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3月女性史月間におすすめするシスターフッド/エンパワメント作品を語り合う 野中モモ&奥浜レイラが登壇<アーカイブ>

「Let’s Keep Updated」第6回は翻訳者・ライターと多岐にわたり活躍する野中モモさんをゲストに、進行役に奥浜レイラさんを迎えて、3月の女性史月間に観たいシスターフッド/エンパワーメントの映画と本についてトーク

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Let‘s Keep Updated vol.63月女性史月間におすすめするシスターフッド/エンパワメント作品を語り合う
Let‘s Keep Updated vol.63月女性史月間におすすめするシスターフッド/エンパワメント作品を語り合う
  • Let‘s Keep Updated vol.63月女性史月間におすすめするシスターフッド/エンパワメント作品を語り合う
  • 野中モモ
  • 奥浜レイラ
  • 第13回TAMA映画賞/最優秀作品賞『あのこは貴族』 (C)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
  • 『あのこは貴族』(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
  • 『あのこは貴族』(c) 山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
  • 『あのこは貴族』(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
  • 『あのこは貴族』(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会

シネマカフェでは「Let’s Keep Updated」と題し、価値観や知識をアップデートできる映像作品をピックアップ、ゲストを迎えて一緒に学びながら行動の選択肢を増やすオンラインイベントを定期的に実施中。第6回となる今回は3月の「女性史月間」に合わせ、翻訳者・ライターと多岐にわたり活躍する野中モモさんをゲストに、進行役に奥浜レイラさんを迎えて、女性史月間に観たいシスターフッド/エンパワメント作品について語り合ってもらった。


「国際女性デー」と「女性史月間」とは?
もともと国際女性デーは20世紀初頭、アメリカで女性労働者が選挙権を求めてデモをすべく集会を開いたのが始まりといわれている。1910年、コペンハーゲンで開催された第2回国際社会主義女性会議で「女性の政治的自由と平等のために闘う」日が決議され、1975年になって国連総会で国際女性デー(3月8日)が決議された。世界的にはこの日が祝日になっている国もあり、アメリカなど各国で3月を女性史月間として、これまでの女性の歴史や貢献、活動などに焦点を当て、この先を考える月間になっている。

「SDGs」においてもジェンダーの平等は目標の1つに掲げられ、日本では今年「持続可能な明日に向けて、ジェンダー平等をいま」をテーマにして様々なイベントが開催、3月8日はウィメンズマーチも行われた。世界的には「#BreakTheBias」として、偏見、固定観念、差別のない世界、多様性、公平性、包括性を備えた世界を目指し、女性が自由に自分らしく生きられる日を目指すというハッシュタグも立ち上がった。

野中さんと奥浜さんは以前にも映画・音楽のイベントなどで鼎談したことがあり、「野中さんの日々のSNS上の発信にもとても勇気づけられたり、そこで連帯を感じたりしております」と奥浜さんも話すように、お互いを知るゆえに和やかなムードでオンラインイベントはスタート。

女性の政治参加、選挙権を求めたということが、世界的にも、日本的にも(国際女性デーの)成り立ちというのは大きいと思います」と奥浜さんが話すと、「女性が参政権を得てからまだ100年たっていないんですよね、最近のことですよね」と野中さんも頷く。

「国際女性デーが3月8日にありましたが、個人的には毎日が国際女性デーのようなことを考えて生きているんです」と奥浜さん。「年々、日本でも動きは大きくはなっていますよね。メディアが特集を設けたりして」と野中さんも言い、「ただ、女性の日なのに男性が前に出て語ったり、(女性のためではなく)“すべての人のため”と言い出すような記事や広告も目につきました。でも、そういうやり方がSNSでたくさんの人に批判されているのを見て、本当に“世の中変わっていないけれど、変わってきたところもあるな”と感じましたね」と語る。

「新聞等で特集は目にしていたんですけれど、男性の発信者が多いんだなという点は私も引っかかったところで」と奥浜さん。「でも、それに対して意見を言うことも当たり前になってきたというか。それがもうちょっと増えればいいなということも思いました」と続ける。

