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「歌」をARと手話で伝える アクセシビリティの新たな試み「TRANSLATION for ALL」に迫る

音声ガイド、バリアフリー字幕など、“アクセシビリティ”に特化したオンライン劇場「THEATRE for ALL」の「TRANSLATION for ALL」が開催。歌手の小林幸子とラッパーの鎮座DOPENESSが歌う楽曲「文明単位のラブソング」をARと手話によって伝える。

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「歌」をARと手話で伝える アクセシビリティの新たな試み「TRANSLATION for ALL」に迫る
「歌」をARと手話で伝える アクセシビリティの新たな試み「TRANSLATION for ALL」に迫る
  • 「歌」をARと手話で伝える アクセシビリティの新たな試み「TRANSLATION for ALL」に迫る
  • AR作品「文明単位のラブソング」
  • AR作品「文明単位のラブソング」のデモ映像より
  • 対談の様子(小林幸子) 撮影:加藤甫「TRANSLATION for ALL」
  • 対談の様子(鎮座DOPENESS) 撮影:加藤甫「TRANSLATION for ALL」
  • 対談の様子(那須映里) 撮影:加藤甫「TRANSLATION for ALL」
  • 手話撮影の収録風景(左:かのけん 右:那須映里)撮影:加藤甫「TRANSLATION for ALL」
  • 対談の様子(小林幸子) 撮影:加藤甫「TRANSLATION for ALL」

映画や演劇などの芸術作品を“誰もが楽しめる”ように取り入れられてきた、多言語翻訳や音声ガイド、バリアフリー字幕。最近では、岸井ゆきのがろう者のボクサーを演じて第46回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した映画『ケイコ 目を澄ませて』が、話者や情景、音楽などを可能な限り音声情報や文字情報で表す音声ガイド、バリアフリー字幕付きで劇場上映されていた。

“誰もが”こうしたエンターテイメントに出会うことができるよう、“アクセシビリティ”に特化したオンライン劇場として知られるのが「THEATRE for ALL」だ。

「THEATRE for ALL」では新たな取り組みとして、今年5月~6月に東京のリアル会場とオンラインにて「TRANSLATION for ALL」を開催。歌手の小林幸子ラッパーの鎮座DOPENESSが歌う楽曲「文明単位のラブソング」AR(拡張現実)と手話によって伝える、という試みがなされた。

この「文明単位のラブソング」手話版の制作に関わった小林さん、鎮座さん、そして手話翻訳を担当した手話エンターテイナー・那須映里の対談インタビューが到着した。


「歌」をARと手話で伝える…
身体表現での翻訳に挑む


「TRANSLATION for ALL」は、作品に込める思いを、障がいや言語の隔たりなくわかち合い、さらなる表現へとつなげていく挑戦の数々を結集させた“身体表現の翻訳”を考えるフェスティバル。アーティストたちはワークショップや公開稽古を行いながらクリエーションを進行していくが、その公式作品の1つが、最新のAR技術を活用した楽曲「文明単位のラブソング」の手話版。

「バーチャル身体図鑑」などで知られる開発ユニット「AR三兄弟」川田十夢が作詞に参加し、蓮沼執太が作曲を手掛けた本楽曲は、360度の方向から立体的に楽しめるAR技術を活用した立体的なパレード。その先導を、「バーチャル身体図鑑」にも登場する小林さんが務め、文明ごとの変遷に思いを馳せる鎮座さんのラップが重なり合っていく。


小林幸子「こういうことだったのか」
これから先のエンターテイメントへ


那須映里 小林幸子 鎮座DOPENESS

――まずは小林幸子さん、鎮座DOPENESSさん、「文明単位のラブソング」AR作品をご覧になって試してみましたか? いかがでしたでしょう?

