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【MOVIEブログ】2016カンヌ映画祭 Day3

13日、金曜日。6時15分起床、すぐさまパソコンに向かい、今週中に決断を迫られていた重要な案件についてメールを書く。正しい決断であったと、後から思えますように…。7時を回ってしまったので、慌てて支度をして、外へ。今日も、晴れているけど肌寒い。

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13日、金曜日。6時15分起床、すぐさまパソコンに向かい、今週中に決断を迫られていた重要な案件についてメールを書く。正しい決断であったと、後から思えますように…。7時を回ってしまったので、慌てて支度をして、外へ。今日も、晴れているけど肌寒い。

本日も8時半からコンペの上映へ。これまた楽しみだった1本、ブリューノ・デュモン監督新作『Slack Bay』(仏題:“Ma Loute”)。シリアスな作品で知られるブリューノ・デュモンだけれど、TVのミニシリーズとして作った前作『Li’l Quinquin』からブラック風味の奇妙なコメディータッチを用いるようになり、芸風が変わってきた。本作もその延長線上にあって、コメディーというか、シュールなユーモアを含んだ寓話、と言っていいかな。

20世紀初頭、北フランスの海沿いの村で失踪事件が相次ぎ、警察が調査に入る。一方で、貧しい漁師の一家の息子と、夏休みで土地を訪れた金持ちブルジョワ家庭の娘とが惹かれ合っていく…。こう要約しても何も伝わらないのだけど、漁師一家に恐ろしい秘密があったりして、物語は自由に展開して先が読めない。広大なランドスケープに個性的な地元の人々というデュモン従来の世界観は健在でありつつ、今作ではスター俳優も起用しているのが珍しい。ブルジョワ家庭の主人にファブリス・ルキーニ、妻にヴァレリア・ブルニ=テデスキ、主人の妹にジュリエット・ビノシュ。ブルジョワ家庭には超有名スターを使い、同じ比重を持つ漁師一家には従来のように素人俳優を使うという、この使い分けもデュモン一流のリアリズム演出なのだ。

とにかくキャラクター造形が素晴らしく、スター俳優たちに演劇的でコミカルな演技をさせても、全体から浮いてしまわない世界観の作り方が本当に上手い。作品の持つ真のメッセージを読み取るには熟考がまだ必要なのだけれど、デュモンのフィルモグラフィーで独自の地位を確立する1本であることは間違いない。ああ、書きたいことがたくさんある…。

続いて11時15分から「ある視点」部門のキリル・セレブレニコフ監督『The Student』へ。セレブレニコフ監督については「カンヌ予習ブログ」でも書いた通り、最も期待がかかるロシア新世代の監督のひとりで、はたしてその期待は裏切られることはなかった!

高校生の男子がキリスト教に目覚め、聖書原理主義の言動を繰り返し、母親と学校を混乱に陥れていくドラマ。とにかく激しい。少年は聖書から自在に言葉を引用しながら「正論」を振りかざし、周囲と激烈な論争を繰り広げる。リアリズム演出で、衝突の熱量が半端じゃない。ああ、宗教が介入したときに発散されるこの激しさは、仏教国ではおそらく見られないものであり、せめて我々は映画を通じて、かの地の人々を行動に駆り立てる心理を垣間見ることで、少しでも理解力と想像力を高めていく必要があると痛感する…。

いや、特に宗教に対する知識や関心がなくとも、人間が持つ衝動を真っ向から描く本作は、多くの人に訴えるものを持つ秀作だ。

上映終わって13時半、急いでカンヌ市内のレストランに向い、東京国際映画祭と主に海外のメディア関係者との懇親パーティーに出席し、14時50分まで交流。

15時から、映画会社とのミーティングが2件。

16時にミーティングは終わり、17時からの「監督週間」の上映に並ぶ。1時間前なのに、既に長蛇の列だ! 作品は、チリのパブロ・ラライン監督新作で『Neruda』。詩人のパブロ・ネルーダは有力な共産党員でもあったことで当局から狙われ、その逃避行を描くもの。緻密な脚本に唸らされるものの、ネルーダを追う当局側の人員(ガエル・ガルシア・ベルナル)のモノローグで進行していく作りにいまひとつ馴染めず、いささか消化不良に終わってしまった…。いや、これは僕の体調(時差ボケが出てきた)も影響しているはずなので、もう一度見る必要がある…。

19時半にいったんホテルにもどり、一瞬休んで体制を立て直し、蝶ネクタイを締めて、気合いを入れて外へ。

20時過ぎに会場に行き、1時間ほど並んで、21時半からのコンペの公式上映で、ケン・ローチ新作『I, Daniel Blake』(写真)。まずまずの席を確保して、いざ上映。過去数作が、良作ではあったけれどケン・ローチにしては柔らかい内容であったことに多少の物足りなさを感じていた僕としては、今回は久しぶりにハンマーでガツンと殴られるような痛みを感じさせられ、これぞケン・ローチと心底感銘を受けた!

心臓発作の影響で医者から仕事を止められた大工職人の主人公が、社会保障の受理を巡って役所仕事の理不尽な壁と格闘する物語。一貫して弱者の立場から映画を作り続けてきたケン・ローチの王道を行く作品であり、徹底したリアリズムに胸がかきむしられる。主演俳優は無名だけれども、理不尽な状況の中で優しさを失わないタフな主人公を見事に演じ、主演男優賞候補に上がるかもしれない。上映後は割れんばかりの拍手、本気のスタンディング・オベーションが続き、ケン・ローチも目を潤ませ、役者たちは涙を流していた。本当に感動的な瞬間で、カンヌ序盤のハイライトであったことは間違いない…。

日本での公開もあるだろうから見なくてもいいかと一瞬思っていたのだけど、本当に見てよかった。これが本当にケン・ローチ最後の作品になるとしたら、歴史的瞬間に立ち会ったのかもしれない。

ホテルに帰り、重大決断メールとデュモンから始まり、感動のケン・ローチで締めた一日を振り返りつつ、オーバーヒート気味の頭を冷やすべくビールなど飲みながら(失礼)ブログを書き、本日もぼちぼち2時だ。寝ます!
《矢田部吉彦》

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