そして早速、野中さんがピックアップした女性史月間に観たい映画5作品と、読みたい本4冊の紹介へ。映画は「いろんな国の女性監督の作品を選んでみました」という。「絶対的に、まだ女性クリエイターの数が少ないんですよね。クリエイターが少ないし、映画会社の偉い人にも女性が少ない。プロデューサーも少ない。スポンサーになれる人も少ないということで、作者の性別は作品の出来とは関係ないという意見もありますけれど、やっぱり女性という括りで紹介する意味はあるんじゃないかなと思いまして」と野中さん。

「私もそう思います」と奥浜さんも同意し、「女性監督の作品が出てきたり、脚本家であったり、リプレゼンテーション(※)は重要だなと常々気がつかされることが多いです」という。そんな5作品は日本からフランス、東欧のマケドニアまで、実にバラエティに富んだラインナップとなった。

リプレゼンテーション:映画やテレビなどにおいて、女性をはじめ社会を構成する人々の多様性を正しく反映させること


▼女性史月間に観たい映画


『あのこは貴族』岨手由貴子監督(日本)


U-NEXTなどで配信中

野中 山内マリコさんの小説の映画化です。東京を舞台に社会階層の違う若い女性2人が出会うお話。すごい熱い友情を育むんじゃないんです、ちょっと交差するという。そこがいい作品だと思いました。

水原希子さんが演じる、富山から東京に進学したけれど経済的な問題で大学に通えなくなり、1人で働いて、絶対に田舎に帰りたくないって頑張っている女性と、門脇麦さんが演じる松濤のお屋敷に住んでいるお嬢さまがいて、それぞれに石橋静河さんと山下リオさんが演じる友だちがいる。東京育ちのお嬢さまと地方出身の裕福ではない女性、このヒロイン2人がある男性を通じて出会ってしまう。

奥浜 出会ってしまったときのセリフ、このセリフ選びをしてくれて本当によかったというか。これまでだったら、もうちょっと違うセリフが入っていたり、違う状況になっていることが常で。私は、女性同士を敵対させるような描き方の作品を多く目にしてきて、自分自身の環境では連帯したり、そんなに仲良くなくても繋がっている部分はあったりするんだけどなと思っていたんですが、そこがしっかり描かれていてよかったなと思ったポイントでした。

野中 お嬢さまのほうは結婚するのが当たり前という環境で育ってきて。頑張って婚活をするんですよね。で、結婚してみるんだけど…っていう。

また、東京のいろんなところでロケをしていて、オリンピック前の東京というよりも、いまとなってはこの新型コロナウイルス感染症の流行でみんなの行動形態が変わってしまう前の東京の姿が収められています。

奥浜 そうですね。あと、キャストの方や監督にもお話を聞く機会があったのですが、そこでの岨手監督と女性キャスト陣、高良健吾さんもいらっしゃったときもありましたが、この関係性がすごくよかったです。日本の新しい映画づくりと、女性陣のあり方だなという感じがしました。

野中 岨手監督は80年代生まれで、映画監督としてはとても若い世代で。お子さんを出産して、東京で保育園に入れなかったので金沢に移ったという話をされていて。そういうスタイルで働いていくなんて、ぜひぜひもっとこれからもたくさん映画を作り続けてほしいです。観察力が優れていらっしゃるなと思っていて。自分の暮らしと地続きな映画になっているんだなということが感じられて嬉しかったですね。

奥浜 脚本家としても、ドラマ作品や短編映画とかも手がけていて、いま日本には岨手監督が必要だと思います。


『ペトルーニャに祝福を』テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督(マケドニア)


U-NEXTにて配信中

野中 本当は一昨年公開する予定だったんですが、1年延期されて昨年(2021年)に公開された作品です。

奥浜 私もこれは劇場に足を運んで見ました、岩波ホールに。

野中 岩波ホール…。そうなんですよ、この夏でなくなってしまうという岩波ホールで上映された映画なんです。主人公は32歳の女性で、一応大学を出たけれど、あまりそれを生かせないで、ウエイトレスのアルバイトをしている。親に就職しろと小言を言われてどんよりしているところで、女人禁制のお祭り(宗教的儀式)に巻き込まれてしまうんです。

