【MOVIEブログ】2020東京国際映画祭作品紹介 「Tokyoプレミア2020」日本映画前編

「Tokyo プレミア 2020」の作品紹介、第3弾、日本映画紹介の前編です。

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『アンダードッグ』(c)2020「アンダードッグ」製作委員会
  • 『アンダードッグ』(c)2020「アンダードッグ」製作委員会
  • 『ある職場』(c)2020 BIG RIVER FILMS, TIMEFLIES Inc.
  • 『君は永遠にそいつらより若い』(c)「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会
  • 『初仕事』(c)2020 水ポン
  • 『ゾッキ』(c)2021「ゾッキ」製作委員会
「Tokyo プレミア 2020」の作品紹介、第3弾、日本映画紹介の前編です。

『アンダードッグ』は、今年の映画祭のオープニング作品であり、そして「Tokyo プレミア2020」部門の作品でもあります。ああ、どこから書くのがいいだろうか…。見どころが多すぎます。

森山未來さんは、怪物ですね。負け犬、というか「かませ犬」ボクサーに成り下がってしまい、引退を意識せざるを得ない段階に差し掛かっているけれど、どこかでまだボクシングにしがみついている。そんな存在を完璧に体現しています。完璧、という言葉以外にちょっと思い付きません。

『100円の恋』に続く、足立紳脚本、武正晴監督コンビによるボクシング映画ということになります。足立さんはどうしてボクシングに魅かれるのでしょう。裸の殴り合いという原始的な行為には人間性が剥き出しになり、キャラクターの描き甲斐が増すということでしょうか。映画祭でお会いしたら聞いてみるのが楽しみです。

『アンダードッグ』(c)2020「アンダードッグ」製作委員会『アンダードッグ』
その人間性の剥き出しになったキャラクターたちが間違いなく本作の魅力であり、森山未來さん演じるアキラは、前編と後編を通じて負のオーラを発しつつも、人々を引き寄せる強い吸引力を持つ大黒柱として存在します。そこに吸い寄せられるのが、前編では勝地涼さん演じる宮木。ああ、なんと哀しく、なんと愛おしいキャラクターであることか。そして後編では北村匠海さん演じる隆太。こちらは正当派の、まっすぐな存在。しかし、闇を抱えていることはアキラと宮木と共通している。

いかにして、宮木と隆太は、アキラと勝負をすることになるか。勝負に至る過程に、数々のドラマが交差し、2度のクライマックスに向けて、映画は爆進していきます。古来、ボクシングと映画の相性はいいですが、ここにまた、新たなボクシング映画の傑作が誕生したと、声高に宣言したい気持ちでいっぱいです。本当に。

あと、二ノ宮隆太郎、最高(すみません、ここはあえて呼び捨てで)。隅々まで個性的なキャラクターが散りばめられており、前後編で4時間越えですが、全く一瞬の体験です。本当です。

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『ある職場』(c)2020 BIG RIVER FILMS, TIMEFLIES Inc.『ある職場』
『ある職場』は、舩橋淳監督による新作長編。俳優ワークショップの延長線上で作られた作品で、繊細な状況において複雑な会話を交わす人々をリアルに演じる俳優たちの存在が、映画のひとつの見どころになります。

欧米作品紹介編で、移民や格差社会やジェンダーの主題を取り上げる作品の多さに言及しましたが、本作はジェンダーの主題に隣接するハラスメント問題を取り上げている点で、貴重な日本映画であると言えます。

ホテルの従業員たちが会社保有の厚生施設である江の島の住宅に休みを過ごしに集まる。最近職場でセクハラ事件が起こり、告発した被害者の女性のソーシャル・メディア上のアカウントが炎上している。社員たちは二次被害について議論し、被害者の女性を攻撃している存在がこの場にいるのではないかと疑い始める…。

議論は長く続き、緊迫度を増していく場を、映画は丁寧に描いていきます。疑心暗鬼になったり、正論をふりかざしてマウントを狙ったり、集団の中の個々の人間の心理を恐ろしくリアルに描く脚本が素晴らしい。セリフのひとつひとつに聴き応えがあり、正論であろうが極論であろうが、セリフの説得力の強さが目立ちます。優れた室内会話劇という紹介も可能です。

そして、気まずい雰囲気を高いテンションで持続させる演出にも力があり、観客は議論の場にいるような気分になり、自分だったらどうするだろうかと、いたたまれない気分になるでしょう。ちょっとルーベン・オストルンド監督の作品を見る時の、図らずも本音が暴露されたしまった時の気まずさ、いたたまれなさに似ているかもしれません。

ハラスメントの被害にあったとき、あるいはそれを知った時に、どう対応すべきか。本作は実話をベースにしており、説得力があります。自分ごととして受け止めるには格好の素材でありつつ、会話劇としても見応えがあり、今年の重要作品の1本です。

『君は永遠にそいつらより若い』(c)「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会『君は永遠にそいつらより若い』
『君は永遠にそいつらより若い』は、吉野竜平監督の新作。吉野監督は過去に『あかぼし』(12)と『スプリング、ハズ、カム』(15)の2本で東京国際映画祭に参加してくれました。僕も大いに注目している存在ですが、本作では化けたというか、ビッグ・ステップを踏み出した、という印象です。ひとことで言えば、強く感動した1本です。

