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【MOVIEブログ】2016カンヌ映画祭 ラインアップ予習(下)

カンヌ予習の第3弾は、「監督週間」と「批評家週間」の各部門をチェック!

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カンヌ予習の第3弾は、「監督週間」と「批評家週間」の各部門をチェック!

この両部門は、「コンペ」や「ある視点」の選定を行う映画祭本部とは別に、それぞれ独立した事務局があって、独自の運営をしています。なので、厳密に言えばカンヌ映画祭の「公式部門」ではないのですが、いまやごく普通にカンヌ映画祭の一部とみなされているので、いまさら区別する人はいないです。

さて「監督週間」のラインアップ、並べます。

『Sweet Dreams』マルコ・ベロッキオ(イタリア)
『Dog Eat Dog』ポール・シュレーダー(アメリカ)
『The Aquatic Effect』ソルヴェイグ・アンスパッシュ(フランス)
『Les Vies de Therese』セバスチャン・リフシッツ(フランス)
『Tour de France』ラシッド・ジャイダニ(フランス)
『Mercenaire』サッシャ・ヴォルフ(フランス)
『Divines』ウーダ・ベンヤミナ(フランス)
『L’Economie du couple(After Love)』ジョアキム・ラフォス(ベルギー)
『My Life as a Zucchini』クロード・バラス(スイス)
『Like Crazy』パオロ・ヴィルズィ(イタリア)
『Fiore』クラウディオ・ジョヴァンネージ(イタリア)
『Wolf and Sheep』シャールバヌー・サダット(デンマーク)
『Risk』ローラ・ポアトラス(アメリカ)
『Two Lovers and a Bear』キム・グエン(カナダ)
『Mean Dreams』ネイサン・モルランド(カナダ)
『Endless Poetry』アレハンドロ・ホドロフスキー(チリ)
『Neruda』パブロ・ラライン(チリ)
『Raman Raghav 2.0』アヌラーグ・カシュヤプ(インド)

部門のオープニング作品として迎えられるのが、ベロッキオ(写真)。コンペ常連監督が「監督週間」に入ることは珍しくはないですが(昨年のデプレシャンとか)、巨匠ベロッキオがコンペに入らなかったのはイタリア人としては残念でしょうね。逆に「監督週間」事務局では喝采でしょう。まあ、僕らとしては、どちらでも見られればいい、というのが本音だったりしますが…。去年の東京国際映画祭では前作『私の血を流れる血』(’15)を上映しましたが、時空を超えた実に摩訶不思議なドラマでした。今作はベレニス・ベジョとヴァレリオ・マスタンドレアという仏伊のスターが共演。ベロッキオで失望することはまずないので、今年も期待が高まるばかりです。

クロージング扱いなのが、ポール・シュレーダー監督新作。これまた大物。ニコラス・ケイジとウィレム・デフォーの共演と聞いただけで興奮しますな。刑務所から出所して社会に適応しようともがく男たちの物語、だそうです。

さて、地域別に見ていきますが、ここでもフランス映画5本と多い。とはいえ、注目作が並びます。

実力派女性監督として近年良作を連発していたソルヴェイグ・アンスパッシュ監督は、54歳の若さで昨年他界してしまいました。カリン・ヴィアールと組んだ『Haut les coeurs!』や『素顔のルル』など、前向きで力強い作風が特徴で、現代が必要とする才能だったはずです。無念。今回上映の『The Aquatic Effect』が遺作となってしまいました。

セバスチャン・リフシッツという監督を僕は寡聞にして知らなかったのですが、調べてみるとクレール・ドゥニの弟子筋のようですね。会話よりも肉体を重視する作家で、セクシャリティをテーマにした作品を多く手掛けています。今作『Les Vies de Therese』は、今年の2月に亡くなった、フェミストで活動家のテレーズ・クレールという女性の最後の日々をカメラに収めたもののようです。

ラシッド・ジャイダニ監督は、長編1本目の前作『Hold Back』(’12)も「監督週間」に出品されて、国際批評家連盟賞を受賞しています。今作『Tour de France』はジェラール・ドパルドューを主演に迎え、ドパルデューと20歳の若いラッパー青年との交流を描くロードムービー、みたいです。世代や文化の衝突を乗り越えた年の離れたバディー・ムービーかな? だとしたら面白そう。

