【MOVIEブログ】2019東京国際映画祭 Day8

11月4日、月曜日、祝日。5時就寝の6時半起床。夜の睡眠と考えると少ないけど、昼寝と考えればたっぷりだと自分に思い込ませ、気合いで外へ。

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『タイトル、拒絶』(c)2019 TIFF
  • 『タイトル、拒絶』(c)2019 TIFF
11月4日、月曜日、祝日。5時就寝の6時半起床。夜の睡眠と考えると少ないけど、昼寝と考えればたっぷりだと自分に思い込ませ、気合いで外へ。なんという気持ちのいい晴天の朝! 昨夜は強い雨が降ったけど、こんな晴天なら眠気も吹っ飛ぶ。

7時に会場入りするゲストを車寄せでお迎えし、劇場へご案内する。リハーサル開始を見届けて、僕は事務局へ。本日は13回登壇するので、本当に念入りに時間を確認しないといけない。実質的な最終日に、一番過密なスケジュールを組んでしまった。連休が終盤にあると、こういうことになるのだな。なかなかにしびれる。

10時半から、「ユース」部門の「チルドレン」カテゴリーで、「山崎バニラの活動小絵巻」がスタート。僕は冒頭であいさつし、バニラさんを壇上に招き入れる。活弁上映、是非見たいのだけど、僕はこれだけでお役御免。

10時45分から、「スプラッシュ」部門で『テイクオーバーゾーン』の上映前舞台挨拶司会。山嵜晋平監督、吉名莉瑠(りる)さん、内田慈さん、川瀬陽太さん、森山瑛(あき)さんの面々。一言もらう時間しかないかと思っていたのだけど、時間配分が上手くいって、中学生のヒロインを演じる吉名さんと、彼女の両親役の内田さんと川瀬さんから楽しいコメントをもらえたので、15分ながらも充実した舞台挨拶になったので大満足。

事務局に戻り、お弁当が集まる場所に赴くと、パスタ弁当! 複数の選択肢の中から迷った結果、アラビアータのショートパスタを頂く。美味しい。毎回の弁当がサイプライズの連続、運営Y氏の手腕はさすが。

11時50分に劇場に戻り、コンペのスペイン映画『列車旅行のすすめ』Q&A司会。アリツ・モレノ監督は自国での公開キャンペーンのために帰国してしまったので、ゲストは原作のアントニオ・オフレドさん、そしてプロデューサーのティム・ベルダさん。アントニオさんは、20年前に書いた作品なので詳細を思い出しながらしゃべらないといけないと断りつつ、フィクションと現実の境目を描いた主旨について丁寧に説明してくれる。人は言葉とイメージで現実を構築するのだ…。

スペインの有名俳優が結集した『列車旅行のすすめ』、アリツ・モレノ監督の新人離れした演出力とスケール感に多くの人が反応しているようでとても興奮する。今回紹介できてよかった。

スクリーンを移動して、『テイクオーバーゾーン』の上映が終わったので、そのQ&A司会へ。今回は山嵜監督おひとりにじっくりとお話しを伺う。監督は饒舌という方ではなく、かなり考えながら話す。しかし、人間というのは発する言葉だけで伝えるのではなく、逡巡や熟考の際のため息や仕草などもメッセージを伝える。もの作りに賭ける方々のもがきと歓びを感じ取ろうと集中するのが、監督たちの間近に座る僕の役目だ。

吉名さんの才能、役者たちとの関係づくり、陸上の場面、そして感動のラストシーンなどについて言葉を絞り出すように語ってもらう。そんな監督の姿を見ていると、作品への愛着が深まっていく気がする。このまっとうでピュアな青春映画が多くの人に見られますように。

13時過ぎに事務局に戻り、さあお弁当だ!と一瞬喜んだものの、あ、さっきもう食べたのだった…、と思い出して悲しくなる。昼の弁当に余りが出るかどうか判断するのは早すぎるので、ここはガマン。

パソコンで映画の復習見直しをしていると、眠気を通り越したズシンという感覚に襲われて、これはヤバいと思い、事務局の隅の机に突っ伏して15分仮眠する。

携帯のアラームで起きると、効果てきめん、生まれ変わった気分になる。よし、まだまだいけそう。

14時55分から、コンペ『湖上のリンゴ』のQ&A司会へ。レイス・チェリッキ監督おひとりの登壇。本作はおとぎ話的な寓話なのか、それとも現実を描いているのかという僕の質問に対し、舞台となる村は監督の出身地であるが、ファンタジーであると解釈しても構わない、という主旨のお答え。また、本作の主役のひとつである伝統楽器について、人間の言葉と同列のコミュニケーション手段として解説してくれる。