小林:とても新しいものですよね。これから先のエンターテインメントにいろんな形で影響を及ぼして、皆が楽しめるものへと繋がっていくのではないかと感じました。

鎮座:様々な場所で再生できる面白さがありますね。縮小したり、いきなりデカくもできるし、いろんなサイズでパレードを進行するのは楽しそうですね。

小林:家から出られなくても遠くに住んでいても同じ条件で楽しめる、自分のやり方で、さあ、遊んでっていうのがいいですよね。

川田十夢さんって、天才? といいますか、最初はわけがわかりませんでしたよ。おっしゃることは聞こえるんですが、理解ができなくて。もう随分昔にお会いしたんですけど、時間が経つにつれ、おっしゃっていたのは、ああこういうことだったのかと。

――歌ができていく過程でどんな風に感じましたか?

小林:メインの歌詞とメロディーはあったのですが、スキャットのあたりはほとんど白玉音符でした。ラップを先に聴いて、イメージ画を見て、あとは幸子さんの感性でおねがいします、という感じでした。

「何でもありですか?」「何でもありです」というやりとりの中で、わからないながら、やってみましたが、歌い手として長く歌ってきているので、絶対NGってあるじゃないですか、今回はそれを超えるかな?と思う表現でも「それは面白いですね」って言ってもらえて。歌い手って褒められると本気で喜んじゃうものですから。とにかくわからないことだらけでしたけど、自分なりに解釈して挑戦してみました。最初は、ラップを聴いたときも「なんだこれ?」って思いましたけれど。

3Dデータの収録風景より 撮影:菊池友理

小林:歌詞も繋がっているようで繋がってなくて、その行間を埋めるための想像力が必要でした。ものすごく刺激になりましたね。何回も聴いてるうちに、世界が伝わってきて、やってるときは「大丈夫かな」と思ったんですけど、終わったときにたいへん面白いなって感じました。

鎮座:同じくです。(笑)ラップを録音したときも、まだ全体像が見えてなかったので、自分なりに想像して。これ、どうなるんだろうって思いながら、ARありきで作ったっていうところがありますね。

小林:やりながら見えてくるんですよ。でも、それが十夢さんの狙いだったのかもしれないですね。

鎮座:自分がパーツになってる感じはありました。

小林:そうそう、きっと十夢さんの頭の中ではもう出来上がっていたのかもしれないですね。

モーションキャプチャーとラップの収録風景より 撮影:高木美佑

“こぶし”&ラップを
手話の言語感覚で表現


対談の様子(鎮座DOPENESS) 撮影:加藤甫

――鎮座DOPENESSさん、歌を手話に翻訳していく作業を見て、いかがでしたか?

鎮座:手話の言語感覚、身体で表現するという、特徴や違いを改めて感じました。あと、自分的には歌詞を結構削って整理してきたつもりでしたが、手話を音楽の時間にあてはめていくと、まだまだ…(笑)ラップの情報量が多いのがたいへんそうでしたね。

那須:日本語の特徴と手話の特徴は違うんですね。だから語順や文章の順番を入れ替えたり、なるべく日本語の情報を欠落させないように、意味を重ね合わせた掛け言葉のようにしてまとめて出すという方法をとりました。

鎮座:情景、言語、リズムをどう表現していくのかということで、まだ全然理解しきれていないですけど。少しずれると意味が変わってしまうし、タイミングが遅れてもばっちりハマらないという、非常にセンシティブなものですね。

小林:微妙なところをどうやって手話にするか、難しいですね。“こぶし”はどう表現するんですか?

那須:手話で表すときに歌の様子を真似ました。(首を振る身振り)

小林:(笑)表情がすごく大事ですね。

那須:初めはもっと大袈裟にやっていたんですが、鎮座さんのラップを手話表現してもらったダンサーのかのけん(鹿子澤 拳)さんにくどいって言われて(笑)抑えめにしました。

対談の様子(小林幸子) 撮影:加藤甫

小林:私は手話を専門に勉強したことはないですけど、自分の歌で「さよならありがとう」って『クレヨンしんちゃん(嵐を呼ぶジャングル)』の主題歌があるんです。その歌をちょっとだけ手話でやらせてもらったんですね。「何度も」「この世の果てまで」「ありがとう」とかいくつか教えていただいて。手話を歌いながらやるのはすごく難しかったですけど、やってみたら、ファンの方にすごく喜んでもらえてうれしかったです。


