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【MOVIEブログ】2020東京国際映画祭 Day10

11月9日、月曜日。8時30分起床。5時間半も寝たので、目覚めた瞬間「寝過ごした!」と慌てたのだけど、そういうことではなかった。外に出ると快晴。昨日は暖かく、今日は気温は下がるのかな。いずれにしても、今年は天気に恵まれた!

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『悪は存在せず』(c)2020 TIFF
『悪は存在せず』(c)2020 TIFF
  • 『悪は存在せず』(c)2020 TIFF
  • 『ノットゥルノ/夜』(c)2020 TIFF
  • 『モラル・オーダー』(c)2020 TIFF
  • 『悪は存在せず』(c)2020 TIFF
11月9日、月曜日。8時30分起床。5時間半も寝たので、目覚めた瞬間「寝過ごした!」と慌てたのだけど、そういうことではなかった。外に出ると快晴。昨日は暖かく、今日は気温は下がるのかな。いずれにしても、今年は天気に恵まれた!

いよいよ、映画祭最終日。いまのところ、発症例や高熱例は報告されておらず、何とか最終日までたどり着いた。今年は11月の開催になったけど、まだそんなに寒くならず、雨はほんの少しでほとんど晴天、天も味方してくれただろうか?

劇場の中の雰囲気は、僕が登壇した日本映画に関して言えば、いい意味で例年と「変わらない」。多くの観客を迎えているし、ゲストが来場してQ&Aがあって、客席から質問もよく出るし、みんなマスク姿である以外はさほど例年と変わっていない印象を受けた。しかし、今年、例年と「変わらない」ことがどれほど困難で、特殊であることか。「変わらない」を実現させた、スタッフと観客と作品ゲストのみなさんに、深く感謝。

何度か顔見知りの観客の方から話しかけられることがあり、「Q&Aが減ったのは寂しいけれど、逆にハシゴのスケジュールが立てやすいというメリットもあり、例年20数本見ているのだが、今年は30本以上見られた」という感想を頂いた。2名の方から同様の意見を伺ったので、おそらくコアファンは同様の動きをしてくれているに違いない。とても貴重な意見だ。

しかし、これは嬉しい悩みだ。いや、本格的な悩みだ。異例の年に取った策が好評の場合、通常に戻った時にどう応用するか。毎晩書いているように、「トークサロン」では映画の内容をかなり深堀して聞くことが出来る。一方、ライブな一体感がないし、サプライズも少ない。サインももらえないし、「イベント感」もあまりない。映画がちゃんと見られて、その内容を語ってもらえるならよいではないか、という本質的な部分に価値を置くか、いやいやお祭りなんだからそれでは物足りないという、祝祭性と人間性(?)を重視すべきなのか。フィジカルな映画祭を実現できただけに、その結果が来年の構想に与える影響はとても大きい。

さて、この期に及んで本日の「トークサロン」の作品の復習が終わっていないので、見続ける。結局最終日までかかってしまった。ペース配分を計算してあったのだけど、事前の計画が上手く進むわけもなく、結局いつもギリギリの綱渡りで、成長しない自分が情けない。

12時にお弁当。牛すき焼きと紅鮭+シイタケの炊き込みご飯のお弁当。とても程よい。最後までナイス選択!

午後、引き続き「TIFFトークサロン」の準備を進め、クロージングセレモニーの準備を少し、そしてさきほど同僚と話していて、やっぱり最後に「TIFFスタジオ」をやって締めようよ、ということになり、急きょその準備も始める。

15時半から「トークサロン」。今回は「ワールドフォーカス」部門の『ノットゥルノ/夜』のジャンフランコ・ロージ監督登場! ベルリンとヴェネチアを制した史上唯一のドキュメンタリー監督であるロージー監督をお迎えするのは、やはりなかなかに緊張する。最終日まで緊張物件は続く…。

そして登場したロージ監督、製作の経緯、作品の内容、そして自らの表現方法について、あますことなく語ってくれた。予定の50分を大幅に超え、1時間10分に及ぶ、あまりに濃く、重要な内容。素晴らしいコメントの数々を頂いた。これまた必見のトークサロンとなった!