そして、「舞台のアナトリアと言えば、虐殺の歴史が影を落としているが、本作にはそれを示唆させる描写が目立つわけではないのは意図的か?」という客席からの質問に対しては、「悲痛な歴史を忘れることはないですが、そればかり撮り続けていると前に進めません。過去に引きずられ過ぎてはいけません。変化を求め、前に進まないとならないのです」と答え、僕は横で泣きそうな気持になる。

Q&Aが終了に近づき、時計を見ると、ヤバい。途中までは大丈夫かと思っていたけれど、後半にやりとりが活発化して、危険領域に入っていった。次の登壇まで3分を切ってしまった。

今年の映画祭2度目の申し訳のない事態となり、僕はQ&Aの締めを待たずに退出を決意する。痛恨。司会が消えて不思議な空気を会場に残してしまい、せっかくの監督と作品の貴重な場に余計な傷をつけてしまうことがあまりにも申し訳ない。

ダッシュで向かったのは、15時35分からの『タイトル、拒絶』(写真)Q&A。本日の登壇は山田佳奈監督、伊藤沙莉さん、森田想さん、田中俊介さんのみなさん。実に愉快な雰囲気は前回と同様で、シビアな作品世界とのコントラストが楽しい。森田さんや田中さんのキャスティングの背景、伊藤さんの役作り、そして山田監督の会社員時代の体験など、盛り沢山でトークが進行していく。

かつて音楽関係の仕事をしていた山田監督は、容姿が仕事の成績を左右しかねない現実を生き、本作の構想へと繋がっていく。これは数分で聞き切れる話ではないので、いつかじっくり伺ってみたい。村上春樹がバー経営の経験を創作に繋げていったように、作家が実体験を芸術作品として昇華していく過程を知ることほどスリリングなことはない。ともかく、僕はいま『タイトル、拒絶』をスクリーンで見たくてたまらない。

16時半から、パソコンで映画を見直す。そして夜のお弁当が来たので、16時台だけど食べてしまう。なんといっても津多屋の和食弁当! 素晴らし過ぎる!

17時50分から、『サバービコン 仮面を被った街』のトークで、芸人のこがけんさんと、映画評論家の松崎健夫さんとトークする。スターチャンネルとの共催上映枠で、松崎さんとお話しできるなら是非司会をやりたい! と申し出たのが事の次第。

上映前なので映画の中身には触れられないのだけど、本作の背景となる50年代のアメリカや、郊外(サバーブ)映画の系譜などについて語っていく。特に均質的で人工的な家が並ぶ郊外を舞台にした「郊外映画ジャンル」についてタイトルを挙げて行くのは映画ファンにとっては楽しくてたまらず、これは場所を変えてお酒飲みながらゆっくりやりたいなあ。映画祭のバタバタの中でオアシスのような時間帯となり、とても幸せ。

続いて18時半から、コンペ『ジャスト6.5』のQ&A司会。サイード・ルスタイ監督と、主演のナヴィド・モハマザデさん。規格外の描写で溢れるこの作品の中で、イランの事件捜査を巡る事象が、どこまで実際に近いものでどこまで創作なのかがどうしても気になってしまうので、監督に答えてもらう。

監督によれば、ある程度は事実には基づくものの、かなりの部分が増幅されて映画用に膨らまされているらしい。ただし、どこをどう加工したかを説明することは野暮だろうと監督は考えているようで、「本作はドキュメンタリーではありません」と答えるにとどめている。なんと言っても、サイード監督は30歳なのだ。この年齢でイラン映画の歴史を変える作品を作り、創作意欲の絶頂期にいるはずだ。我々は歴史的な瞬間に立ち会っていることを自覚するべきなのだ。

ナヴィドさんに留置所内の圧迫感の中で演技をすることが多かったが、どうだったか? という質問に対しては、エキストラの指導が大変だったとの答え。なるほど。留置所内におしくらまんじゅう的に詰め込まれるジャンキー役のエキストラたちをまとめるのはさぞかし大変だろうし、その中で唯一のプロとして演技をしなければならないことがいかに大変であろうか、こちらも実感できそう。大量のエキストラ故のNG連発話も面白い(OKテイクだと信じてモニターを見ると、カメラを直視しているエキストラが見つかって撮り直しになったりとか)。悪役が魅力的に見えてくることについても、ひたすら同感。

今後、『ジャスト6.5』の快進撃が日本で期待できますように!