神父が川に十字架を投げて、それを男性たちが芋洗いになって奪い合い、獲得した人に幸運が訪れるとされている儀式なんです。日本にも似たような、半裸の男たちがワーッとやってるお祭りありますよね。就職の面接に行って、失礼な扱いを受けてムカついていた主人公はそこに居合わせて、水に飛び込んで十字架をガッと拾ってしまうんです。私のものだからとそのまま逃げてしまって、警察や宗教団体、関係ない男たちにも「返せ」と責められることになる。

現代の話だから、そこでスマホで撮影している人がいて、テレビのニュースで話題になるんですよ。ちょうど撮影に来ていたリポーターもいて。でも、「世論を動かす」方向にはいかないんですよね。

奥浜 そうなんですよね。

野中 そこが複雑な、面白いポイントだと思いました。女性リポーターは女性の権利運動として盛り上げようとするけれど空回ってしまう。あのリポーター役の方は監督の妹さんだそうです。どこに着地するのか分からないところがすごく面白い。

奥浜 物語としてこれはどうなっていくんだろうというハラハラもありつつ、常に自分だったらどうするんだろうとか、自分がペトルーニャの立場になったら何ていう言葉をこの人に投げるんだろうとか、その中でペトルーニャがあるシーンで言ったひと言が、私はもう拍手をしたいくらいなんですよ!

野中 初めは衝動的な行動だったんですけれど、男性たちに追われるうちにどんどん強さがあらわれてきて。自分が何をしたいのかを見つけていく様がカッコいいんですよね。

奥浜 これはマケドニアという遠い国の映画ですけれど、共通の感覚があるんだなってすごく感じましたね。去年のベストテンに入れた作品でした。岩波ホールはこうした作品を上映してくれて、映画館としてももちろん重要ですけれど、作品を紹介してくれる場所としてすごく重要だったと思いますね。

野中 いま上映しているジョージア映画『金の糸』っていう作品も、91歳の女性監督ラナ・ゴゴベリゼの新作ということで、観に行きたいなと思ってます。


『ガールフッド』セリーヌ・シアマ監督(フランス)


WOWOWオンデマンド(3/31まで)
国立映画アーカイブ「フランス映画を作った女性監督たちーー放浪と抵抗の軌跡」にて紹介(3/22上映)

野中 『燃ゆる女の肖像』や『トムボーイ』で話題を集めたセリーヌ・シアマ監督の長編3作目で、劇場未公開なんです。パリ郊外の黒人の不良少女たちの青春ものです。郊外の団地に暮らし、裕福ではなくて、家族の世話もしている女の子が不良少女3人組に声をかけられて、仲間になって、世界が広がっていくという話です。

奥浜 “フランス”というイメージとはちょっと違う。絶対にこういう子たちはいるのに、いままでスポットが当たってこなかった少女たちですよね。

野中 あまり説明のないまま、あまり映画では見ることのなかった日常生活の描写に引き込まれて…。

奥浜 少女たちの間で少しずつ、ちょっと歪な連帯というか繋がりができていくのですが、その中でガッとたまに急速に近く、濃くなっていく。その真ん中にあるのが音楽だったりして。私はリアーナの「Diamond」がかかるシーンが…。

野中 本当、すごいキラキラしてて。もうずっとこのままでいて! みたいな。どうせこの後つらい展開が待ってるんだろうな、もうここで観るのやめとこうかな、とすら思いました。

奥浜 そこをしっかりと長く、彼女たちの楽しそうな煌めきを見せて、その後にまた…。これもどこまで言っていいのか分からないですけど。

また、主人公のお兄さんとかから感じる有害な男性性、と言ってもいいと思うのですが、ただそこには彼らもおそらく苦しみがあるんだろうな、というところもちょっと見えたりして。やっぱりセリーヌ・シアマ監督はこの時から素晴らしかったんだって改めて。

