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【MOVIEブログ】正月休みに至福の映画本を(下)

今年のオススメ映画本の続きを、今回は日本映画中心で。

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「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」(春日太一著/文芸春秋)
「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」(春日太一著/文芸春秋)
  • 「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」(春日太一著/文芸春秋)
  • 「東映ゲリラ戦記」(鈴木則文著/筑摩書房)
  • 「不眠の森を駆け抜けて」(白坂依志夫著/ラピュタ)
  • 「映画にまつわるxについて」(西川美和著/実業之日本社)
  • 「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」(塩田明彦著/イースト・プレス)
今年のオススメ映画本の続きを、今回は日本映画中心で。

「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」(春日太一著/文芸春秋)

間違いなく、今年の映画本大賞(という賞があるわけではないけど)の筆頭候補になる1冊でしょう。タイトル通り、東映京都撮影所の熱い熱い時代のノンフィクションドラマ。終戦後の東横映画を経て東映が設立される経緯から始まり、50年代から70年代にかけての、時代劇、任侠やくざ、そして実録路線へと至る、映画ファンにはおなじみの東映の歩みを、10年間にも及ぶ取材をもとに克明に描いていく、大力作にして、大傑作な1冊です。マキノ光雄から岡田茂へと受け継がれる映画作りの魂が、東映京都撮影所でいかに燃えたぎったか、どれだけ過酷な現場が展開されたか、そしてどれほど映画が熱かったかが、これでもかと伝わってくる。この本の素晴らしいのは、単なる証言集ではなく、証言を元にした大群像大河ドラマとも呼ぶべき壮大な物語に著者が仕立て上げているという点で、これはもう「映画本」を超えている。あらゆる人におすすめ!

「東映ゲリラ戦記」(鈴木則文著/筑摩書房)

上記「あかんやつら」と並行して読みたいのが、東映のエース監督のひとりである鈴木則文監督による本著。鈴木則文というと、僕にとってはもう一も二も無く『緋牡丹博徒』シリーズを作った人、ということになるのだけど、本書は緋牡丹のような「王道」の作品ではなく、監督曰く「ゲリラ」的に撮られたポルノ路線の現場を振り返ったもので、これがまた滅法面白い。鈴木監督が自ら希望する企画を封印しながら会社の要求に応え、ポルノという制限された場で、逆に自由を発揮して表現者としての意地を見せていくプロの境地が、とんでもなく格好いい。ただ白状すると、僕は本書で触れられている作品をほとんど見ていない。リアルタイムの時はまだ小学生だし、少し大人になってからは、東映と言えば任侠ものと実録ものを追うので精一杯、ポルノものなら日活ロマンポルノをフォローするのがシネフィル的には必須科目だったけれども、東映ポルノ路線までは手が届かなかった…。本書を読むと、なんて自分はもったいない人生を歩んできたのかと落ち込んでしまうほど、どれも観たい。なので、この正月に一気に見ます。池玲子さんと、杉本美樹さんと、エロ将軍に浸る正月にしよう。

「不眠の森を駆け抜けて」(白坂依志夫著/ラピュタ)

日本の最も重要な脚本家のひとりである白坂依志夫氏の仕事と人生が、様々な角度から語られる貴重な一冊で、ああこれまた面白い。基本的に白坂氏の50年代から現在に至る随筆がピックアップされて編集されており、三島由紀夫との出会いと交流や、大物脚本家であった父親へのスタンス、そして薬物依存症による入院生活が赤裸々に語られるなど、日本映画の革新の一翼を担った表現者の内面が伺えて興味は尽きない。もちろん、白眉は増村保造監督との仕事に触れる下りであるのだけれど、増村監督と白坂氏は必ずしも創作上の好みが一致していなかったことが、逆に抜群の相性に繋がったという証言には唸るばかりであるし、この2人が組んだことは、やはり日本映画史の奇跡であったのだなあと思う。さらに、本書の読みどころのひとつが、おそらく白坂氏本人が書いていると思われる人物脚注で、並みの人には書けないブラックな紹介もあったりしてとても楽しい。それにしても、久しぶりに『暖流』が見たい!と思って調べたら、なんとDVD化されていないではないか!あんな傑作中の傑作が、一体どうして?

「映画にまつわるxについて」(西川美和著/実業之日本社)

西川美和監督によるエッセイ集。優れた表現者は、文章も抜群に優れているということを証明する1冊で、西川さんは読んでいて恍惚となるくらい、素晴らしい文章を書く。これも「映画本」という枠に収まらない。震災の年の夏にかかれた文章は、映画を作る人間の心の中を描いて極めて秀逸であり、そこでは複雑な無力感に苛まされながらも、ひとつのささやかで強固な決意に至る監督の心中が綴られる。僕はこんなに感動的な文章をついぞ読んだことがない。ページをめくってしまうのがもったいないと思える、とにかく文章を読む歓びに浸る1冊。

「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」(塩田明彦著/イースト・プレス)

発売は来年らしいのだけれど何故か店頭に並んでいたので、飛びついて買った1冊。読み始めたら止まらず、一心不乱に2時間ほどで一気に読破。映画を見るのが好きな人、撮りたい人、製作したい人、なんでもいいけど、とにかく映画が好きなら必読中の必読の面白さ!本書は、塩田監督が映画美学校の俳優コースで行った講演録で、主に映画と俳優の関わりを演出面から解説したもの。「目からウロコ」とはこのことで、むむー、なるほど…、と唸らされてばかり。俳優の演技が良くないときは、俳優を動かす「動線」を誤った演出側のミスであるという記述にまずウロコが落ちるし、続いて、映画における「顔」とは何か、「視線」や「表情」とは何かと言った切り口を、具体的に三隅研次や成瀬巳喜男やグリフィスやヒッチコックやラングなどの作品の例を挙げて、極めて分かりやすく解説してくれるので、もう興奮が止まらない。最後のカサヴェテスとジーナ・ローランズを解説する下りには、僕は目ウロコどころか頭を殴られたような衝撃を受け、ネタバレなので書かないけど、これからの映画の見方が変わりそう。まさに「映画術」の名にふさわしい内容で、是非続編を!!

ということで、まだ数冊あるのだけど、このくらいにしますね。まあ、本当に映画本は映画と同じくらい、やめられない。

さて、おそらく本年最後のブログ更新になると思います。今年もダラダラと長い文章にお付き合い下さり、ありがとうございます。来年もどうぞよろしくお願いします!
《矢田部吉彦》

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