そして、僕は本日2度目の醜態をさらすこととなり、Q&A終了直前で再び司会フェイドアウト。次が迫っていた。本当にごめんなさい!

駆けつけたのは、「スプラッシュ」の『i- 新聞記者ドキュメント-』のQ&A。森達也監督と、東京新聞の望月記者の登壇。官邸に対して妥協なき取材姿勢を貫く望月記者の奮闘を描く作品であるだけに、注目度は抜群であり、場内は熱気に包まれている。取材のカメラも非常に多く、普段はQ&Aの取材に来ないような新聞社の記者の姿も見える。おお。

森監督から、自分の作品をシネコンで見られること自体が滅多にないことであり、本作のような内容の作品を選んでくれてありがとうございますと直接感謝され、とても恐縮してしまう。僕としては森監督の作品をお迎えできることが大いなる興奮事であり、お礼を言うべきはこちらの方だ。

望月記者がまずは現在の政治を巡る状況を熱く語る。僕は望月さんに森監督の存在を知っていたか、そして森監督の映画作りに参加することのリスクを意識したか、などの質問をしてみる。客席から森監督に場面の解釈について質問があると、森監督は「あなたはどう思いますか?」と問い直し、質問者が答えると、「それでいいんです」と言う。質問者は自分の質問に自分で答える形になる。つまり、自分で考えてほしい、という森監督の姿勢だ。

こういう作品が難しいのは(そして面白いのは)、望月記者の取材を通じて見えてくる現代日本政治への危機感を直接的に語りたい人と、その望月記者を映画にする森監督の演出について語りたい人が混在することだ。それぞれに語ってもらいたいので、司会としてはどちらかの話題に寄り過ぎないように気を付けたいところ。幸い、官邸への取材や、現在の日本の自主検閲がはびこる空気への危機感への話題もありつつ、一方で映画終盤の森監督の演出の意図にも質問が出て、上記ふたつの側面がバランスよく語られるQ&Aになったと思う。僕にとっても今年の緊張物件のひとつだったので、充実なトークが出来てとても嬉しい。

ところで、映画祭の作品を選定している時期に、原一男監督の『れいわ一揆』と森達也監督の『1-新聞記者ドキュメント-』の招聘が決まり、これは事件だ! と僕は興奮していた。ところが、予想は完全に裏切られ、全くバズらなかった。もちろんチケットはすぐに売り切れたけれども、作品発表会見の9月26日以降、決して少なくない数のメディアから上映作品に関する取材を受けてきた中で、これらの作品について質問されることがほとんどなかった。このご時世に反権力的な作品を上映することについて、質問を受けることがほとんどなかったというくらい、とても少なかったのだ。

映画祭が始まり、『れいわ一揆』上映の翌日にようやく1件取材を受けたけれど、いったいこれはどういうことだろうと、深く考え続けている。もっとも、僕としては反権力的な要素を含む映画を上映したかったわけでなく、ただただ原一男と森達也の新作が見たかったということに尽きるのだけど、このあまりの反応の無さの奥には、とても根深い問題がある気がしてならない。それは東京国際映画祭の存在意義に関わることかもしれないし、もっと別の次元の問題かもしれない。映画祭終わって頭が冷めたらまた考える。

いや、しつこいけれど、「あいトリの件が取り沙汰されていますが、政治的な作品を選ぶにあたって気を遣うことはありますか?」とか、「作品選定の自由は確保されているのですか?」とか、「どうして原監督と森監督が揃って今年新作を仕上げ、それを東京国際映画祭に持ち込んだのだと思いますか?」とか、「れいわ支持しているのですか?」とか、「望月記者はスタンドプレイなど思わないのですか」とか、さらには「同じ映画祭としてしんゆり映画祭の件をどう思いますか」とか、僕だったら聞きたくてたまらないことだらけなのに、誰も聞いてこない。ひょっとして「忖度」されているのかとさえ思ってしまう。そして映画祭が終わってから聞かれても、たぶんちょっと遅い。んー。

さて、『i-新聞記者ドキュメント-』の上映が興奮のうちに終わり、20時から「ワールドフォーカス」部門のスペイン映画で『ファイアー・ウィル・カム』の上映後Q&A司会。オリヴァー・ラクセ監督は昨日到着し、風邪をひいてしまったらしく、とても気の毒な中、作品について丁寧に語ってくれる。母や祖母の物語をベースにした、「受容」についての作品であること。そして、「生」と「死」と映画について。好きな作品は? との質問の回答は「新藤兼人監督の『裸の島』です」。大納得。