野中 今度、脚本を書いた『パリ13区』が上映されますよね。それも楽しみです。

『ガールフッド』では、後半、説明もなく突然、主人公があまり自分を女性的に見せないようになるんですよね。これも『トムボーイ』に通じる曖昧なジェンダー・アイデンティティの表現がされている。「そういうこともあるんだろうな」という感じで描かれていましたね。

奥浜 性も揺らぎがあって、流動的であるところも描かれていて。これは本当に見応えがあって、私にとっては見たことがない青春映画でした。


『ビルド・ア・ガール』コーキー・ギェドロイツ監督(イギリス)


Netflixほかにて配信中

野中 この作品については雑誌の企画で奥浜さんと鼎談しましたよね。

奥浜 はい。私が原作者のキャトリン・モランにインタビューもさせていただいて、この作品の記憶として強く残っています。少女時代から音楽ライターとして実際に活躍されていた女性が原作者のキャトリンで、90年代に音楽ライターとして働いていたのでイギリスのシーンもすごくよかったですよね。

野中 90年代のブリット・ポップの時代で。これも貧しい家庭で育った16歳の女の子が音楽雑誌に投稿したら、才能を認められて音楽ライターとして活躍する。するんだけれど…躓き、また立ち上がる、みたいな感じですね。

奥浜 その失敗の仕方も、「ああっ」って思いながら、でもちょっと覚えがあるじゃないですけれど、そういう経験は私にもあったな、みたいな。

野中 音楽雑誌なんですけど、編集部の人たちの悪しきボーイズクラブの描写が、いかにもありそうで。これは今みんなが気になっている問題じゃないかなと思います。

奥浜 仕事が欲しかったら、「膝の上に座れ」とか言われたりとかね。

野中 そこをね、膝の上に座れって言われて、膝の上でビョンビョンて跳ねてみせて、男の方がイテテテテってなる。笑えないけど笑っちゃうセクハラ返しギャグです。主演のビーニー・フェルドスタイン(『ブックスマート』)がね、とても身体は大きいんだけれど弾むように走るし、元気いっぱいだし、愛嬌があるし、見ていて楽しくなるアクターさんだなと思いました。

奥浜 はつらつとしていて。本当に見ていて気持ちがいいなって。彼女が音楽ライターとして活動する中で、自分の本名ではないペンネームでやっていくんですが、誰かに望まれていた姿でいる自分に違和感も感じてくるというか。その当たりも青春成長譚として、性別を問わず共感できる方も多いのかなと思いました。

野中 ミュージシャンの悪口を書くとウケるから、どんどん口が悪くなっていってしまうという。現代のネット社会にも通じますね。親だったり、学校の先生だったり、周りの大人がダメなところもありつつ憎めない感じになっていたりするあたり、イギリスの娯楽映画らしいバランスを感じました。


『モキシー~私たちのムーブメント~』エイミー・ポーラー監督(アメリカ)


Netflixにて配信中

野中 これも、90年代育ちのハートにすごく刺さる作品でしたね。ティーン映画で、アメリカの田舎の高校で性差別的な文化にムカついている女の子が、カッコいい転校生とか、母親が若いころに作ってたZINE(個人もしくは少人数のグループによって自主的に作られた出版物)に影響を受けて、自分も匿名でZINEを作り始めるお話です。そうやって性差別の告発を始めたら、賛同する仲間が集まってきてフェミニスト・クラブが立ち上がる。それで学校のムカつく男子と衝突したり、ムカつかない男子と恋が芽生えたりするという。こんな映画が、娯楽作として作られるようになるんだっていうのは、やっぱりちょっと感慨深いものがありました。

