ここで見ることができたのは「アジア・パノラマ部門」に出品されている『Leaf of Life』というイラン映画で、監督がかつて自ら作ったドキュメンタリーをモチーフに、新たにフィクションとしてその体験を再構築した興味深い作品だった。キアロスタミが切り開いた道の延長線上に位置する映画だろうか? 砂漠に咲くサフランの花が鮮やかに美しく、イラン映画の奥の深さが味わえる作品だ。
夜は上映を見ることにして、19時20分からコンペ部門のイラン映画で『The End of Dreams』という作品。オーソドックスな児童映画で、悪いことをしたらバチがあたりますよ、というストレートな内容だ。山村に暮らす少年が馬好きのあまり親に黙って深夜に馬を連れ出したところ落馬してしまい、転倒した馬は翌日出産中に死亡、少年も頭を打った後遺症で失明してしまう…。とまあこんな話。コンペにイラン映画は3本あって、それぞれ全く異なるテイストの作品を揃えたという印象だ。
13時から「折れたオリーブの木」部門で『Kweires My Home Land』という2016年のイラン映画。ISISによるシリアのアレッポ占拠が続く中、クエイレスという空軍基地を死守したイラン軍兵士たちの3年間にわたる戦いを描く内容のドキュメンタリーで、ISISの残虐非道な行為や生々しい戦闘の映像が見る者の血を凍らせる。携帯で撮影された映像や、監視カメラの映像、ニュース映像、兵士へのインタビューなどで構成され、ひとりの兵士の出兵と帰還のドラマにもなっている。それにしても何と貴重な特集であることか。映画にアクチュアリティーを期待するとしたら、この部門ほど重要な特集はないだろう。全作品を見る時間が作れなかったことがつくづく悔やまれる。
監督賞はコロンビア作品『Guily Men』のIvan D. Gaona監督へ。僕は本作を昨年見ていたのだけど、骨太の物語にセンスの良い映像と音楽が加わり、完成度の高い作品だと思っていたので納得。コロンビアは現在もっとも映画的に熱い国のひとつなので、その勢いをファジルでも証明した形だ。コロンビアのフォローは欠かせない。