【雅子ブログ】『ビル・カニンガム＆ニューヨーク』！
青い上っ張りを着てNYの街を自転車で飛び交う男がいる。ファッションを求めて颯爽と、カメラ片手に、とびきりの笑顔で……。
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彼の名はビル・カニンガム、84歳。職業はニューヨーク・タイムズ紙の人気ファッション・コラム「ON THE STREET」と社交コラム「EVENING HOURS」を長きに亘り担当するフォトグラファー。ニューヨークの街角で、来る日も来る日もファッションを撮り続けて50年というベテランである。そんな彼の姿を追うドキュメンタリー映画『ビル・カニンガム＆ニューヨーク』が今週末、いよいよ公開される。
ストリートのファッション・ピープルのほか、本作に登場する人たちは錚々たるモード界の重鎮ばかり。彼らは口を揃えて、彼に撮られることこそニューヨーカーのステイタス、と言う。そんな彼の魅力は何か？ 仕事は何なのか？
モード好きなら彼の名前、存在を知っているかもしれない。けれども、彼の私生活（ほとんど仕事）までは知る由もナシ。ファッションという華やかな世界に関わっているものの、彼はあくまでも撮る側の人、カメラを覗くのが仕事なのである。この映画を制作するにあたり、交渉8年（！）、撮影・編集に2年、10年がかりで完成したという本作。撮る側の人を撮るというメンドウな被写体、正しくない相互関係は歪むことなく、甚だしい勘違いもなく、実に軽妙な仕上がりになっているのが嬉しい。何より、ファッションは楽しいものだということを教えてくれるのだ。
トレードマークの青い上っ張りは、パリのBHV（ベー・アッシュ・ヴェと読む。東急ハンズみたいなデパート）で売られている作業着だ。換えはいつでもある。その不変性がいい。ファッションを撮る以外、食べることにも無頓着なカニンガム。好きなことに生涯を捧げ、全うしている爽快さ、潔さは観ているこちらを楽しく圧倒する。トレンドを追うその姿はそれ以上にリアルで、スタイリッシュで、愛すべき存在なのだ。彼の人物像をありのまま、リチャード・プレス監督が同じ目線で記録した。
ところで、この試写を観た日は、映画評論家の品田雄吉さんも鑑賞されていて、帰りにお茶をご一緒した。昨年のTIFFの審査員（natural TIFF部門）を共にしたご縁で、時々メールのやり取りをしたり、試写でお会いするとお茶を飲んだりしている。品田先生より少し上のカニンガム。先生も自転車に乗らなくちゃ、と笑い合った。今度パリに行ったら青い上っ張りをお土産にする約束をしたものの、近くパリに行く機会があるかどうか…。そして、未だ未知のNYだけど、いつか訪れた際には、カニンガムに出逢えるだろうか…。