サッシャ・ヴォルフ監督は、今作が長編デビューの男性新人監督。ラグビー選手が田舎から都会に出て苦労する話(?全然違うかも)。リアリズム系のよう。ウーダ・ベンヤミナ監督も聞いたことが無い名前で、でも今作が2本目になる女性監督。アラブ系移民の女性がドラッグ・トラフィック系でのし上がろうとする話、かな? ここらへんはもう見るしかないですね。見ないと分からない。

ベルギー出身のジョアキム・ラフォス監督は、前作『Our Children』(’12)が「ある視点」部門で女優賞を受賞しています。前作の『White Knights』(’15)では、アフリカの子どもたちを救おうとする善意が人身売買のスキャンダルに発展してしまったという、衝撃の実話を見事に映画化していて、ラフォス監督の確かな演出力を改めて証明する出来栄えでした。最新作『L’Economie du couple(英題はAfter Love)』では、ベレニス・ベジョとセドリック・カーンが共演し、離婚したけれども経済的に同居せざるを得ないカップルを描いたドラマとのこと。これは絶対に見たいです。

スイスのクロード・バラス監督『My Life as a Zucchini』は、アート系アニメーションですね。ビジュアルはとてもかわいい。

イタリアのパオロ・ヴィルツィ監督は、東京のイタリア映画祭でも作品がよく上映されるので、知っている人もいるのではないかな。『見わたすかぎり人生』(’08)はDVDが出ているはず。国内外で賞を取りまくった前作『Human Capital(英題)』は今年の秋に日本で公開(Bunkamuraル・シネマ等)になるし、現在52歳で脂が乗って絶好調、イタリアを代表する実力派のひとりと言ってもいいでしょう。新作では、前作に続いてヴァレリア・ブルーニ・テデスキを主演に迎え、精神病院から逃げ出した二人の女性の破天荒な旅を描くものとのこと。うわあ、テデスキ好きにはたまらない感じだけど、テデスキ苦手派(結構いるみたい)には辛そうだな。僕は当然前者なので、当然楽しみ。

もうひとりイタリアから、ヴィルツィより少し若手のクラウディオ・ジョヴァンネージ監督。『Ali Blue Eyes』(’12)がローマ映画祭の新人賞を受賞しています。同作品は『青い眼のアリー』というタイトルで「映画で旅するイタリア」企画の中の1本として2015年に東京でも上映されていますね。今作『Fiore』は、ティーン犯罪もののよう。イタリア期待の才能、チェックせねば。

デンマークとクレジットされている『Wolf and Sheep』のシャールバヌー・サダット監督は、アフガン出身の女性のようです。前作が共同監督だったようで、単独監督としてはこれが1作目になるみたい。アフガニスタン北部の山に暮らす羊飼いたちの暮らしを描くドラマで、「女性の魂を吸い取ってしまう2足歩行の狼の伝説が生きる場所」、という映画の説明に興味が止まらない。これは絶対見る。

アメリカのローラ・ポイトラス監督は、2015年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した『シチズンフォー スノーデンの暴露』(6月からイメージフォーラムで日本公開!)の監督です。僕は『シチズンフォー』を見逃したままで、従って劇場公開を猛烈に楽しみにしているわけですが、彼女が新作ドキュメンタリー『Risk』で取りあげるのは、なんとウィキリークスの編集長ジュリアン・アサンジ。スノーデンに続いてウィキリークスとは、タイムリー過ぎますね。ああ、『シチズンフォー』を早く見ておくべきだった…。ともかく『Risk』は「監督週間」の中でも目玉の1本でしょう。

カナダのケベック出身のキム・グエン監督は、日本でも劇場公開された『魔女と呼ばれた少女』(’12)がベルリンのコンペで主演女優賞を受賞して、一気に注目を浴びた存在です。『魔女と呼ばれた少女』は、アフリカを舞台にした厳しいリアリズムの映画でしたが、今作『Two Lovers and a Bear』は北極近くの小さい町を舞台にした若い男女の話のようで、全く雰囲気が違うみたい。いや、子どもたちや若者が主役となるという点では共通するのかな…。んー、これも見たい。

