【MOVIEブログ】Cinemage:走れ森君(後)

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  • Life is like a box of chocolate. You never know what you’re gonna get.
だが、森君には彼らの声は届かなかった。森君はそれからも走り続けた。走っている間に森君は一言も発することはなかった。

誰もいなくなった校庭をただひたすらに、時計の秒針のようにぐるぐると走っていた。結局、森君は陽も落ちてそろそろ夜ご飯どきという頃になって、やっと走るのをやめた。ちょうど友達たちが彼を押さえ込んででも走るのをやめさせようとしたその矢先だった。まるで電気のスイッチを落としたかのように、森君はピタリと止まった。不思議なことに森君はあれだけ走ったにもかかわらず、呼吸も乱れていなければ、汗つぶのひとつもかいていなかった。森君の走った時間と距離から言えばそれはありえないことだった。

変わったことと言えば、森君の靴がすり減っていたくらいのことで、逆にそれ以外は何も変わっていなかった。友人たちは森君がなにかおかしくなってしまったのでは? と本気で心配した。

「大丈夫か?」

と、彼らは口々に声を掛けたが、その問いかけにも森君は「なにが?」といった感じで特に取り合いもしなかった。明日まで走り続けそうだった森君がその走りを止めたときに言ったのは、次の二言だけだった。

「おなかがすいた」
「かえろう」

そして、森君は心配する友達に囲まれながら、暗くなった道を歩いて帰っていった。優しい友達たちは森君がどこかで急に倒れてしまうのではないかと心配して彼の家の目の前までついていった。さいわい森君が道ばたで倒れることはなかった。お前はきっとすごい長生きをするよ、友達たちはそう言ってそれぞれの家へと帰っていった。夜の道には、どこかの家で海鮮料理でも作っているのか、海の匂いがしていた。

「おかえり」

森君のお母さんはいつもより遅い息子の帰りをいつもと同じ一言で迎えた。森君の方もいつもと変わらぬ「ただいま」で家に上がり、おなかがすいたよと訴えた。友人と同じように、いや、むしろそれ以上だろう、森君のことをこの上なく愛していたお母さんは、すぐに

「ちょっと待っててね。いま、あなたの好きなエビフライを揚げてるからそれまでこれでも食べてなさい」

と言って、森君に小さな箱を渡した。
その箱に入っていたのはイチゴ味のチョコレートだった。
森君はそれをすぐにたいらげた。
森君がなぜ走り続けたのか、なぜそんなに走り続けられたのか、心優しい友達にも、愛するお母さんにも、誰にも分からない。
だが、そのチョコレートの味は限りなく甘かったに違いない。

(おわり)
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・-・-・-・ー・ー・ー・ー・-・-・-

モチーフにした映画は『フォレストガンプ/一期一会』でした。
トム・ハンクス演じるちょっと愚鈍で、でも誰よりも純真なフォレスト・ガンプの人生をアメリカの歴史に紐づいて綴った感動作で、僕は大学時代にN.Y.に留学していたときに現地で観ました。ガンプが走るシーンが好きで、何回も観ました。もちろん「Life is like a box of chocolate」の名台詞も刺さりました。いまでも覚えているのは、当時受けていた大学の映画の授業でもこの作品が話題になっていて、当初授業で観る筈だった別の映画があったのですが、それが差し替えられて皆でこの映画の感想を言い合ったことです。映画も素晴らしかったですが、皆がちゃんと映画を観ていて、そういう授業ができるアメリカってスゴい!って思いました。しかし、本当に教科書のような映画ですね。
ちなみに、フォレストは日本語で「森」という意味です。


【2018.8.3】
《text:Yusuke Kikuchi》

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