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【MOVIEブログ】ベルリン2015 Day8

12日、木曜日。曇り空の中から、時折青空が見えるお天気。今年のベルリンは雪も無く、気温も低過ぎず、総じて安定。でも、冬のヨーロッパなのだから、雪がたくさん降って、歩道が凍結するくらい寒いのも僕は歓迎なのだけどなあ。

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『Sworn Virgin』
『Sworn Virgin』
  • 『Sworn Virgin』
12日、木曜日。曇り空の中から、時折青空が見えるお天気。今年のベルリンは雪も無く、気温も低過ぎず、総じて安定。でも、冬のヨーロッパなのだから、雪がたくさん降って、歩道が凍結するくらい寒いのも僕は歓迎なのだけどなあ。

本日も9時からスタートで、『13 minutes』というドイツ映画へ。1939年に、ヒトラーが演説する会場に爆弾を仕掛けたものの、爆発の13分前にヒトラーは会場を離れており、未遂に終った暗殺事件があった。本作は、その実行犯である実在した男性の半生を描くドラマ。

未遂に終ったことは冒頭で明らかになるので、本作にヒトラー暗殺が成功するかどうかのサスペンスはなく(周知の史実であるからそのようなものはそもそも必要ない)、男がいかにして実行に至ったかがフラッシュバックで語られていく。クライマックスがあらかじめ失われた中で、映画をどう盛り上げていくか。脚本家の腕の見せ所となる作品だ。

ドイツの世論が完全にヒトラー崇拝になびく中で、いかにして男は確信を持って世間の常識に抗うことが出来たのか。『Queen of the desert』のガードルード・ベルがそうであったように(Day2のブログ参照)、どうして彼だけが現状を突き破ろうとする意識と勇気を持ち得たのか。いまの我々が学べることはあるのか。それとも、時代は「天才」の出現を期待するしかないのか…。これもまたひとつ「現在性」をまとった作品なのだろう。

上映終わって、スタバでコーヒーを飲み、また会場に戻って1時間列に並び、12時半からコンペ作品で『Sworn Virgin』(写真)というイタリア映画へ。主演は、去年の東京国際映画祭にも『ハングリー・ハーツ』で来日してくれた、アルバ・ロルヴァケル。

アルバニアの山中で独自の文化と風習を持つコミュニティーがあり、そこでは男女の役割が前時代的に区別されている。女性は抑圧された立場にあるが、生涯処女であることを誓うことによって、女性は男性として生きていく自由を与えられる。ヒロインは、自分のセクシャリティーを犠牲にし、自由を選択する。長髪を切り落とし、男の名前を与えられ、胸にはさらしを巻き、男として10年生きる。やがて、養父母が亡くなると、ヒロインは山を捨て、イタリアのミラノに義理の姉を訪ね、都会の生活の中で、改めて自分のアイデンティティーと向き合い、女性としてのセクシャリティーを解放していく…。

このような奇習が本当に存在するのかは分からないのだけれど、作り話にしては極端なので、おそらくは事実を背景にしているに違いない。繊細という形容が、これほど当てはまることもないだろうと思われるくらい繊細な役柄を、アルバが見事に演じていく。アルバ無しでは成立し得ない作品だ。

持って生まれた身体的な性とは異なる性別で生きざるを得ない人物の姿を描いた作品は少なくないけれど、それが性同一性障害といったものではなく、民俗的奇習が理由となっていることが特異にして新鮮で、これまた、さすがベルリンだ。今日も朝からたくさん考えさせられる!

上映終わり、毎日食べても全く飽きることのないソーセージのランチを速攻で食べて、いったんホテルに戻り、大量に溜まった資料類を抱えてもはや閑散としているマーケット会場へ行き、国際宅急便で東京に送る手配を済ませ、1件だけドイツの会社とミーティング。

30分のミーティングを終えて、今回のベルリンで初めて地下鉄に乗り、離れた会場で「パノラマ」部門の上映に向かい、見たのは『Murder in Pacot』というハイチの作品。2010年に起きたハイチの大地震の直後、全てを失ってしまった富裕層の夫婦の姿を描く物語。主演は、クレール・ドゥミ監督作品などでお馴染みの、アレックス・デスカス。

大震災後の夫婦の風景、という内容なので、日本人としてはとても興味深いのだけれど、現地に特有の階級社会(白人と黒人、あるいは黒人間の富裕層と貧困層、など)を巡る状況の描写がモチーフとなっているので、単純に東日本大震災との比較が出来るわけではない。極限状態を経験した夫婦の心理状態を描く前半は、まだ何とか理解が及ぶ気がするものの、ある娼婦の存在が夫婦の関係を脅かすに至り、後半は通俗的なドラマに堕ちてしまっている感が拭えない…。

続けて、同じ会場で、20時から「フォーラム」部門の『Superworld』というオーストリアの作品。スーパーマーケットでパートをする平凡な主婦が、ある日突然頭の中に声が聞こえ始め、日常の行動がすこしずつ狂っていく様を描く物語。果たして、ただの幻聴なのか、初期の認知症なのか、それとも宇宙あるいは神なる者からの交信なのか。

オーストリアの美しい郊外で、不穏な雰囲気が静かに展開する前半はとても面白く、食い入るように見入ってしまうのだけれど、後半になっていささか失速し、んー、残念。

また地下鉄に乗ってメイン会場に戻り、22時半からの上映に行こうと思ったものの、どうにも触手が伸びない内容のようだったので、本日は切り上げることにして23時にホテルに帰還。

ああ、またダラダラと書いてしまったなあ。思考を揺さぶる作品が多いので、頭を整理しようとしながら書いていくと、どうしても長くなってしまう…。本当はもっと文章を簡素に練ってからアップするべきなのだけれど、本日は力尽きてしまい、そろそろダウンです。ごめんなさい!
《矢田部吉彦》

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