同じくカナダのネイサン・モルランド監督は、2011年にトロント映画祭でカナダ映画の新人賞を受賞していて、今作『Mean Dream』が2本目の長編監督作。15歳の少年が麻薬入りのカバンを盗み、少女と逃避行、その少女の父親が警官で彼らを追いかける…。なるほど。

そして南米からは…、出た! ホドロフスキー新作!『リアリティーのダンス』で電撃的な復活を遂げたのが2013年。『ホドロフスキーのDune』も史上に残る傑作でした。新作『Endless Poetry』も自伝的内容で、『リアリティーのダンス』の続編に位置付けられる作品とのこと。そして製作国クレジットが、チリ、日本、フランス、となっている…。そうだった、Aさんが製作に入っているのだった! ということは、日本公開は確実ですね。ああ、安心した。

もう1本チリからは、これまた強力な作家、パブロ・ラライン。ピノチェト独裁政権を描く3部作で有名になり、その3本目の『NO』を東京国際映画祭のコンペで上映できたことは大きな喜びでした。その後、劇場公開も実現しましたね。僕は彼の自在な演出力に心酔している一人なので、いつも新作を待ちわびています。前作『The Club』(’15)はベルリン映画祭で審査員賞を受賞。そして今作は『Neruda』というタイトルから分かるとおり、ノーベル文学賞を受賞したチリの詩人、パブロ・ネルーダを題材に取り上げているようです。果たしてどのような形でネルーダを語っているのか…。これも「監督週間」の大きな目玉の1本!

そしてインドからは、世界の映画祭に出品が相次ぐアヌラーグ・カシュヤプ監督。『Gangs of Wasseypur』(’12)が話題になり、『Ugly』(’13)がカンヌ「監督週間」に入りました。2作続けての「監督週間」ですが、今作では60年代を舞台にムンバイのシリアル・キラーを描くとのこと。ビジュアルもなかなか強烈なので、期待できそうです。

というわけで、これまた見たい作品が目白押しですね。でも「監督週間」、東アジア作品ゼロかよー、とちょっと欧米偏重に泣き言を言いたい気持ちにもなりますね…。来年はもっと頼むよ「監督週間」!

さて、最後、「批評家週間」です。ここは、長編2本目までの新人監督のみが対象なので、名前を並べても知らない人ばかりかもしれません。過去に同部門の短編コンペで受賞した人の初長編が選出される、というパターンも多いですね。長編ラインアップはこんな感じです(短編は割愛):

<「批評家週間:長編コンペ>
『Album』Mehmet Can Mertoglu(トルコ)
『Diamond Island』ダヴィ・チュウ(カンボジア・フランス)
『Raw』ジュリア・デュクルノー(フランス)
『Mimosas』オリヴエール・ラクス(スペイン)
『One Week and a Day』アサフ・ポロンスキー(イスラエル)
『Tramontaine』Vatche Boulghourjian(レバノン)
『A Yellow Bird』K. Rajagopal(シンガポール)

この中で特筆しておきたいのが、カンボジア系フランス人のダヴィ・チュウ監督の作品が入っていること! 東京国際映画祭でも上映した『ゴールデン・スランバーズ』(’11)は、祖国カンボジアの映画史を発掘していく貴重なドキュメンタリーでした。今回はフィクション長編で、カンボジアの現代若者気質が描かれるらしく、チュウ監督の演出力に期待が高まります。

もう一本、とても気になるのが『Raw』で、この作品の一部の映像をベルリン出張時に見たのだけど、すんごいエグかった…。Raw、つまり「ナマ」、これはおそらくナマ肉のことで、ベジタリアンの女性に異変が起きるっぽい内容で、かなり気味が悪そうなのだ…。つまり、それは、必見ということでもある…。

スペインのラクス監督も今作が2作目で、1本目の『You are all captains』(’10)が「監督週間」に出品されて、国際批評家連盟賞を受賞しています。1本目「監督週間」で、2本目が「批評家週間」というのは、結構珍しいパターンではないかな。とても良さそうな匂いがします。

シンガポールは「ある視点」と「批評家週間」に1本ずつ入ってすごい。K. Rajagopal監督はインド系のシンガポール人のようで、短編はたくさん作っているようだけど、長編はこれが1作目。51歳の遅咲きデビューのようで、気になります。

トルコのMehmet Can Mertogluという監督の名前は知りませんでしたが、トルコの新人で「批評家週間」に選ばれたら、絶対出来がいいという確信があります。これは賭けてもいい!