ろう者が見て楽しい「手話歌」を作りたい


対談の様子(那須映里) 撮影:加藤甫

小林:歌を手話にするのはどんな難しさがあるんでしょう。

那須:まず手話歌で、日本で多いのは日本語の語順に合わせて声を出しながら手話をやるものです。声を出しながらろう者にも楽しめるように手話をやるのは不可能です。それに、ろう者から見ると楽しくない、面白くない、意味がわからないから嫌いだって言う方が多いんです。今回、依頼を受けるときに私ができるかどうか自信がなくて正直すごく迷ったんですけど、もし私が断った場合、新しいチャレンジができる機会をなくすんじゃないかと思って、とにかくチャレンジさせていただきました。本当に難しいんです。ラップの内容を見たとき、何を伝えたいのか、と。

小林:ラップは膨大な言葉の量ですよね。

鎮座:時代を現代から昔へ行くという、そのキーワードになる映像が4行ずつ表現されていて、ARの映像ありきだからそのイメージを伝えるのが難しいですよね。

那須:4行ずつ歌うときのリズムがきれいでわかりやすいので、その気持ちよさを少しでも翻訳したいと思いました。韻を踏んだり、ろう者が見てラップだ、楽しいと一緒にノレるようなものにしたいと思って、ダンサーでもあるかのけんさんに相談して、翻訳を確定させて手話表現を決めていきました。ラップの韻を踏むところに手話をどうやって入れていくかというのを考えるのが工夫した点です。たとえば、「安室奈美恵になりたかった 女子たちはガングロ」という歌詞のところで、同じ手の形を応用しながらリズムに合わせていくことで、韻を踏むようにしました。

鎮座:手話的な韻ということですよね。興味深い。

那須:それからリズムの強弱を上下にしてわかりやすく手話を作ってほしいとお願いしたんですけど、「天下分け目~」のところは手話通訳では「日本」「治める」「誰」という3つの単語の動きをリズミカルに体を下に下げていく感じで表しました。

小林:凄いですね。

鎮座:変換作業!

手話撮影の収録風景(左:かのけん 右:那須映里)撮影:加藤甫

那須:難しかったのはリズムもそうですが、手話の場合は具体的な表現が多いローコンテクストな言語なので、日本語の持つ綺麗で抽象的な感じを綺麗で抽象的な感じをどう表現するか、すごく考えました。

鎮座:それが情景表現になってくるんですね。

那須:たとえば「津軽海峡冬景色」なら想像して情景を表現しやすいんです。ただ、今回は抽象的だったので、具体的に表現するとあまり綺麗に見えないので、どうやって想像に任せて余白を残すかを考えるのが大変でした。

――那須さんにとって歌というのはどういう存在ですか。

那須:ロック系が好きなんです。中学生のときに尾崎豊が好きだったんです。ビデオで見て、ミスチルとかサカナクションとか。たぶん私が聴きやすい声というのがあると思うんですね。で、ラップもずっと好きなんです。高い声は聴きにくい、楽器でもフルートとかホルンとかヴァイオリンはちょっと聴きにくいかもです。歌は自分で楽しむもの、聴者の世界の遊び、別の世界の遊びという感じで見てます。自分の世界にはない遊び。

実際、自分の世界には歌みたいな遊びはあるんですけど、まだ開発途中みたいな感じです。聴者の世界のなかでの歌は5000年位昔から、積み重なっていまの技術でいまの音楽、芸術があるわけですが、ろう者の場合、手話は比較的新しい言語です。芸術と手話がいま、同時に発展はしていますが、歌を見るとラップやこぶしを私が手話でどう表現すればいいのかなと、改めて勉強になりました。

小林:手話ってそんなに歴史がまだ浅いんですか?