20時50分から「スプラッシュ」最後の上映となる『花と雨』の上映前舞台挨拶司会。土屋貴史監督と、主演の笠松将さんが登壇。笠松さんの役柄への取り組みを中心に語ってもらう。

21時05分に終え、事務局にいったん引き上げ、ここで本日2度目のピンチ、体が完全に重くなった。ふたたび隅の机で10分仮眠。僕はあまりドリンク剤など飲まないので、とにかく寝るか食べるかで乗り切りたい。そして仮眠の効果というのはすごい。起きてみると、完璧に復活しており、ここで完走を自覚する。

22時から、ゲスト付上映としては最後のコンペ作品上映となる『ばるぼら』Q&Aへ。最初は劇中の音楽に関する質問から始まり、60年代的のジャズを採用した背景を教えてくれる。そして手塚治虫作「ばるぼら」の映画化の過程を手塚眞監督に話して頂く過程で、僕はおそるおそる、息子である眞氏が映画監督になりたいことを知ったときの手塚治虫氏がどのような反応だったか教えてもらえるか尋ねてみる。すると手塚眞監督はあまりに貴重なエピソードを披露してくれた。

監督が高校生の時に作った作品を若手向けの映画祭に応募したところ、2等賞に輝いた。その時の審査員が大島渚監督。受賞を父に伝えると、文字通り飛び上がって喜んだ! しかし、大島監督はあまり手塚治虫マンガが好きでなかったらしいというオチまであり、場内大いに沸く。

続いて、役者陣の特徴を丁寧に話してもらい、稲垣吾郎さんは気品があり、演技の幅が広く、衣装合わせでともに過ごした2時間で互いに分かり合えたこと、そして二階堂ふみさんは覚悟を決めた女優であることなどのコメントに続き、クリストファー・ドイルとのコラボのエピソードも披露してくれる。そして最後の質問が「手塚治虫さんは大島渚の映画は好きだったのでしょうか?」という最高の質問! 手塚眞監督も笑いながら、「残念ながらそのことを父の口から聞いたことはありません。しかし、ヒントになるかどうか分かりませんが、ゴダールは好きではありませんでした。前衛的な映画は好んでいませんでしたね」。

ああ、面白かった。コンペ最後が『ばるぼら』でよかった! 手塚監督、最高のトークをありがとうございました!

23時から、『花と雨』に戻り、Q&A司会へ。土屋監督と笠松さんに再びご登壇願い、客席との質疑応答。日本映画らしからぬ画面の構成や色調について、そもそも笠松さん起用の理由(オーディションの無頼な様子が監督の目を惹いた?)、ドキュメンタリー的な要素について、即興演技や即興演出の余地について、丁寧さと笑いを交互に誘うような素敵なQ&Aで、まさに有終の美。

外に出ると、客席で見ていた(そして質問もしてくれた)別の「スプラッシュ」出品作の監督(誰なのかは伏せた方がいいかな?)と会ったので、改めて感想を聞いてみると「これはすごい。土屋監督は天才だ。これはすごい。」と繰り返し、「ラップの映画なのですが、映画がラップなんですよ」と言い、「かなわない」という言葉こそ出てこないものの、大層感激されている。「その感想もQ&A中に聞きたかったですよ!」と僕が言うと、「いやあ」とはにかんでいたけれど、決して悔しそうにしているのではなく、逆に嬉しそうに興奮しているのがとっても印象的だった。同じ部門で互いの作品を見て、そして刺激を受け合ってもらえているとしたら、この部門に携わっている者として、本当にこれ以上の喜びはない。

23時半に終了し、事務局に戻る。お弁当が余っていなかったので、泣きそうな顔をしていたのだと思う。運営チームの同僚が、どこかから最後の1個を見つけて持ってきてくれる。ああ。誰かが犠牲になっていませんように。みんなの心とお弁当が温かすぎて、今度こそ本当に泣きそうになる。

0時過ぎから「TIFF Studio」で本日の報告を生配信する。

終盤に来てのほぼ2晩徹夜はあまり過去に経験がなく、さすがにスイッチが切れた。2度の司会フェイドアウトは猛省をしないといけないけれど、何とか本日を乗り切れたことに安堵する。今年の登壇も、これにて終了。はっきり言って、寂しい。とても寂しい。

ついにブログは明日に回すことにして、2時に引き上げる。
《矢田部吉彦》

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