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【MOVIEブログ】2017東京国際映画祭 Day7

31日、火曜日。9時起床。4時間半睡眠ですっきり。今年は映画祭の前半戦にオールナイトが入るという初めての経験だったわけだけど、どうやら影響もなく後半も進めそうだ。天気も上々で、10時前に事務局へ。

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『最低。』
(c)2017 TIFF 『最低。』
  • 『最低。』
31日、火曜日。9時起床。4時間半睡眠ですっきり。今年は映画祭の前半戦にオールナイトが入るという初めての経験だったわけだけど、どうやら影響もなく後半も進めそうだ。天気も上々で、10時前に事務局へ。

10時半から、「スプラッシュ」部門の『ひかりの歌』の上映前舞台挨拶司会へ。杉田協士監督、北村美岬さん、並木愛枝さん、松本勝さんが登壇。ご挨拶に続いてシンプルな質問に答えて頂いて、上映スタート。この回のQ&A司会を僕が出来ないので、せめて舞台挨拶をやらせてもらった次第。

北村美岬さんは大きな目がとても印象的なチャーミングな女優さん、松本さんは一緒にお酒が飲みたくなる明るい俳優さんで、お会い出来て嬉しい。そして並木さんは、「群青いろ」の作品を通じて常に注目したい女優のひとりであり続けていて(映画祭では2010年の『FIT』でとてもお世話になった)、今回久しぶりにご一緒できてとても光栄。長く不在であった男が戻ってきて、複雑な気持ちを飲み込みながら嬉しさを少しずつのぞかせる繊細な役柄が見事で、やはり今回も見惚れる。

それにしても、平日の午前中で満席。かつてロッテルダム映画祭に通っていたとき、どうして平日の午前中にこんなにお客さんがいるのだろうと羨ましく思ったことがあるけれど、トーキョーも近づいてきた? いや、これは本当にお客さんに感謝してもしきれない。そして人を惹き付ける作品を作ってくれている監督たちにも!

11時に事務局に戻り、担当作品を復習すべくDVDを1時間鑑賞。

12時45分からコンペ『泉の少女ナーメ』の2度目のQ&A。ザザ・ハルヴァシ監督と主演のマリスカ・ティアサミゼさん登壇。映像派なので言葉を引き出すのが難しい(聞くのが野暮になるおそれがある)タイプの作品だけれども、1回目のQ&A以来監督との距離も縮まっているので、今回は進め方も少し工夫したりしてより有意義な話を聞けたのではないかな。

ザザ監督は物質と精神の重要性について触れ、これはずばり『グレイン』に通じる主題であり、今年のコンペの裏テーマは「物質と精神/息吹と穀物」だったのかもしれないと壇上で思いを巡らす。古い神話が壊れ、新しい神話が作られるのだというコメントも示唆に富んで刺激的だ。

上映後、今年はアジアの未来部門『ポーカーの果てに』のプロデューサーとして来日している旧知のトルコ人が、「過去にTIFFで見た150本を超す作品の中で最も好きだ」と興奮しながら話しかけてきた。次作をプロデュースしたいとも! 彼だけではなく、多くの人が『泉の少女ナーメ』に対して賞賛の言葉を口にしている。嬉しい。

『ナーメ』のプロデューサーから楽屋で聞いた裏話で面白かったのが、劇中で重要な役割を果たす魚が撮影中にどんどん育って大きくなってしまい、たらいのサイズに合わなくなってきて困ったとのこと!

13時半に事務局に戻ろうとすると、ある日刊紙の記者の方に声をかけられ、今年のコンペはとても面白いとのこと。普段は辛口の方なので、とても嬉しい。もっとも、そうでもない意見の方も当然いらっしゃるので、喜び過ぎは禁物だ。あらゆる人に満足してもらえるセレクションなどあるはずがないという自覚と、それが開き直りにならないようにせねばという戒めと、選定時の色々な思いが蘇ってくる…。

事務局に戻り、7月末に出張で見て以来見る機会がなかった『スパーリング・パートナー』を業務用DVDで久しぶりに鑑賞する。開始直後から涙腺が緩みだし、やがて決壊して止まらなくなってしまった。こちらが少し弱っているからかなのかな。事務局の片隅でみんなに背を向けてグシュグシュとすすり上げてしまい、バレてないといいのだけど。いやあ、いい映画だ。コンペに招待してよかった(今頃言うかそれ、だけど)。

顔を洗って16時からコンペ『シップ・イン・ア・ルーム』の2度目のQ&A。このチームも映画の静けさと呼応するように静かなチームなので、少しでも(場を乱さない程度に)明るく進行するように心がけてみた(とはいえ、出来ることはあまりないのだけど)。でも、ここでもリュボミル監督のキャラクターがつかめてきたので、はぐらかしの回答に突っ込むことも徐々に出来て、全体に雰囲気は良かったのではないかな?