『ノットゥルノ/夜』は、監督がイラク、シリア、レバノン、クルディスタンの国境付近に3年間かけて通い、凄惨な現実を生きてきた土地と人々を静かにみつめていく作品だ。撮影された場所は入念に選ばれ、確信的にキャメラを回すことができるまで時間をかけたことが分かる。その過程を丁寧に説明してくれる。そして、あまりに深い悲劇を体験したために言葉を発することがない青年を始め、孤児院の子どもたちの証言や、囚われてしまった女性から母親の携帯の留守電に残された録音など、沈黙と言葉の双方を用い、記憶を記録していく。

主題に対するアプローチもさることながら、どの角度にカメラを向けても逆光になることがない曇天を待ち続けるという、撮影に対する考え方なども示唆に富んで刺激的あり、映画作りの奥深さを感じさせてくれる。なんとも濃密な時間だった。

孤児院の子どもたちを撮影した際のエピソードに辛い涙がこみ上げるのを我慢し、そして全体を通した監督の熱に押され、終了時には充実感とともに、心地よい疲労感に体が包まれた…。

少しぼーっとしてから、やはり時間がある時に弁当は食べるべし、という映画祭乗り切り術のモットーを最後まで貫くこととし、お弁当コーナーへ。豚しゃぶ弁当をチョイス! 最後まで美味しい。バラエティに富み、美味しくて元気も出るお弁当の手配に尽力してくれた運営チームに、今年も大感謝!

17時からクロージングセレモニーが始まっている。今年はコンペ部門がなくて、ゲストの来場もないので、僕にこれといった役割はなく、事務局に留まってトークサロン等の準備を続ける。こういうところも今年は不思議な体験で、例年のクロージングに慣れていると奇妙な感じ。そしてどうやら観客賞が発表されたらしい。

僕は「観客賞上映会」の司会をすることになっていて、受賞作品が日本映画か外国映画かで動きが変わることを想定していたのだけど、受賞は日本映画。受賞したのは、『私をくいとめて』! おめでとうございます! 大九監督、『勝手にふるえてろ』に続く観客賞受賞、素晴らしい!

というわけで、18時10分からの「観客賞受賞作上映」の司会へ。大九監督と、のんさんがご登場。喜びのスピーチを頂いてから、港区「みなと委員会」の須永氏を交えてフォトセッション。

さらに18時30分から、別スクリーンでも「観客賞受賞作上映」があるので、シネマズ内をバタバタと移動。再び大九監督とのんさんをお招きして、挨拶をしてもらう。暖かい祝福の拍手に包まれて、上映開始へ。

監督とのんさんにご挨拶して、事務局に戻り、一息ついて、さらに「トークサロン」の準備。まだ終わらない! 全く最終日のこの時間まで追い込まれるとは。クロージング・セレモニーが終わっているのにまだ作品を見続ている自分って…。仕事の進め方の下手さに、本当に情けなくなる。と、落ち込んでいるヒマはないので、基本構成の準備を続ける。

19時45分に作業がようやく終わる。ふうー。今夜はまだ先が長いので、コーヒーを買いに行く。自慢の水筒にスタバのホットコーヒーの一番大きいサイズを入れてもらう。

20時半から、「トークサロン」。今回は、「Tokyo プレミア2020」部門で『モラル・オーダー』のマリオ・バローゾ監督をお迎えする。マノエル・デ・オリヴェイラ監督のキャメラマンを務めるなど長いキャリアを誇るバローゾ監督、住まいはパリで、流ちょうなフランス語を話す。ポルトガル訛りはほとんどない。優しい紳士の佇まい。

「監督としては、長編3本目です」と僕が視聴者にバローゾ監督を紹介すると、「最初にTV映画を1本監督しているので、長編4作目なのです。シネフィル的にはTV映画は下に見られがちですが、私は映画とTVの仕事を全く区別していないので、長編監督4本目と訂正させて下さい」とのこと。ごめんなさい!


