週末に感動的な瞬間に立ち会ったので、その報告を。昨年の東京国際映画祭のグランプリと監督賞をダブル受賞したのが、フランス映画の『もうひとりの息子』でした。その後、めでたく日本配給が決まり、満を持して10月19日からシネスイッチ銀座で公開されます。この作品は、イスラエルとパレスチナの2つの家庭の息子が出生時に取り違えられたことを巡る感動のドラマで、観客からも大好評、そして審査員の間でも満場一致のグランプリ選出であったと聞いています。が、ロレーヌ・レヴィ監督は、あまりに題材がデリケートであるため、この作品を作るのがとても怖かった、と語っていたのを思い出します。パレスチナ人でもイスラエル人でもない自分が(監督はフランス人)、この地域の物語を語る資格があるのか? どんなに慎重に進めても、どこかで不適切な表現やセリフを入れてしまうのではないか? とかなり思い悩んだそうです。現地に何度も出かけ、たくさんの人々、たくさんの家族に出会い、人との強固なつながりを通じて製作への確信を固めていったようです。最終的に脚本の完成に3年をかけた、という事実が監督の慎重さと丁寧さと、そして何よりも本作に対する限りない情熱を物語っています。さて、劇場公開を数週間後に控え、レヴィ監督が再来日しました。実は、9月21日が国連が定める「世界平和デー」であり、これを記念して翌週の9月28日に、監督を迎えて『もうひとりの息子』の特別上映会がユニセフホールで企画されたのでした。そして、なんと、その上映会に、パレスチナ大使とイスラエル大使の両名がご出席されるとのこと! これは、ちょっと歴史的なことではないか。その事実を事前に知らされた僕は、鳥肌が立つ思いでした。そして、当日。上映終了後に、司会に呼んでもらった僕が、レヴィ監督に作品に関する話を30分程度伺うトークショー。僕は引っ込み、続いて、来賓の登壇。予定通り、パレスチナ大使とイスラエル大使が揃ってご登場。壇上に並ぶ姿を拝見するだけで、特別な事態に立ち会っているという興奮と、厳粛な気分とが入り混じり、客席から見ていた僕の心拍数は跳ね上がる。パレスチナ大使はとても魅力的な男性で、映画に本当に感動したと語り、そして、ひとつの地域に二つの国家が存在し、そこに平和の実現は可能であると切実かつ説得力ある口調で訴えると、会場は一気に胸が締め付けられるような雰囲気に包まれ、そして「前任のイスラエル大使は良き友人でした。新任の大使とも親しい付き合いをしたいです」と語ると、もはや会場全員が泣きそうな顔。続いて新任であるという女性のイスラエル大使も、映画の素晴らしさを讃え、平和を祈念し、パレスチナ大使の呼び掛けに応えていました。監督を交えて両大使が固い握手を交わす光景は、まさに歴史的瞬間に映り、もはや涙が溢れるのを抑えることは出来なかった…。(写真は、左から、イスラエル大使、パレスチナ大使、レヴィ監督)。公の場で、イスラエルとパレスチナ両国の大使が友好な姿を見せることがどれだけ珍しいことなのか、僕はそれほど知っているわけではありません。しかし、そうしょっちゅうあることではないだろう、というのは確実に想像が付きます。もちろん、かの地から遠く離れた日本における両国代表の揃い踏みが、直ちに和平への推進力になると信じるほど、ナイーヴではないつもりです。が、それでも、こういうことは確実に行われなければならない、絶対に無駄ではない、という確信が心から芽生える瞬間でありました。歴史的なイベントを実現させた配給会社の方々にはひたすら頭が下がります。このような形で映画の力を直接信じさせてくれる機会など、滅多にありません。いや、本当にこんなことは、一生に一度かもしれない。映画は世界を変えられるか? もしかしたら!
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