【MOVIEブログ】2020年ベルリン映画祭 Day0&1

ベルリン映画祭が2月20日からスタート。今年も限られた範囲ではありますが、見聞きした映画祭の様子を日記的に綴ります。

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ベルリン映画祭が2月20日からスタート。今年も限られた範囲ではありますが、見聞きした映画祭の様子を日記的に綴ります。

19日、パリ乗り換えの深夜便でベルリンに10時に到着。機内ではあまり寝られず、少しフラフラ。ホテルにチェックインできたので1時間ほど横になり、同僚と合流して打ち合わせを少しして、早々に会場に向かう。

今年は映画祭に併設される業界関係者向けの映画市場であるEFM(ヨーロピアン・フィルム・マーケット)の試写が映画祭開幕の前日からスタートするので(今年が初の試み)、前日入りしてみた次第。なので、時間を惜しんで試写に向かう。けれど、それほど多くの本数の上映は無いみたいだ。

まずは14時からの試写で、『De Gaulle』と題したフランス映画へ。タイトル通りド・ゴールの伝記映画で、1940年、パリ陥落からロンドンでレジスタンス政府を樹立しようとするまでの数か月を描く作品。ド・ゴールを演じるのはランベール・ウィルソン。妻はイザベル・カレで、ダウン症で早逝した次女のアナを中心にした家族の物語も並行して描かれる。

どうしていまド・ゴールなのか、という考察は面白いだろうけれど、深読みは簡単ではない。不安定な現在のヨーロッパへの警鐘なのか、力強いリーダーを求めるフランス人の郷愁なのか、はたまたEUを去りゆく英国へのラブレターなのか(ド・ゴールが共闘を呼び掛けて好意的に対応するチャーチルが印象的に描かれる)。いささか大味な感じは否めないけれど、このタイミングでド・ゴールを映画にする意味を考えさせてくれるのは興味深い。

続けて「パノラマ部門」に出品されている『Surge』というイギリスの作品へ。1月に開催されたサンダンス映画祭でも上映されて受賞も果たした作品で、ベン・ウィショー主演の心理スリラー。空港職員の青年がストレスを抱え込み、やがて精神が崩壊して犯罪へと走る24時間を描くドラマ。ベン・ウィショーがまるで『ジョーカー』のホアキンを意識したような佇まいで、やり過ぎと見るか、熱演と見るか…。

主人公に密着し、アップを多用する手持ちで手振れするカメラワークは、追い込まれた青年の視野狭窄をリアルに表現するのだけれど、手法として斬新であるとまでは行かず、僕は留保付きの評価。見応えはあるのだけれど、んー、と言ったところか。

意気込んだものの、結局タイミングの合う上映は以上の2本だけで、これにて鑑賞は終了。外に出ると、結構激しい雨。

同僚と合流し、スーパーで水など必需品を買い、19時になったので夕食へ。グーラッシュ・スープと巨大なウィンナー・シュニッツエルとビールを頂き、幸せ。しかし、とてもハッピーだけれど、途中で激しい眠気に襲われ、ほぼ限界。22時に宿に帰り、即ダウン。

20日、木曜日、5時起床。かなりちゃんと眠れたのでスッキリだ。パソコンを少しいじってから朝食をたくさん詰め込んで、外へ。曇り。気温は8度くらい。例年は0度強なので、今年は時期が2週間遅いと言うこともあるけど、あまり寒さは感じないかな。

9時からのマーケット上映でスタート。「パノラマ部門」の『Black Milk』というモンゴルとドイツの共同製作の作品。監督はUisenma Borchuという女性で、モンゴル系ドイツ人である彼女の半自伝的な内容であるとのこと。

ドイツ在住のヒロインが故郷のモンゴルの草原に戻り、数年振りに再会した妹との親密な時間を慈しみながらも、お互いに理解し合えない壁も痛感していくドラマ。瞬間的なフラッシュ・バックやフラッシュ・フォワードを駆使した編集が特徴的で、アイデンティティーの葛藤が効果的に描かれる。女性に対するモンゴル遊牧民の保守的な態度に静かに問題を提起する側面もあり、非常に優れた出来栄えに感じ入る。姉妹を演じたふたりの女優が素晴らしく、見ごたえのある作品だ。

