが持ってきてくれて助かった。それはいいのだけど、新しいマウス・シールドの表と裏から、ぴろっ、と何かをはがしている。え?なにやっているんですか、それ?と聞いてみる。

なんと! フェイス・シールドには保護フィルムが貼ってあった! いままで8日間、2~3個使ってきて、全く気付かなかった! いや、どうにも曇るというか、手元のメモが見にくいなあ、とずっと思ってきたのだった。それが、表と裏のフィルムをはがしてみると、とても透明で見やすいではないか! ああ、映画祭9日目で知るかなあ、これ。無念すぎるよ…。

さらにいうなら、自分の使っていたマウス・シールドを、定期的にアルコール消毒したり、拭いたりしていたのだけど、ぱっとしないなあと思っていたのだ。そりゃあ、フィルムの上から拭いてもぱっとするわけないよなあ。とてもカナシイ。

11時から、9日目にしてクリアになった視界を喜びながら、『ある職場』の上映前舞台挨拶司会へ。登壇者は、平井早紀さん(俳優/共同脚本)、伊藤恵さん(同)、藤村修アルノールさん(同)、舩橋淳監督。限られた15分間という時間で、みなさんからご挨拶を頂きつつ、監督と平井さんから作品のイントロダクションを語ってもらう。

事務局に戻り、11時半。昼のお弁当、喜山(きざん)の中華弁当! やった! 本当に毎年喜山が楽しみ。運営スタッフも、喜山をクライマックス近くに配する傾向があり、そろそろかなと思っていたら今だった! 「エビチリ弁当」をチンして、ウハウハと頂く。ああ、実に美味しい。

いかん。11時半に最初の弁当を食べ終わってしまうと、先が思いやられる…。

食べ終わってから復習作品を見始め、13時半に劇場に戻り、『ある職場』の上映後Q&A司会へ。登壇者は、満園雄太さん(俳優/共同脚本)、平井早紀さん(同)、伊藤恵さん(同)、舩橋淳監督。

監督は本作が扱ったハラスメントに対する問題意識を改めて語り、役者とのディスカッションで作り上げた「ディベート映画」であると紹介してくれる。俳優たちは、全員が「共同脚本」としてクレジットされており、大まかな設定の中で、本気でディベートをして映画は作られたとのこと。平井さんは、いつまでもカットの声がかからず、カメラが回り続ける撮影の大変さを強調する。しかしそこからナマの意見が出てきたわけで、この映画の重要性に繋がっていく。

舩橋さんとのQ&Aで印象に残っているのは、実は前回、あるシーンを映画に入れるか入れないを巡る考察だ。純映画的に行くと、「みなまで言うな」的に全部は見せないという演出があり得るが、商業公開を目指すとすると、ある程度見せたほうがいいという判断が働いた、という。これはなかなか面白いポイントで、議論のし甲斐がありそう。『ある職場』の公開に向けた動きに注目したい。

午後は空いたので、トークサロン用の作品を見直し、クロージングの準備を少ししつつ、パソコン作業。

17時15分に夜の弁当が来たので、すかさず頂いてしまう。カルビ弁当! がっつりの量で、午後はあまり動いていないのでちょっと罪悪感。いや、いいのだ。

18時15分から「トークサロン」。今回は『皮膚を売った男』。カウテール・ベン・ハニア監督がパリからアクセスしてくれる。打ち合わせ時は、ちょっと英語が心配と言っていたのだけど、全く問題なく、スムーズな英語で進行。この作品はかなり評判がよく、質問もどんどん届いて、追い付かない。

難民の主題に現代アートを組み合わせる発想の話は、どれだけ聞いても興味が尽きることがない。本当に、今年屈指の面白さを持つ脚本だと思う。ヴィル・デルボアが豚の皮膚にタトゥーを施して物議をかもした現代アートの『TIM』という作品からインスパイアされたことについて、そこに難民問題を絡めて行こうと思った発想について、さらには、その物語の中心に愛を据えることについて。

そして、現代アートにカウテール監督がもともと懐疑的なのか、それともこの映画のために導入した視点なのか。劇中のアーティストのキャラクターづくりについて、さらにはもちろん、素晴らしい主人公を演じた新進のシリア出身俳優について。モニカ・ベルッチ起用の経緯について。そして、この作品が最も大きな主題として問いかけてくる、現代社会における自由とは何か、について。

本作は評判がよいどころか、絶賛も耳に入ってくる。公開を祈念するばかりだ。そしてその際には、このサロンのYouTubeのアーカイヴがさらに有益なものになりますように。カウテール監督、今後絶対チェックしていくべき監督であることは間違いないことは、観客のみなさんと共有出来ているはず。一緒に応援しましょう。


続いて19時50分に『初仕事』のチームと登壇前の打ち合わせ。小山監督らゲストのみなさんと、初めてゆっくり話す機会となり、みんな大学の映研の仲間(先輩後輩)だという。しかしまったくベタベタしたところがないのが面白いところで(みなさんもう大人なので当たり前かもしれないけど)、個性的でクールなバンドみたいだ。

