繰り返し観たい、勇気を纏うファッションドキュメンタリー

最近のお気に入りドキュメンタリーはファッション映画だ。生きた芸術とも言われるファッションへの好奇心と、クリエイションへの好奇心、そのどちらも満たされるものだから、つい繰り返し観てしまう。

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『メットガラ ドレスをまとった美術館』(C) APOLLO
  • 『メットガラ ドレスをまとった美術館』(C) APOLLO
  • 『メットガラ ドレスをまとった美術館』(C) APOLLO
  • 『メットガラ ドレスをまとった美術館』(C) APOLLO
  • 『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』(C) APOLLO
  • 『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』(C) APOLLO
  • 『メットガラ ドレスをまとった美術館』(C) APOLLO
  • 『ファッションが教えてくれること』(C) APOLLO
  • 『We Margiela マルジェラと私たち』(C) APOLLO
映画は知らない世界への扉だと言われる。ドキュメンタリーは特にそうだ。新型コロナウィルスの影響が色濃くなったここ1年は、心がざわつく作品とは少し距離を置いている。気がつけば勇気づけられる作品を好んで観るようになった。
最近のお気に入りドキュメンタリーはファッション映画だ。生きた芸術とも言われるファッションへの好奇心と、クリエイションへの好奇心、そのどちらも満たされるものだから、つい繰り返し観てしまう。

『メットガラ ドレスをまとった美術館』(C) APOLLO『メットガラ ドレスをまとった美術館』
『メットガラ ドレスをまとった美術館』は、US「VOGUE」編集長で、メット理事でもあるアナ・ウィンターが、年に一度、服飾部門の活動資金調達のために行う世界最大のファッションイベントの制作過程を追っている。メットガラの席料は一人25,000ドル(約275万円)。招待状を入手できるのは、マドンナ、ジョージ・クルーニー、アン・ハサウェイ、ジュリアン・ムーアらアナに影響力を認められた人のみだ。絢爛豪華な祭典の様子も見物だが、私が惹かれたのは前日譚。次々に降りかかる問題を、アナとキュレーターのアンドリュー・ボルトンが、あの手この手で乗り越えていく。

『メットガラ ドレスをまとった美術館』(C) APOLLO『メットガラ ドレスをまとった美術館』
アナが頭を抱える姿は、彼女の日常に密着した『ファッションが教えてくれること』からは想像できない。必然性のない提案にNOを出し、5万ドルかけた撮り下ろしも容赦なくボツにする。マリオ・テスティーノやオスカー・デ・ラ・レンタのような大物にすら忖度なし。即断即決の彼女が思い悩む姿を見ていると、「躓いたって立ち上がればいい」という気になるのだ。

デザイナーを追った作品には、アナの作品同様にお仕事映画的側面が感じられるものも多く、そのプロフェッショナリズムに心が震える。『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』では、パンクと優雅さを融合させたファッションで、無一文から世界を手中にしたヴィヴィアンの人生が紹介されている。デザイナー、実業家、母親、妻、環境&人権保護活動家としてのボーダーレスな活躍、エネルギー溢れるプライベートライフには目を見張る。

『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』(C) APOLLO『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』
『ディオールと私』では、オートクチュール未経験のラフ・シモンズが、パリのメゾンでベテランのお針子たちと1枚の布に魂を注ぎ込もうと奮闘する姿に胸が熱くなった。

もちろん、コレクション完成が終点ではない。発表後、デザイナーたちを待ち受けるのは賞賛か酷評か。『マックイーン モードの反逆児』では、ある人物がこの業界にいると心のバランスを崩すと言っていた。華やかなファッション業界の過酷さを象徴するひと言だ。

創り手の思いを知るほどに、ファッションを短いシーズンで区切ることへの違和感が募る。だからこそ、私のお気に入りは『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』だ。彼は流行と戦い続けている。何着か我が家のクローゼットにあるドリスの服は、なるほど何年経ってもお気に入りだし、飽きることがない。確固とした自分軸を持つ彼は、世界的に成功した今もアントワープに邸宅を構えている。アンティークや花、自家菜園で採れた野菜を慈しむ姿に、トレンドとは別の価値観で生きるドリスの精神を感じ、彼の服にますます愛着を感じることとなった。

『We Margiela マルジェラと私たち』(C) APOLLO『We Margiela マルジェラと私たち』
ドリス同様「アントワープの6人」の一人であるマルタン・マルジェラの映画『We Margiela マルジェラと私たち』は、素顔を隠してセンセーショナルな作品を発表し続けたマルタンが、突然表舞台から姿を消した理由を探る。理想と現実、創作と資金のバランスに常に悩まされていた現実には驚かされた。彼がブランドについて語る際、常に“I”ではなく“We”と言い続けた理由も明かされる。それは、『ライフ・イズ・カラフル 未来をデザインする男 ピエール・カルダン』の冒頭でカルダン氏が明かした、「ブランドについて三人称で語る理由」と同じだ。カルダン氏は、「自分はブランドにおいてあくまでもひとつの要素にすぎない」と言う。そのスタンスを貫き、2020年に設立70周年を迎え、今も巨大コングロマリットと距離を置き、設立者本人が幸せそうに采配を振るう姿に励まされるデザイナーは多いはずだ。

数あるファッション映画の中でも大好きなのが『アルマーニ』だ。一代で帝国を築き上げたジョルジオ・アルマーニの鬼気迫るこだわりと、それが具現化されたミニマルな服、そして美しい暮らしぶりには圧倒された。だが、その裏で彼が犠牲にしてきたものにも気づかされる。“道”を極める覚悟を垣間見ている気もするのだ。

無から美を生み出そうとする人々のたゆまぬ努力は、覚悟のひとつのカタチなのだろう。だからこそ、彼らを見ると身が引き締まる。勇気をもらえるのだ。さあ今日も、お気に入りの一着を身に纏ってがんばろう。
《text:June Makiguchi》

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