【MOVIEブログ】Cinemage: エクスピレ(後)

その店員さんの携帯やお店の中で流れていたテレビを見ても、そこは2020年4月4日だった。まさかと思ったが、そこは2年後の未来だったのだ。

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  • 『ミッドナイト・イン・パリ』(C) 2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.
その店員さんの携帯やお店の中で流れていたテレビを見ても、そこは2020年4月4日だった。まさかと思ったが、そこは2年後の未来だったのだ。そして、すぐに街中に出て未来の世界を目の当たりにしようとした。

ところが、2年という月日は世界が変わるには少し短すぎたようだった。街を歩いていてもそこがパリということ以外は特に目新しいものはなかった。人々の格好も(お洒落ではあったけど)普通だし、車は普通に道路を走っているし、空には飛行機しか飛んでいなかった。変わっていたのは、携帯の形が少し大きくなっていたことくらいだった。世界が前よりも良くなったかどうかなんて全く分からなかった。街を歩いている人たちも特に幸せそうには見えなかった。

結局僕は2年後のパリを何をすることもなく過ごした。街で知り合った心優しい男性からいくばくかのお金(いまと同じユーロだった)も借りられて夜ご飯にはありつけた。そして、数多くの映画で未来に行った主人公がそうするように、僕は原点に立ち戻った。それは、自分が2年前の日本からやってきたパリの街中の公衆トイレ。そこに昨日と同じ夜の12時に入って出てきてみることにした。するとそこはまた昼下がりのパリだったが、今度は明らかに様子が違っていた。

2070年4月4日。

今度は50年後だった。
さすがに半世紀という月日は世界が変わるには十分だったようだ。まず、50年後にも普通に世界が続いていることに安心したのだが、とにかく変わっていたのは街を走っている車の形で、その殆どが卵のような円形で、しかも誰も運転をしていない自動運転だった。空には飛行機以外にも見たことのない円盤のような物体や、絨毯のような平面体が飛び交っていた。そして、何故かは分からないが、人々はみんなメガネを掛けていた。勇気を出して街行く人に片言の英語で話しかけてみた。

「はろ。いず・であ・えにー・ぐっど・れすとらん?」

自分でも恥ずかしくなるようなコテコテのジャパニーズ・イングリッシュだったけど、話しかけられたパリジェンヌはすかさず携帯を取り出して、これに向かってもう1回喋ってくれとジェスチャーで示した。そこで彼女の携帯にもう1回同じことを吹き込んだら、それがすぐに聞き慣れない言葉で再生された。それを聞いた彼女がそれに対してまた自分の言葉を吹き込むと

「それならそこの角を右に曲がったところにとても良いレストランがあるわ」

と携帯から綺麗な日本語が聞こえてきた。携帯の画面にはすでにその店のオススメメニューが3Dでにおい付きで出てきていた。すごい。翻訳携帯だ。まさに未来。技術が進歩していた。やっとタイムスリップ感が出てきた。だけど、気になったのは街ゆく人々の表情で、誰もがやる気がない感じで、面倒くさそうに歩いていた。そもそも外を出歩いている人があまりいなくて、あれほど騒がしかったパリの街もとても静かだった。携帯1つで本当に何でも出来てしまう世の中はどうやらあまり面白いものではないのかもしれない。

それからまた街を練り歩いてみたけど、色んな商品もネットが中心なのか実店舗が殆どなくなっていて、街には住宅ばかりで、歩いていても見るものもないし、人もいないしで、本当にこれがあのパリなのか?と思うくらいにつまらなかった。唯一の例外はレストラン。食事は見たことのない野菜があったり、肉なのか魚なのか何だか分からないけど、やたらに美味しいものがあった。いつの時代も、人間食べなければ生きていけない。ここだけは活気があった。しかし、食べるものも食べて満足してしまうと、いよいよやることがなくなった。結局僕はまた夜まで待つことにした。パリの街中の公衆トイレ。念願の夜12時。同じトイレのドアを開けた。行きたがっていた未来から今度は過去に戻れることを願って。


(おわり)
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モチーフにした映画は大好きな映画監督ウッディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』でした。
1920年代のパリに憧れてパリにやってきたハリウッドの売れっ子脚本家(オーウェン・ウィルソン)が実際にその時代にタイムスリップして、憧れのヘミングウェイやフィッツジェラルド、ピカソたちに出会うというお話なんですが、そこで出会ったピカソたちが昔は良かったと言っていて、それを聞いた主人公がそこからさらにもう1回その過去(1890年代)にタイムスリップしてしまうというのが最高でした。タイムスリップ・アゲイン。そして、結局その先でもロートレックやゴーギャンが昔は良かったと言っているという。いつの時代もそういうものなのかもしれませんね。
ちなみに、この映画でウッディ・アレンはアカデミー賞の最優秀脚本賞(3回目)を受賞しました。


【2018.9.12】
《text:Yusuke Kikuchi》

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