奥浜 入口はとてもライトに見られると思うのですが、内容とかセリフとか、改めて数日前に見直したら、いま観るとなんか泣きそうになってしまって。高校生たちが連帯していく姿と、そこも女性だけじゃなくて、男性で自分もそこに加わりたいと連帯を示す人が出てきたりとか、その様がちょっといま観ると結構涙腺を刺激するかもっていうぐらい。すごく明るい作品ではあるんですけれど、結構来るところが多かったですね。

野中 主人公の親友がアジア系アメリカ人の女の子で、『テラスハウス』に出ていたローレン・サイが演じていて。移民ということもあって親からも優等生でいなさいというプレッシャーが強いから、最初はあまりこのフェミニスト運動に積極的に関われないんです。

そういった有色人種ゆえの悩みや、主人公が自分が白人として持っている特権に気づく描写も入ってくる。すごく大事なことだなと思うんですけど、同時にそれが逆にステレオタイプじゃないか、みたいな批判も出てくるんですよね。マイノリティにネガティヴなイメージをつけるまいとして優等生の型に押し込めていないか、という。難しいところですよね。他にもちょっとひっかかるところはいろいろあるんですけど、やっぱり自分が若いころにこんな作品があったらよかったのになと思いました。

奥浜 モキシーというZINEを主人公が作ることになりますが、野中さんもZINEの本(「野中モモの「ZINE」小さなわたしのアイディアを作る」晶文社刊)を作ってらっしゃるじゃないですか。なので、野中さんからこの作品が上がるのはすごくよく分かります。

野中 ZINEというのは本当に自主的に、やりたいようにやるもので、草の根のフェミニスト運動とも関わりがあるものなんですよと伝えてきたんですけど、この映画が1本あることでわかってもらいやすくなりましたね。全然私の妄想じゃないんだっていう。私が大げさに言ってるだけじゃないんです、私の見方が特に偏っているわけじゃないんです、と言えるようになったからよかったですね。話が早くなった。

奥浜 『モキシー』はそうですね、共通言語としてありますね。

野中 日本では、ZINEというと横文字の輸入文化になるから、お洒落とか言われたり、作品集みたいなものが注目されたり、有名人の限定数の高価な作品をZINEと呼んでる人がいたりしますけど、大きなメディアで取り上げてもらえない人たちが好きなようにやり始めるのが原点なんです。この映画があることでそういう文化をイメージしやすくなる人が増えたんだろうなと思います。

▼女性史月間に読みたい本


『社会を変えた50人の女性アーティストたち』


著者:レイチェル・イグノトフスキー 訳:野中モモ 出版社:創元社


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野中 歴史上でこれまで脚光を浴びづらかった女性の功績を伝えていこうというシリーズで、既刊に『世界を変えた50人の女性科学者たち』『歴史を変えた50人の女性アスリートたち』もあります。この最新作が『女性アーティストたち』です。

奥浜 イラストも多くて、ふりがなもふってあるので、ある程度の年齢になると読めるものだと思います。大人が読んでもこれはすごく勇気づけられます。

女性が力を奪われるというのか、成し遂げたことをなかったことにされるとか、もしくはあなたにそんな能力はないと思わされ続けてきて、私には成し遂げられないだろうと思っていた女性の気持ちを強くさせてくれるような。これだけやった人がいるんだから。女性たちにこれだけ、才能、能力があったんだからって思わせてくれる本でした。

フリーダ・カーロなどよく知られている方や、あまり知らなかった方もたくさんいて。日本からは草間彌生さん、妹島和世さんが載っています。

野中 いまニューヨークのニュー・ミュージアムで大規模な展覧会をしている、キルトを使う黒人アーティストのフェイス・リンゴールドとか。これから映画化されるような女性たちがいっぱい載っているので、読んでおくとあとで「そういえば!」と思うことが増えるはずです。

『スピットボーイのルール 人種・階級・女性のパンク』


著者:ミシェル・クルーズ・ゴンザレス 訳:鈴木智士 出版社:Gray Window Press


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野中 『モキシー』で、主人公の母親が若い頃にやっていた活動が、「ライオット・ガール(Riot Grrrl)」と呼ばれる90年代の草の根のフェミニスト活動です。それと同じころにパンクバンドをしていて、「ライオット・ガール」とはすれ違ってしまったんですが、フェミニスト的な主張をしていたメキシコ系アメリカ人のミシェル・“トッド”・ゴンザレスが当時の話を語っています。