この映画は細かいところにまで気を配る日本と相性がいいはず、というような趣旨の監督の発言にはこそばゆい気分になるけれど、控えめで行間を読ませる本作に好感を持った人も多いはず。

本作では、引きこもりの青年に外の世界を見せるべく、主人公がランダムに撮影した港や街の映像を家の壁に映写する場面が見事なハイライトになっているのだけど、「パソコンで映像を青年に見せることも出来るのに、壁に投影して映像を見せるということは、現在の映画の状況について監督も思うところがあるのではないですか?」というナイスな質問に対し、監督の答えは「特に意識しませんでした」。

しかし監督は言いながらニヤっと笑ったし、はぐらかしの答えが本音でないのはみんな気付いたことでしょう。こういう監督の傾向が分かってくると、Q&Aも奥深いものになっていく。本作のQ&Aは2回ともなかなか手ごわかったけど、いずれも意義深いものだった。どんな日常の光景でも映画になりうることを体験させてくれて、そして繊細な優しさに包まれた本作を決して忘れることはない。

16時45分に終了し、10分後から「スプラッシュ」部門の『地球はお祭り騒ぎ』の2度目のQ&A。今回も渡辺監督とのやり取りは軽快に進み、あっという間の30分。印象に残ったのは、ジム・ジャームッシュからの影響を客席から聞かれたときで、監督は「確かにかつて影響があったかもしれないが、前作あたりから自分のものとして掴めたものがある気がしているので、もはや意識することはない」という主旨の発言で答えた。

一人の作家の作品を紹介し続ける醍醐味は、このようなスリリングな場面に立ち会えることだ。僕も渡辺作品が独自の作風を確立しつつある気がしていたので、映画祭が並走していることが実感できる。観客もついてきているし、渡辺紘文監督の今後がますます楽しみだ(と毎年書いている気がするけど、楽しみは増すばかり)。

17時35分に事務局戻り、また別の作品のDVDを50分くらい見る。

18時45分にシネマズに行き、コンペ部門『スパーリング・パートナー』のチームを待ち受ける。しかし、来ない! 19時10分からQ&A開始予定だけど、ホテルからの出発が遅れている? アテンド担当から刻々連絡は入るけど、滑り込みになるかもしれない。しかしまあ、僕もさすがにこのくらいのことでは慌てないようになったので、間に合わなくても先に登壇して間を繋げばいいやくらいに思っていると、見事に19時10分にご一行が舞台袖に到着。みなさん息ゼーゼーの中、急いで自己紹介して(今日の昼に来日したばかりで会うのが初めて)、即登壇、Q&A開始。

それにしても紹介コールで、マチュー・カソヴィッツさんです! と呼べたときの気持ちよさと言ったら! お迎えできて本当に嬉しい。会場にも熱気がこもる、最高の雰囲気。サミュエル・ジュイ監督、そして実際のボクシング世界チャンピオンであったソレイマヌ・ムバイエさんも共に登壇し、監督のボクシングへの関心、マチューのボクシング本気度、そして本物のチャンピオンの参加などについてエピソードを披露してもらう。

僕からマチューさんに「『カフェオレ』を見直したら、冒頭でマチューさんとヴァンサン・カッセルさんがボクシングしているシーンがあってびっくりしました。全然覚えていませんでした。あんな昔からボクシング本気だったんですね」と聞くと、この指摘を喜んでくれたようで「でもあのときはまだ本格的に始めてなかったんですよ」とのこと。その後キック・ボクシングにはまり、日本でK1のリングにも上がっているとのこと。これは僕は知らなかったのでとてもびっくりした。

本作はボクシングがモチーフの作品で、振り付けでなくガチでボクシングシーンを撮っていることが特徴のひとつであるけれど、観客の方が指摘された通り(いつも盛り上げて下さる方)、ムバイエさんの演技がボクサーとは思えないほどうまい。セリフ回しに素人臭が一切ない。本作の成功の一因であることは間違いない。

ボクシング映画というと、強者ばかり描かれるけれども、プロの80%を占める強者でないボクサーの存在抜きではボクシング興行は成り立たないので、陽の当たらないボクサーに興味を持ったと監督は語る。そこに生活感をもたらし、生身の男とその家族のドラマとして作られたのが本作だ。

マチューの絶妙の「ダメ感」が僕にはたまらなく、涙が止まらなくなってしまうわけだけれども、ちょっと全体がボクシングの話ばかりになってしまったので、少し方向転換を試みる。というのも、本作がここまで魅力的である最大の理由は妻と娘の二人の女性の存在にあるのは間違いないから。なのでそこについてもっと聞きたかったのだけど、時間切れになってしまった。次はEXシアターで上映があるので、絶対に聞いてみるつもり。まだチケットが入手可能のようなので、可能な方は是非とも!

