【MOVIEブログ】2020年ベルリン映画祭 Day3

22日、土曜日。7時起床、本日のミーティングの準備をしばし行い、朝食にパンとハムをたくさん頂いてから、8時に外へ。曇り、体感温度は10度弱くらい。今日は強風になるらしく、もっと寒く感じるようになるかも。

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22日、土曜日。7時起床、本日のミーティングの準備をしばし行い、朝食にパンとハムをたくさん頂いてから、8時に外へ。曇り、体感温度は10度弱くらい。今日は強風になるらしく、もっと寒く感じるようになるかも。

本日も9時の上映からスタートで、「エンカウンター部門」に出品されているアメリカ映画『Shirley』へ。50~60年代に活躍した作家、シャーリイ・ジャクスンを主人公とした実話映画で、シャーリイ役にエリザベス・モス、監督は近年注目度が増しているジョセフィン・デッカー。

伝記ものや実話ものが相変わらずとても多いけれど、本作はエリザベス・モスの名演技と、デッカー監督の繊細でセンス溢れる演出のおかげで、並みのエンタメ作品とは確実に一線を画す出来栄えになっている。スランプで引きこもり状態のシャーリイ・ジャクスンが女子大生失踪事件にインスパイアされて「絞首人」を執筆するに至る物語で、そこには家事を手伝いながらジャクスンの安らぎと刺激の源となった女性の存在があり、ふたりの女性の親密なドラマにもなっている。

50年代の雰囲気を再現する美術と音楽、創作に挑む才人の複雑な心理の描写、プライドやエゴでぶつかる人間関係や意外な信頼関係の構築を巧みに織り込むストーリー、さらには当時の女性の立場の難しさへの言及など、デッカー監督が見事な語り口で全体をまとめ上げている。そしてエリザベス・モスを見ているだけで幸せだ。これは秀作。

11時からマスコミ試写に1時間並び(僕はマスコミでなくマーケットの登録なので、入場できるかどうかはその上映回のマスコミ関係者入場後の空席次第で決まる)、ああ今回はダメかなと諦めかけたところ、ギリギリで入場を許されて一安心。

コンペ部門のアメリカ映画で、ケリー・ライヒャルト監督新作『First Cow』。これもまた素晴らしい出来。19世紀末、オレゴンに料理人の男が流れ着き、中国系の男性と友情を育む。その土地に地域で初となる乳牛が運び込まれ、地元の有力者の庭に繋がれる。料理人とその友人は、夜中に有力者の庭に忍び入り、乳牛からミルクを搾って持ち帰り、揚げ菓子を作って市場に出すと大評判を博すが…、という物語。

こう書いてみると普通に楽しい商業映画になりそうな内容なのだけれど、ライヒャルト監督の手にかかると、実に見事な作家映画になる。スタンダード画面(今年は多い)、極めてミニマルなルック、そしてミニマルなのだけれど非常に雄弁な脚本と演出が素晴らしい。カタルシスと寸止めの塩梅が絶妙、という表現は下品だろうか。

日本での商業公開はギリギリの線かな…。ケリー・ライヒャルトの日本での紹介、本当に何とかしなくては。

14時過ぎに上映が終わり、屋台でソーセージを食べるぞ!と行ってみると長蛇の列。みんな考えることは一緒だ。ランチは諦めて、14時半のミーティングへ。予報通り強風が殴りつけるように吹いてきて、寒い。

続けて数件のミーティング。うち1件は、トルコの映画機関から、トルコ映画をどう思うかのコメントを動画で撮らせて欲しいとのリクエストだったので、東京国際映画祭で招待したトルコ人監督の名前を並べながら、自分の思いを述べてみる。好きな監督が多すぎて、逆に取りとめのないコメントになってしまったかもしれない…。反省。

そして18時。昨年の東京国際映画祭でグランプリ受賞の『わたしの叔父さん』のフラレ・ピーダセン監督と感動の再会!『わたしの叔父さん』は東京での受賞が本国デンマークで大変な話題となり、インディペンデントなアート映画としては記録破りの大ヒットとなっているそうな。素晴らしい。そんな話を興奮しながらフラレ監督と1時間ほど交わし、更なる再会を誓い合う。『わたしの叔父さん』は今年の後半に日本公開になるので、その際にまた会えるといいなあ。

上映に戻ろうと外に出ると、今度は激しい雨。今年の天気はなかなか大変だ。

19時半から「フォーラム部門」のイタリア映画で『Zeus Machine. The Invincible』という作品へ。これはもう、ちょっと文章化不可能な面白さの作品で、実験映画寄りと言っていいかもしれないけれど、ともかく映画祭でしか絶対にお目にかかれないタイプの、超自由で超斬新な作品。「ヘラクレスを育てるとしたら」、あるいは、「フィジカルな力強さに関する14章」、というような、「力」に関する短編が連なっている。レスリング、闘牛、車の空ふかし、棒のぼり、ガソリンスタンド…、ダメだ。絶対に伝わらない。

「イメージ・フォーラム・フェスティバル」に推薦したい。もう、本当にたまらなく好き。

21時に終わり、外に出ると雨は上がっている。今度こそ屋台に行ってみると、待望のソーセージとパンにありつけた!もう感涙の美味しさで、僕はもうベルリン滞在中はこのソーセージさえあればいい。

22時から、コンペの公式上映でフィリップ・ガレル新作『The Salt of Tears』(写真)!いやあ、もう言うことなし。齢70を越えて、どうしてこんなに軽やかな若者の恋愛映画が作れるのだろうか。いや、ロメールもシャブロルもオリヴェイラもリヴェットもレネも晩年はどんどん軽やかになっていったけれど、ガレルの若者感も半端ではない。

近年で言えば、シャープな『白と黒の恋人たち』的なものではなく、より柔らかめの穏やかなガレル。30年前でも通用しそうな脚本で、ダメ男のダメさを突いてくるけれど、不思議に現代的でもある。

ガレルの良さをもっと書きたい気持ちがありつつ、そろそろ本日も終了。0時半にホテルに戻り、深夜スーパーで買ったワインをすすりながら(失礼!)ブログを書き始めたら、今日は感想を書きたい作品が続いて、もう2時近くなってしまった。うまくまとめきれてないけれど、見た日の衝動をそのまま残すのも日記のいいところかもしれないので、このままアップします!
《矢田部吉彦》

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