那須:いろいろな見方があるのですが、フランスで300年前くらいに誕生したと言われてます。ろう教育的にも、社会的にも、手話が禁止されていた時代が長らくありました。だから今ようやく手話人口が少し増えて、手話が言語として認められてきたところです。そして芸術として聴者と一緒に楽しめる時代が来るということですね。

鎮座:いまだに新しく言語が作られている、表現が増えているということですよね。

那須:手話も日本語と同じ自然な言語なので、自然に起こるし、使いやすいものが広まっていきますね。

小林:時代によって少しずつ変わって行くんですかね。

那須:そうですね。たとえばテレビ。昔はチャンネルを回す動作で表現していましたが、今は画面を表す動作で表現します。


垣根をつくらず、遭遇した相手との出逢いを大切に


対談の様子(小林幸子) 撮影:加藤甫

――小林さんは、これまでも既成概念を良い意味で壊しながら、多くの人にメッセージを届けていらっしゃるかと思います。我々のテーマ、アクセシビリティを切り開いていく、という視点で考えたときに今後何かやってみたいことはありますか。

小林:いま、あることを一所懸命やっていると必ず、新しい誰か、何かと遭遇するんですね。そのときに垣根を作らない。そうすると、そこから次の局面が展開していくんです。ボーカロイド曲を歌ったのも、Youtube番組「YouTuBBA!!」もそうですけど、これはできないというのでなく、やってみようと思っています。それは障がいのある方でもそうでない方でも、その巡り合いやその出会いを大事にしたいからです。興味を持ったら、実は何でもできるんですよね。

私の原点は、生まれて初めて飛び出す絵本を見たときの、衝撃的な体験でした。こんなに面白いものがあるんだって。紅白歌合戦の衣装のルーツでもあります。皆を驚かせて自分も楽しく、相手も楽しませるには一体どういう方法があるかなと考えるんです。だめだったらやめればいいんですから、やってみて自分が面白がれることを見つけることです。原点を大事にしていくといろいろ展開していきます。


手話から歌をつくってみたい


対談の様子(那須映里) 撮影:加藤甫

那須手話から歌詞をつくっていくような歌の作り方をしてみたいです。手話を日本語の歌に合わせて表すことが多いので日本語が先になることがほとんどですが、逆バージョンのを作ってみたいです。

歌いながら手話を表すのは、なんだろう? ダンスの振りとしてやってるのかな。ろう者が見て本当に楽しむには日本語音声と手話を一緒に出すのがNGで、手話をやって別にアフレコ的な感じで音声を後から入れる方法で作っていかないといけないんです。いつも歌が先にあって、その後に手話に翻訳するんですけど、その逆の順番で作られるような歌があると面白いかなと思います。VV(ビジュアル・バーナキュラー)という視覚的に描写できる手話アートがあるんですけど、それを見てもらって。

小林:手話に合わせて歌詞って、たとえばどういう言葉になるんですか?

那須:歌のイメージですととたとえばこんな感じで(手話表現中)

鎮座:ああ、高いところから落ちていって水に入るっていう表現、ですね。いまの動きのリズムと合わせて歌詞を当てていくってことですかね。

小林:情景ですね。

鎮座:闘争劇で、走っていって崖から飛び降りて水に潜る、みたいな。そしたら竜宮城だったとか(笑)

小林:(笑)浦島太郎?

那須:そういう話し合いをしながら作っていくと面白いかなと思います。

小林:そっか、そんな作り方は誰も思いつかなかった。詞先なのかメロ先なのかっていうのはあったとしても。

鎮座小林:手話先!

鎮座:それ、新しいじゃないですか。

小林:いいわー。私、歌ってみたい。手話先ラップ、難しそうですね。やりましょうよ。それ、十夢さんが歌詞書いてくれるの? 

鎮座:皆で歌詞を書くところからやると、より勉強になりますね。複合的に作って行くとどういう世界観が現れるのか、手話先だとどういうリズムが出来上がってくるのか、どういう旋律になるのか。その過程も面白い。

那須:手話を固めたあとに、曲を作るって感じですね。

小林:歌います!

AR作品「文明単位のラブソング」はTHEATRE for ALL YouTubeにて公開中、各種音楽サイトで配信中。

※この鼎談は2人の手話通訳(発話→手話・手話→発話)を介して実施された。


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(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《シネマカフェ編集部》

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