バローゾ監督の話も本当に面白かった。『モラル・オーダー』は事実をベースにしているが、あくまでフィクションであると説明する。しかし、20世紀初頭を舞台に、不倫をきっかけに自己を解放した女性が精神異常と診断され、精神病院に入院させられてしまう理不尽で暴力的な時代の仕打ちは史実だ。また、そこで作り上げられた闘う女性像には監督の創造が加わっているとしても、ヒロインの活動が1940年代に法改正として結実したことも事実であり、現代に勇気を与える重要な物語を監督が届けてくれていることがよく分かる。

経験を重ねたシニアの魅力に溢れ、知的で落ち着いて、いかにも優しそうな、ちょっとジャン・ロシュフォールを彷彿とさせるバローゾ監督、来日してくれたらさぞかしスタッフの人気を集めたろうにと残念でならない。オリヴェイラ監督からどういう点を学びましたか?という質問をし損ねてしまったことが、僕にはとても後悔で、次の機会がありますようにと願うばかり…。

続いて、21時45分から、最後の「TIFFトークサロン」で、「ワールドフォーカス部門」で上映したイラン映画『悪は存在せず』のモハマッド・ラスロフ監督をお迎えする!

最後にして、最重要トークになったかもしれない。というのも、ご存じの通り、ラスロフ監督はイラン国内での活動の苦境が伝えられて久しい。表現活動が政府方針に抵触し、国外に出ることが出来ず、『悪は存在せず』はベルリンのコンペに選ばれたものの、監督はベルリン入りすることは出来なかった。それどころか、自宅軟禁が続いているらしいとか、さらには拘束されて投獄が迫っているという報せも入り、本当に世界中が心配している存在なのだ。監督欠席のまま、大好評を博した『悪は存在せず』がベルリンでグランプリを受賞したのは、周知の通り。

『悪は存在せず』をベルリンで見た僕は、これはグランプリだろうと予想したし、東京に招待したいと即座に思った。そして実際に作品を東京で上映できることにはなった。しかし、オンラインと言えど、監督と話が出来るとは考えなかった。そもそもトークを打診することすら憚られたし、上映できるだけでもよしとしようと思っていたのだ。

すると、作品の権利元の会社から「監督はトークする気まんまんでいる」と連絡が来るではないか。なんと! ならば、ということで「TIFFトークサロン」のスケジュールに落とし込み、最終日の最終回という時間で決定し、本日を迎えた。

しかし、その時以来ぱたりと先方から連絡が途絶えてしまい、昨日まで再確認が出来ず、僕は担当者には「深追いはやめよう」と伝えていたのだけど、本日夕刻になって「全く問題なし」との連絡がようやく入り、なんとかトークサロンの最終回にして初のキャンセルは免れた、というのがここまでの流れ。

さて、監督がアクセスしてくれるとして、現在の立場について質問するのは、やはりやめておこうと判断する。イラン当局がモニタリングしている可能性を軽く考えてはいけないだろうし、監督に迷惑はかけたくない。今はどういう状態なのか? 刑務所入りは免れそうなのか?ということを知りたくないと言えば嘘になるけれど、そんなこと話したところで監督には一文の得にもならないし、監督であれば作品の話をするのが一番嬉しいはずだと考え、作品以外の話は一切しないことにした。以上は、全て僕の勝手な判断であり、現状について質問したら喜んで答えてくれたのかもしれないけど、まあそれは分からない。ともかく余計なことは何も聞かないことにした。

で、ついにトークスタート。画面を切り替えると、ラスロフ監督が現れる! 感激だ。

そして監督、饒舌だったなあ! もしかしたら、海外の観客に向けて自作の話をすることも久しぶりだったのかもしれない。画面上では少し気難しそうな表情の監督だけれども、時間が経つにつれて徐々に柔和になっていって笑顔も出てきて、そしたら話が全く止まらなくなった! ペルシャ語と英語の通訳が入るのでなかなか大変なのだけど、こんな機会は無いし、もう映画祭も最後だし、予定時間を大幅に超えても構わないやと思って、自由に話して頂いた。