奥浜 こういう音楽を女性はやっていてほしいとか、そういうバイアスがかかった状態が社会にあるんじゃないかと、フェスに行ったりすると思うんです。海外では音楽フェスティバルの女性と男性の比率を50:50にしようという動きがありますが、日本だとそれがまだまだだったりとか。子どもを生み育てるためにミュージシャンをやめていく方とか、もしくは自分がやりたい音楽性と社会が求めるものが違うということで、自分が思っている路線とは違うことを要求されるという話を聞いたりしたことを、読んでいて身近に思い出しました。

野中 すごく現場の熱が伝わります。ストリートハラスメント、路上で女性が受ける攻撃の問題をいちはやく取り上げているんですよね。いろいろな個性がぶつかりあって、一緒の時間、空間を分かち合うバンドという表現形態って美しいな、音楽っていいなと思えた本です。

奥浜 ご本人が発信されているのも響きますね。

『プロテストってなに? 世界を変えたさまざまな社会運動』


著者:エミリー・ハワース=ブース、アリス・ハワース=ブース 訳:糟野桃代 出版社:青幻舎


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野中 これは特に女性には限っていないのですが、古代から現代までの様々なプロテスト(抗議活動)を、イギリスの姉妹の方々がイラストと文章で紹介している本です。ハードカバーのしっかりした造りで、170ページぐらいで、情報量もあって、これで2,200円って頑張っていると思いませんか?

奥浜 思います。装丁もかわいいですし。

野中 イラストは70年代っぽい素朴なかわいらしさなんですけれど、発色が蛍光ピンク強めでいまっぽいんですよね。「女性の権利」にも丸々1章が割かれております。

奥浜 BLMの話があったりとか、女性のプロテストも描かれているし、世界中で行動を起こした人たちの記録としてすごく読みやすかったです。日本は抗議運動みたいなことは馴染みが薄かったりすると思うんですけど、でもいろいろな方法を知ることで、これだったらできるかも、世界がこんなことが起きていたなら私たちもやっていいんじゃないか、と少しハードルを下げてくれるというか。

『女パンクの逆襲ーーフェミニスト音楽史』


著者:ヴィヴィエン・ゴールドマン 訳:野中モモ 出版社:ele-king books


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野中 最新の訳書になります。著者はヴィヴィエン・ゴールドマンというロンドンパンクの現場にいた方で、現在はニューヨーク大学でパンクとレゲエについて教えていて。本当に世界各地のいろいろな女性ミュージシャンに取材して書かれた本です。

4章構成なんです。「アイデンティティ」「金」「愛」「プロテスト」という4つのテーマで、そのテーマに関係する曲を歌っているバンドをまるでDJとか、ミックステープのように繫いでいって紹介するという。歴史の教科書というよりは、テーマに従っていろんな論点を紹介している本です。背景となる文化によって重要になるポイントが変わってきて、それぞれにいろいろな言い分があって、いろいろな人にちょっとずつ共感できる。で、自分はどうだろうと照らされるような本です。日本からは「少年ナイフ」が紹介されています。

奥浜 音楽史というと、何かちょっと硬いもの思われるかもしれませんが、テーマ別ですごく読みやすかったのと、こうやって先人がやってきたことを可視化していく。功績を残したことをしっかり語り繫いでいくことが、いま私たちに勇気をくれるんだなと改めて思ったりしました。

野中 いま、この本に関連したトークイベントを準備中なんです。まもなく発表できると思います。

奥浜 トークイベント是非聞きに行きたいです。いまは苦しい気持ちになる事柄があまりにも多いのですが、誰かと繋がる連帯が描かれている作品を観たり、読んだり、聴いたりとかすると、ちょっと気持ちが楽になったり、勇気をもらったりもしますね。

《シネマカフェ編集部》

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