続けて事務的な用事を数件片づけてから、カフェに入ってコーヒーを飲み、12時50分の上映へ。

鑑賞したのは、「パノラマ部門」の『No Hard Feelings』というドイツの作品で、Faraz Shariat監督はイラン系ドイツ人の男性。北部の都市ハノーバーに移民を一時的に収容する施設があり、そこで奉仕活動をする青年が主人公。青年は市民権を有するイラン系ドイツ人であり、施設で知り合った滞在権申請中の亡命イラン人青年と愛し合うようになる。

暮らしは安定しているがゲイである主人公は、苦労を重ねてドイツでの生活を確立したイラン人移民の両親との確執がある。イランとドイツという出自と、自らのセクシャリティという、幾層ものアイデンティティー・ジレンマに直面し、そして国外追放の恐怖と向き合う人びとと交流する。

省略を多用する演出のため、序盤はなかなか状況が把握できずに苦労をするものの、次第に理解が進むと映画の描こうとする現実が一気に真に迫ってくる。現在、世界の映画が積極的に取り組む主題を巧みに融合し、スタンダードサイズの画面や特徴的なテンポの語り口が目を惹き、主題の詰め込み過ぎを全く感じさせない。実に巧みなドラマ作りで、とても感動してしまう。

モンゴルとドイツ、イランとドイツ、フェミニズム、LGBTQ、移民問題、チャレンジングな演出。やはりベルリンの「パノラマ部門」は世界の映画の傾向を牽引する部門であることを、朝のたったの2本で痛感する。素晴らしい。

上映終わって外に出ると、雨だ。今年は雨が連日続くそうで、少し憂鬱だ。雪であればいいのに、とぼやきながらマーケット会場に赴き、14時半から17時半まで映画会社や映画機関などと6件ミーティング。今年もよろしくという挨拶と、各社の今年のラインアップについて情報を収集する。ああ、今年も始まったなあ。

18時に宿に戻り、タキシードに着替えて、オープニング・セレモニー&上映へ。今年新たにベルリン映画祭のヘッドのひとりとなったマリエットさんとはたまたま旧知の仲なので、招待状を頂いたのだ。過去15回くらい来ているベルリンだけれど、オープニングに出席するのは今回が2度目なので、緊張しながら臨んでみる。

司会の男性はドイツでは有名な司会者なのか、あるいはコメディアンなのかな。ドイツ語でのパフォーマンス的な語りを20分くらい続けるのだけど、何が何やらさっぱり分からず、同通キットを受け取らなかったことを後悔。

やがて厳粛な雰囲気になり、全員が起立する。訳が分からず僕も起立すると、黙とうの時間が捧げられる。あっ、とここでようやく気付いた。本日ドイツで銃の乱射事件があり、10名近い人々が命を落とされたとの報道を僕も目にしていた。今年が70回記念のベルリン映画祭だけれども、もしかしたら当初予定されていた華やかな演出を変更したのかもしれない。大変な事態の中で、映画祭は初日を迎えたことになる…。

オープニング・セレモニーは、文化大臣に続き、ベルリン市長がスピーチ。両者のスピーチの最中に、会場から度々大きな拍手が響き、そしてスタンディングオベーションも起きる。おそらく、テロに対する断固たる決意を表明したと思われる。意味は分からなかったけれど、政治家のスピーチに好意的に反応し、一体感に包まれる会場の雰囲気に厳粛な気持ちで感動する。

その後は落ち着いた進行で、ジェレミー・アイアンズ審査委員長率いる審査員チームの紹介や、オープニング作品『My Salinger Year』のスタッフ・キャストの紹介(シガニー・ウィーバーに大拍手!)があり、1時間強のセレモニーは終了。

やがて上映も終わり、オープニング・レセプションへ。メイン会場から徒歩で10分ほど行った会場で、1時間ほど滞在して数少ない知り合いに会って挨拶し、0時過ぎに外へ。ああ、また雨だ。冷たい雨を浴びながら、宿へ。

宿に帰還し、濡れた頭と体を乾かし、パソコンに向かってブログを書き始めるものの、眠くてもうダメ。『My Salinger Year』、とてもキュートな良作なのだけど、感想を書く力が残っておらず、ごめんなさい。出来れば、また後日。そろそろ2時。寝ます!
《矢田部吉彦》

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