続いてシネマズのスクリーン7で、コンペの日本映画『最低。』の上映前舞台挨拶司会。こちらも今年の日本映画を代表しうる1本だ。瀬々敬久監督、森口彩乃さん、佐々木心音さん、山田愛奈さん、そして原作の紗倉まなさんが登壇。ワールド・プレミアの晴れの舞台に同席できて光栄だ。みなさんに一言ずつ頂いて、上映開始。

僕はシネマズを速攻で抜けて、20時半に近隣の居酒屋で行われているゲスト・パーティーに行き、乾杯の音頭をとってから、冒頭の30分だけ交流。もっと長く滞在したいのだけど、次の登壇があるのでやむなく中座。パーティーで映画人と交流するか、Q&Aの司会をしてゲストと観客の間に立つか。僕にとっては双方ともに重要で、永遠のジレンマだ。何かを選べば何かを諦めるのが映画祭なのだ…。

21時にシネマズに戻り「スプラッシュ」部門の『神と人との間』Q&A司会。内田英治監督との2年振りのトークが楽しい。谷崎潤一郎作品を3本映画化する企画の1本で、その企画の背景や、絶妙なキャスティング(渋川清彦さん、内田慈さん、戸次重幸さん)の決め手について、そして渋川さんのキャラ設定について語ってくれる。

いかにして渋川さんに怒られたか、あるいは、男たちを振り回す難しい役を演じる内田慈さんの上手さについてなど、裏話も楽しい。さらに、いかに人を不快にさせるかを考えているとか、ユーモアはブラックに限るとか、正論が気持ち悪いとか、面白かったと言ってくれる人の発言が素直に信じられないとか、内田監督の内面に少し迫る展開になってさらに面白くなっていった。

「劇中の三角関係に監督本人の恋愛経験は反映されていますか?」との質問に対し、別の方向から話をしながら、ちゃんと質問の答えもそこに含める巧みさ。内田監督、トークのテクニックが増している。お客さんも大いに楽しんでいたようで、映画が響いているのが実感できる。ナイスなテンポの充実したQ&A。時間足りなかった!

内田監督は現在猛烈な勢いで製作を続けているので、本人もそろそろ休まないと、と言っていたけれども、ともかくこれからの作品を楽しみにしつつ、行動は要ウォッチだ。

内田監督と別れると『最低。』の上映が終わったので、スクリーン7に戻ってQ&A司会へ。舞台挨拶と同じメンバーが全員揃ってのQ&A。セックスやAVを背景として扱う作品なので、質問をする方も答える方も気を遣うのだけど(しかも大会場のスクリーン7だ)、終始和やかで楽しいトーンだった。佐々木心音さんの明るいキャラクターが全体のトーンを支えてくれたのが大きい。森口さんはキリっとした真面目な雰囲気で、山田さんは初々しい佇まい。コントラストのはっきりとした素敵な面々だった。

裸になることへの抵抗は? というストレートな質問も自然に場に溶け込んでいて、気まずい雰囲気にならないのが不思議。いざとなると佐々木さんが明るくフォローし、森口さんも丁寧に(そして実は大胆に)自分を語ってくれて、好感度の極めて高い場になった気がする。

かなり時間をオーバーしてしまったのだけど、最後に映画祭に慣れていないように見える若い青年が手を挙げていたので、こういう人にこそ発言してもらいたいと思って促したところ、「裸になっている人は苦しそうに見える。何を守ろうとしているのでしょうか」というような内容の質問をした。色々な意味に取れる質問だったのだけど、その青年なりに自分の疑問を懸命に絞り出しているように見えたので、僕はとてもいいなと思った。こういう若い質問者がどんどん増えればいいのにと思う。

事務局に戻ると、ソダーバーグの話や、町山さんと原恵一監督のトークが最高だったとか、様々な現場の楽しそうな報告が聞こえてくる。このブログで触れているのは映画祭のほんの一部なので、何だか申し訳ないというか、いろいろ回れない自分が情けない…。いや、まあこればっかりはしょうがない。先に書いた通り、何かを選んだら何かを諦めることこそ、映画祭の醍醐味だ!

事務局戻って0時。1時くらいまでうだうだと過ごしてしまい、それからブログをパタパタ書いて、そろそろ3時半。本日もこれにて終了!

映画祭もそろそろ終盤戦。少しだけ寂しくなってきたぞ。おかげさまで体は絶好調。このまま走ります。
《矢田部吉彦》

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