いち早く故郷の役所の福祉課に就職の決まった大学4年生のホリガイさんは、自由な時間をブラブラと過ごしている。卒論用のアンケート集めは他人に頼り、児童福祉士になる心構えにも確固たるものが感じられない。そんなホリガイさんは、講義のノートを借りたきっかけでイノギさんと親しくなる…。

というあらすじでは全く伝わらないと思いますが、あまり書きたくないのですよね。ホリガイさんが自分というものを確立していく過程を描く成長物語という青春映画の経糸と、児童虐待の現状を告発する社会派映画としての横糸が絡んでいきます。そこに、セクシャリティや、友情、そして他者の受け入れなどの、とても重要な要素が絡んでいく、重層的で心を動かすドラマがここにあります。

ホリガイさんのノンキな大学生活が終わりを迎えつつあり、彼女も自分の青春と折り合いを付けなければならない。その焦燥感のようなものが生々しく伝わり、そして、イノギさんと少しずつ友情が築かれていく過程はとても優しく暖かい気持ちになります。その一方で、酷い現実は確実に存在し、カルト宗教とネグレクトを扱った『あかぼし』と、やわらかい視点の父娘物語であった『スプリング、ハズ、カム』を足して数倍パワーアップさせた、吉野監督ならではの会心の作品であると感じています。

佐久間由衣さんが素晴らしい。赤毛にしているのは原作にあるのか、映画の演出なのか分かりませんが、とてもキャラクターに合っている。そして共演の奈緒さんとのコンビネーションが醸成する雰囲気は、親密さと優しさに満ちていて、華やかさとは異なる次元で輝きを放ちます。優れたふたりの俳優が織り成すケミストリーが、心のとても深いところまで届くこの作品のクオリティを、さらに引き上げています。

『初仕事』(c)2020 水ポン『初仕事』
『初仕事』は、今年の大発見枠です。小山駿助監督による、初監督作品。新しい才能を発見したい、特異なセンスに刺激を受けたい、という青田買い好きの観客に是非注目してもらいたい作品です。

写真館に務める山下青年は、館主の友人の亡くなった子どものポートレートを撮ってくれと頼まれる。館主が自分では嫌がった依頼を若手に押し付けたのだ。かくして、山下くんは初仕事に向かうが、依頼主は大切な仕事を友人に依頼したのに代理を送られて激怒する…。

依頼主を演じているのが監督本人なのですが、ゆっくりとボソボソ声で話すその口調に稀な個性があり、セリフのひとつひとつが実に説得力を含んでいて、これが滅法面白い。物語は深刻な事態を扱っているのだけれど、ギリギリのユーモアと、とてもユニークな雰囲気がある。低予算を逆手に取り、限られた空間の中で出来ることを最大限試みていて、映像も映画的な興趣を備えている。これは大した才能ではなかろうかと、僕は驚いています。

監督のユニークな個性にばかり目が行きがちですが、愛する存在を失った者の心情、そしてはじめての仕事に取り組もうとする青年の心構えを丁寧に掬い取る脚本は、極めてまっとうで、真摯な思いが伝わります。おそらく、監督はとても真面目な方であろうと思うのですが、ずらし方が絶妙というか、ここはセンスとしか呼びようがないかもしれません。

「Tokyoプレミア2020」では従来の「日本映画スプラッシュ」で紹介してきたような、インディペンデントの新人や若手監督作品も含めていきたいと意識しました。本作は小品ではありますが、まさに才能の原石。小山監督が今後どのようなドラマを紡いでいくのか、楽しみでなりません。お見逃しのなきよう!

『ゾッキ』(c)2021「ゾッキ」製作委員会『ゾッキ』
『ゾッキ』は、竹中直人、山田孝之、齊藤工の3氏による共同監督作品です。これは豪華ですね。大きく分けて3つのエピソードからなる長編作品ですが、かっちりとエピソードが分かれているわけではないので、誰がどのエピソードを監督したかは、映画の中では明快に示されません。見ながら観客が想像するのが楽しいです。ああ、ここは竹中監督だろうなあ、とか、山田監督の演出はどういう特徴だろうか、とか考えるのはとても楽しいです。

笑いと感動と少しのシュール、という雰囲気でしょうか。僕は、それはもう大好きなキャラクターとエピソードがあり、ここには書きませんが、その挿話が映画の軸となっていきます。やがて全体がゆるやかに繋がっていき、「エピソードつなぎ型長編」ならではの腑に落ちる快感を味わうこともできます。そしてそのキャラクターは、映画を見た人全員が好きになってしまうだろうと断言しておきます!

この監督の顔ぶれだけで十分で、あらすじや見どころ紹介は不要でしょう。このブログがアップされるタイミングで出演役者陣の情報が解禁になっているか分からないので、それも書きませんが、かなりご期待頂いてよいですよとお約束しましょう。そして楽しい時間も確実にお約束できます。どうぞお楽しみに!

(「Tokyo プレミア 2020」日本映画紹介後編に続きます)
《矢田部吉彦》

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