<「批評家週間:特別上映」>
オープニング作品:『In Bed With Victoria』ジュスティーヌ・トリエ(フランス)
クロージング作品:『Smile』サンドリーヌ・キベルラン(フランス)、『En Moi』レティシア・カスタ(フランス)、『Kitty』クロエ・セヴィニー(アメリカ)

「批評家週間」にもオープニングとクロージングがあって、クロージングの3本は短編だそうな。何でわざわざここで紹介したかというと、かつて猛烈に好きだったクロエ・セヴィニーを目撃できるのかもしれないという胸のざわめきを押えきれないからで、ああ、どうしよう。そして、女優として現在絶好調のサンドリーヌ・キベルランがどのような作品を作るのかも、とても気になります。

というわけで、カンヌで上映される作品の予習をしてみました。あとは短編とか、クラシックとか、まだまだ色々ありますが、主要部門としては大体こんなところです。

最後に付け加えたいのですが、今回ラインアップが揃って一番驚いたのが、中国映画が全部門を通じて1本も選ばれていないことでした。カンヌにおける東アジア勢の存在感の薄さについては冒頭に書きましたが、世界中の映画業界が中国との共同製作を模索し、何とか中国マーケットに取り込もうと躍起になっている中、世界最高の権威を持つ映画祭にその中国からの作品が1本も無い…。

単純に言って、中国で質の高いアート系作品が減り、主たる商業映画がカンヌ的な価値観とは無縁なところで作られているということかもしれません。でもカンヌにも世界最大の映画マーケットが併設されていて、中国勢の参加も年々増す一方です。なので、映画祭プログラムにおける中国の不在からは、映画祭とマーケットとの乖離現象というか、ねじれ現象のようなものを感じてしまいます。さらに単純化して言えば、ハリウッド的商業映画と、ヨーロッパ的アート映画という従来の2極に、中国的商業映画(中華圏にしか通用しないが、その分母が巨大)の第3極が加わり、世界の映画は3極化を経た上で、カンヌ的価値観は徐々に押しつぶされて弱まっていくのではないか、という想像も広がります。

もっとも、カンヌ的アート映画が興行的には決して強くはないのはいまも昔も同じなわけで、映画祭はアート、マーケットでビジネス、という2枚の顔を用意しているカンヌは、もともと清濁併せ呑む存在なわけであり、中国映画がラインアップに入らない事態を深読みしようとする必要もないのかもしれません。

むしろ、仮にアート系の作品を作る機会を中国の映画作家が奪われているとしたら、それこそが見過ごせない問題なのでしょう。いや、検閲が云々という問題だけではなく、市場の原理にそぐわない創作活動が極端に脇に追いやられる状況があるとしたら、そしてそれが世界最大の映画市場の常識となっていくとしたら、そこから未来の国際的映画業界がどういう影響を受けるのか…。いや、何だか書いていて文脈が破たんしている気がするので、やめときます。ただ、中国映画ゼロ本にショックを受けてしまい、これはいかなることかと考えたくなってしまったのです。また、カンヌで入場列に並んでいるときにでもぼんやり考えてみることにします。

ラインアップ研究、あまりにも長文になってしまいました。お付き合い下さった方、ありがとうございます。それにしても、カンヌ前にこんな長い予習ブログを書いたのは初めてだなあ。予習はしたものの、いったい何本見られることやら…。ともかく、GWを潰したこの予習が必ず役に立つと信じて、10日(火)に出発します。極力ブログも連日更新するつもりなので、どうぞよろしくお付き合い下さいませ!
《矢田部吉彦》

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