死刑制度を映画の主題に取り上げた背景、四つのエピソードからなる短編連作とした理由、各エピソードをいかに関連づけたか、トーンの違いの意図、エピソードのひとつのタイトルにもなっている有名な歌の意図、なぜ登場人物が顔をごしごし洗うシーンが各エピソードにあるのか(この質問のおかげで一気に場が和らいだ。質問送って下さった方、ありがとうございます!)、郊外の風景はキアロスタミ的であるかどうか、死刑執行官は怪物であるかどうか、徴兵の青年兵が死刑の執行を任じられることは実際に多いのか、そういった兵に精神的ケアが施されることはないのか、役者はどうやって選んだのか、ヘヴィーな主題に役者はどうやって挑んだか、そもそも監督は役とどのように接するのか…。

いやあ、濃かった。これは重要な資料になったのではないだろうか。『悪は存在せず』、とても「面白く」、重要な作品であるので、日本公開が決まりますように。

最後に、視聴者からの質問に僕の思いも重ねて尋ねてみる。「映画製作を目指している若者にメッセージを頂けますか? 勇気と不屈の映画作家として、世界中から尊敬を集めるラスロフ監督からのメッセージほど貴重なものはありません」とお願いすると、意外に答えは短かった。「人それぞれなので、一般的なことは言えません。しかし、私は毎回異なるアプローチで作品を作っています。新しいことに挑戦することを恐れないように、ということは言えるかもしれません」。

開催そのものが危ぶまれ、未曾有の事態の中、手探りで準備を進めてきて、何とか10日間を終えようとしている映画祭にとって「新しい挑戦を恐れるな」というメッセージ以上に響く言葉があろうか? 見事に、ラスロフ監督に最後を締めてもらった。本当に感動した。

「TIFFトークサロン」は、しばらくYouTubeのアーカイヴとして残るので、是非見てもらえたら嬉しい。今年初の試みだけれど、じっくりと作品の中身が聞けるという意味では、僕が得た手ごたえは予想以上だ。その他の課題については、これまで書いてきたので繰り返さないけれど、ともかく今年やってよかったことは間違いない。ちょっと準備は大変だったけど!

さて、22時40分に終わり、23時20 分くらいから「TIFF Studio」。今年の映画祭の総括を、簡単にまとめてみる。こちらは完全にカジュアルでリラックスモードで、急ぎ足で終わりたてのホヤホヤの感想を語ってみる。あとでじっくり振り返るのではなく、その場の勢いで感想を伝えるのも面白いかなということで実行することにしたのだけど、自己満足で終わってやしないかとちょっと心配。大丈夫だったかな? 許されるかな?

僕が登壇した回を中心に印象に残ったエピソードを急ぎ足で語って、0時くらいに終了。本件を持って、完全に映画祭は終了!

机を片付け、荷造りをして、同僚と外に出て、深夜営業していた中華屋さんでビールで乾杯! 熱い麺とギョーザを頂いて、脱力。クロージングパーティーも、その後の打ち上げもない、とても特殊な映画祭の最終日だけれど、そんな終わり方も記憶に残っていくのだろうなと思う。

ともかく、今年は無事に上映ができたということが全てなのだ。いまのところ、高熱や体調不良を訴える人はいないと聞いているし、映画祭は無事に終了したと言っていいと思う。ただ、今後我々スタッフもあと2週間は検温がマストで、つまりあと2週間経たないと、完全に映画祭が大丈夫であったとは言い切れないのだ。なんだか、選挙が終わったのにすっきりと勝利宣言できない某国の大統領みたいだ。いかん、例えが悪い。映画祭に没頭している間、世界が激動しており、読むべき空気が見えていない。それはともかく、もうしばらくは様子見が続く。

とはいえ、いったんは終了! 僕個人としては、今年も体調は絶好調で推移し、食欲は旺盛(食欲があるうちは大丈夫だというのが個人的体調バロメーター)、元気で10日を過ごすことが出来たことに安堵です。

映画祭に来て下さった観客の皆様、作品ゲストの皆様、全ての皆様に心から感謝致します。そして、来場が叶わくとも、TIFF Studioを見て下さったり、ツイッターにコメント下さったり、応援して頂いた方々に感謝します。そして、この殴り書き的で深夜ラブレター的でところどころ支離滅裂な長文日記ブログに付き合って下さった方々、本当にありがとうございました!!

おつかれさまでした!!
《矢田部吉彦》

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