ミーティングが終わり、「トークサロン」へ。今回は『マリアの旅』のダビッド・マルティン・デ・ロス・サントス監督。スペイン語と英語をはさみ、かつ監督は饒舌なので、あっという間に時間が過ぎる。でもなんとかエッセンスは聞けたはず。

本作の着想は監督の母にあるといい、フランコ政権下で育った母親は枠にはまった保守的な生き方を強いられている世代で、その抑圧からの解放が『マリアの旅』のヒロイン、マリアに託されている。そしてマリアを解放する手伝いをするのが若いヴェロニカで、彼女は現代の世代の若者だが、不安定さと闘っている世代でもある。その異なる世代の女性をふたり組み合わせ生まれる効果を、監督は狙った。

老年のマリアと知り合う中年(一歩前くらい)男性のルカは、一切マリアを老人扱いせず、人間扱いするところが僕がこの映画に惚れ込んでいる理由なのだけど、その点を監督に尋ねると、「(母親や、妻といった)役割を超えたところで、その人は誰なんだ、という問いが重要だ」と答え、偏見を排して人と接することの難しさと尊さに感動した僕の意見を認めてくれる。

さらに、ヒロインがとった行動のひとつの理由を聞きたくて、自分から質問したところ、期待以上にいい答えだったので興奮してしまった。ヒロインは、ヴェロニカの遺灰をどうしてあの木の下に撒いたのか。素晴らしい答えだった。『マリアの旅』を見た方でサロンを見ていない方、是非ともチェックを。


「トークサロン」、作品を掘り下げるのにこんなに有用であるとは、やはりやってみて初めて実感する。来年もやるとしたら、申込方法や、締め切り時間や、告知方法や、対象作品の選択や、もちろんモデレーターや、様々な検証をしつつ、より有意義なものに繋げていきたいものだ。

本年最後の登壇司会は、「Tokyoプレミア2020」に出品の『初仕事』。小山駿助監督の面白さ、それは映画の面白さであり、小山監督本人のキャラクターの面白さでの両方が、絶対に会場に伝わったと思う。監督の受け答えに、とても多くの人が笑っているのが、マスク越しでも確実に見えた。ウケている。

各シーンに見ごたえがあるので、意図やメッセージなどを尋ねられると、明解なメッセージは無く、基本的に監督が「気持ちいい」と思ったから、という点に尽きると話す。「それでいいのですかね?」と司会の僕の方を向いて何度か監督は聞いてくるのだけど、僕は本気で何度も「もちろんですよ。いいに決まってます」と答える。

あるいは、ポスプロでアフレコや整音を何年も続け、フォーリーも駆使し、きめ細かく作り上げていった本作の音について、「少し人工的に音が聞こえてくることがあり、普通はそういうのは好まないのですが、この作品は何故かその音が嫌いじゃなくて、いったいこれはなんなんだ、と思うのですが、なんなのでしょう」と戸惑ったように笑って質問するお客さん。ああいいなあ、こういう雰囲気はいいなあ。

監督は「それはやはり、作品が好きなんだと思います」とストレートに答え、笑う。入り口がちょっと好きだと、普段ならネガティブに捉えがちなことも、ポジティブに感じられうる。なので、作品がやっぱり好きなんじゃないかということ。思い付きで言っているわけでなく、普段からそういうことを考えていると、半ば朴訥に、半ば面白がりながら、ぼそぼそと、しかし明確に話す。いや、本当に、小山監督の個性を文字にするのは難しい。

できれば、小規模ながらも、圧倒的な個性で深い支持をじわじわと広げている渡辺紘文監督率いる大田原愚豚舎のような存在になってくれないものだろうか。いや、誰かのようになる必要はなく、独自の創作世界を邁進してもらいたい。今は、『初仕事』を早くスクリーンで見たいという欲求と、小山監督の将来の作品が見たいという希望でいっぱいだ。

事務局に戻り、同僚が(数日前から)緊張しながら準備して臨んだ、『家庭裁判所 第3H法廷』のアントニオ・メンデス・エスパルザ監督との「トークサロン」の様子を覗きに、スタジオに行ってみる。アントニオ監督がとてもたくさんしゃべって通訳の方が大変なのを除けば、とても上手くいっているようだ。僕もアントニオに聞いてみたいことはたくさんある。ラテンビート映画祭でも上映するので(オンラインかな)、見逃した方は是非是非!


0時に終わり、昼の中華弁当が残っていたので、エビチリ弁当をもうひとつ。もう本当に美味し過ぎる。

そして、ちょっと手抜き気味になってしまったかもしれないブログを書き、本日はここまで。まだ1時半! 今日は2時前に寝られるかもしれない! 明日はついに最終日。ああ、いよいよか。なんだか、いろんな思いが去来し過ぎるが、ともかく最後まで気を抜かずに臨もう。
《矢田部吉彦》

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