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【MOVIEブログ】25日/ロッテルダム

25日、土曜日。昨夜就寝が2時でも、きっかり6時に目が覚めるのが、欧州での時差ボケの素晴らしいところ。日本でもずっとこうならいいのに。そういえば夢にボブ・ディランが…

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25日、土曜日。昨夜就寝が2時でも、きっかり6時に目が覚めるのが、欧州での時差ボケの素晴らしいところ。日本でもずっとこうならいいのに。そういえば夢にボブ・ディランが出てきて、少し幸せな気分。

今朝は9時の業務試写からスタートで、「Bright Future」部門の『Swim little fish swim』というアメリカとフランスの合作。NYを舞台にした雰囲気の良いアメリカン・インディーで、僕の大好物のはず…、なのだけれど、どこか思いっきり気持ちよくなれない。つまり、何故だかしっくりこない。

金の為の仕事をしたくないミュージシャンの男と、病院勤めで家計を支えるその妻、そして有名アーティストである母に対してコンプレックスを抱きつつ、自分もアーティスト志望のフランス人の若い女性、の3人の物語で、題材とセンスはいいのだけど、3人の視点のバランスがどうにも悪い。これは編集の問題なのか、それとも脚本に欠陥があるのか。一人の視点に絞って3人を描くか、それとも例えばチャプターを分けて3人をきちんと描き分けるか、何かしらの工夫があってもよかった。いや、雰囲気はかなり好きなだけに、残念。

ちなみに、「Bright Future」部門では、長編2本目までの若手監督作品が対象。ロッテルダムではコンペ部門も同じ規約で、コンペ部門が15本、「Bright Future」部門が63本。「コンペ」に入るかどうかは紙一重の差であり、つまりは「Bright Future」部門の作品も全く見逃せないということで、本当は全部見たい(もちろん、昨年仕事の過程で見ている作品も相当数あるけれど、それでも全部は無理)。

さて、続いて同じ業務試写で「Bright Future」部門の『Three D』というアルゼンチンの作品。アルゼンチンの小さな地方都市で開催されるインディペンデント映画祭を舞台にした、映画祭や映画作りをモチーフにしたドラマ。

若い監督は「映画作り」を作品のネタにすべきでないというのが僕の持論で、それは、確かに監督にとっては最も身近で詳しいテーマではあろうけれど、逆に言えば外の社会のドラマに対する想像力(創造力)が欠如していることを喧伝しているようなものなのだから。なので、映画ネタが新人監督の作品に出てくると、いつも点数がつらくなってしまう(もちろん、例外はたくさんある)。ただ、今回は映画祭ネタでもあるので、映画祭に関わっている身としては、当然興味を惹かれないはずがない、という複雑な心境。

本作の監督は、実際にそのインディペンデント映画祭に赴き、アルゼンチンの監督たちにインタビューをして、彼らの貴重な発言が映画にも挿入されてくる。けれど、体裁はあくまでフィクションで、映画祭でバイトの職を得た若者が監督たちにインタビューをするという設定のもと、フィクションとドキュメンタリーを自然に融合させようという試みがなされている。

その狙いはいいのだけど、肝心の(?)ドラマ部分があまりにも薄く、残念ながら映画としては勇気ある失敗作となってしまった。作品の中で、ある監督がいみじくも「技術の進歩で何でも映ってしまうから誰もが映画を撮るけれど、語りたいことがなければ、つまりは伝えたいことのハートとソウルがなければ、映画を作る意味はない」と発言しているのが、とても皮肉。

続けて、12時半からモンゴル映画に入り、いささか刺激に欠けるので途中退場し、そのままカナダ映画をトライするもののこれまたピンとこないので、これも途中で抜けて、ビデオ・ライブラリーに行くことにする。

僕もかつては、いかなる映画でも最後まで見ることを最大の美徳としていたけれど、さすがに今はそういうことはなくなった。一般の映画ファンであった時代と今とで唯一変わった点があるとしたら、途中で切り上げることに躊躇しなくなったことかもしれないな。それが良いことだと思っているわけではないけれど。

ライブラリーで見たのが、『Cannibal』というスペイン映画(写真)。「人肉食主義者の恋」とでも邦題を付けたい(語呂がイマイチだけど)内容で、女性を殺しては人肉を食べて暮らしている男が、愛を知ってしまう物語。ただし、ホラーでもコメディーでもなく、いわゆるヨーロッパ的で真面目な「格調高い」アート映画であるのが面白い。グラナダのロケーション撮影がとても美しい。表向きは腕の良い仕立屋職人であるが、毎晩、人肉ステーキとワインで夕食をとり、孤独で目立たない生活を送っている男の哀しいドラマ。ああ、これもスクリーンで見るべきだった。いや、それにしても、これはひょっとして日本でも商売になるかも?

続けて16時から、上映会場に戻り、コンペ部門で、日本の池田暁監督による『山守クリップ工場の辺り』へ。日本からのコンペの参加はこの1本のみで、監督はPFF出身の新鋭ですね。

現実から少しだけはずれたような、ファンタジー的な隣接世界を舞台にした、少しブラックなコメディードラマ。ラブコメの変種でもあり、独自の世界観の構築がとてもいい。鶴の恩返しならぬ、蝶の恩返しの物語。アーティーな井口昇というか、どこか小津的でもあり、山下テイストでもある。とても面白い個性で、観客の反応も上々。

続けて18時45分からオーストリアのコンペ部門で『My Blind Heart』という作品。難病を抱えた青年の魂と肉体の彷徨を、実験的なモノクロ映像と強烈な爆音とで露悪的とすら言える描写を重ねて描いていく、とても観客に苦行を強いる作品。意欲作と見るか、観客無視と見るか。挑戦的であるのは間違いない。が、僕は疲労困憊組。

そして、22時から、コンペ部門のロシア映画で『Hope Factory』という作品へ。「希望工場」という題名はもちろん皮肉で、ロシアの最北部の地(つまりは地の果て)の鉄工所に勤務する若い青年たちによる、「ノー・フューチャー」な青春劇。

それなりに真摯な作りで好感は持てるけれど、手持ちで動きの激しいカメラにはいささか食傷気味。「リアリティー」表現と手持ちカメラが同義語だと思われると、ちょっと困る。後は、隣の席のお兄さんがどんなシーンでも笑っているので、全くおかしくとも何ともないこちらとしては集中力が乱れて困る。まあ、こういうことがあるから一般上映が楽しいのだけれど。

ふうー、終盤はつかれた。上映終わり、劇場ロビーで、『ほとりの朔子』のプロデューサーのOさんや、同作のプロデューサー兼出演者で、今年のロッテルダムのコンペの審査員でもある杉野希妃さんに会ったので、少しだけ立ち話。もっとゆっくり話がしたいのだけど、すでに0時過ぎで、無念ながらスタミナ切れ…。

残念だけれどホテルに戻り、これを書いて、2時。今日もこれにてダウン。
《矢田部吉彦》

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