Netflixで8月7日から全話一挙配信が始まった『恋は飴模様』。記憶を失ったエリート検事と、「彼氏だ」と名乗るボクシングコーチ――設定だけを見ると、いかにも王道ラブコメだ。恋愛経験ゼロの素朴な青年と、とがった都会のバリキャリ女子という組み合わせもベタ。ところが、ふたを開けてみると、ラブコメの顔をしながらノワール、サスペンス、メロへと展開し、笑って観ていたはずが、いつの間にか命懸けの恋に発展している。SNSでも前のめりに楽しむ声が目立つ本作、その魅力とは?
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1)あらすじ
目覚めると、自分が誰なのかさえわからなくなっていた検事コ・ウンセ(ハヨン)。そんな彼女の前に現れたのが、「おれはおまえの彼氏だ」と名乗るチャン・テハ(チョン・ヘイン)だった。現在はボクシングコーチとして暮らすテハだが、かつては国家代表候補にまでなったボクシングの天才で、裏社会にも身を置いた過去を持つ。しかもウンセは、テハにとって忘れられない初恋の相手。謎を抱えた2人の同居から、甘くも危うい恋が動き始める。

2)見どころ
① 「ラブコメ×ノワール」という新ジャンル
本作の面白さは、ラブコメとノワールを単純に掛け合わせたことではない。ラブコメの顔をして始まり、すでに序盤から漂うかなりハードなノワールの匂いが次第に濃くなり、さらにメロへと姿を変えていく。その間にサスペンスや、田舎の人々との温かなヒューマンドラマも差し込まれる。だから、ウンセとテハの甘いロマンティックな場面を見ていても、正直、心の底から安心して楽しめない。甘いシーンほど、「この先、何か起こるのでは?」と、つい身構えてしまうのだ。それでも、予測不能なヒヤヒヤ感さえ、いつの間にかクセになる。一見すると相性の悪そうな要素を、ここまで違和感なく同居させているところが、この作品の面白さだ。
② チョン・ヘインの魅力がすべて詰まっている
テハは、裏社会を生きてきた男だけに、敵を前にすると裏スイッチが入る。おでこを出したオールバック風の髪型になると、さらに迫力が増す。ところがウンセの前では、一転して不器用で純情なかわいい男になるのだが、ウンセからは「タイプじゃない」とあっさり振られてしまう。この不器用すぎる“ヤクザの純情”が、メロくてたまらない。

『となりのMr.パーフェクト』では、幼なじみの再会とハイスペック男子という王道ラブコメの設定に収まり、チョン・ヘインの魅力を十分に生かし切れていないように感じた。だからこそ今回、テハという役を得たことが大きい。優しいだけではない、チョン・ヘインの魅力が一気に立ち上がっている。
象徴的なのが、雨のシーンだ。雨はテハにとって、人生でつらかった時間を思い出させるもの。雨に打たれて立ち尽くす姿は、まるで濡れた子犬のようで、裏社会を生き抜いてきた強い男とは思えないほど心細く、寂しい。強いはずなのに、なぜか守ってあげたくなる。

そして、もう一つの顔が天使のようなテハだ。ウンセへの愛情をふとした表情や視線、ほんの少しの「間」で伝えてくる。チョン・ヘインの真骨頂ともいえる、ちょっと困ったような、寂しげな笑顔が存分に堪能できる。
チョン・ヘインといえば、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』『ある春の夜に』などで見せてきた、繊細で優しい男性のイメージが強い。清潔感があり、「その辺にいそうで絶対にいない」イケメン感も魅力だ。ところが今回は、その“キラキラ感”をあえて封印。ボサボサでパサついた髪、ラフな服装、抑えめのビジュアルで登場する。それでもやっぱり、むしろイケメンに見えるから不思議だ。
一方、『D.P.-脱走兵追跡官-』『ソウルの春』『ベテラン2』などでは、鋭さや荒々しさも見せてきた。そんなチョン・ヘインのすべての魅力を一人のキャラクターに詰め込んだのが、まさに本作のテハなのだ。
③ 役にピタリとはまったハヨン

チョン・ヘインの魅力が炸裂する中で、相手役のハヨンの存在も見逃せない。もとはシゴデキなエリート検事で、言いたいことははっきり言う自立した女性。演じるハヨンの魅力は、チョン・ヘインの存在感に飲み込まれないことだ。クールで強気だったウンセが、少しずつテハに心を開いていく。その変化を大げさに演じず、戸惑い、警戒、安心、愛おしさへと感情の温度を少しずつ変えていく。だからこそ、テハの純情もより切なく見えてくるのだ。
④ 脇を固める最強のバイプレーヤーたち
そして、この作品の安心感を支えているのが、最強のバイプレーヤーたちだ。テハの祖母には、韓ドラのハルモニ界のレジェンド、キム・ヨンオク。『テプン商事』でも認知症の祖母を演じた彼女が、今回もテハの心の支えとなる温かな存在として登場する。ボクシングの師匠夫妻を演じるのは、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』でウ・ヨンウの父親を演じたチョン・ベスと、『無人島のディーバ』などで主人公の母親役を演じてきたソ・ジョンヨン。

さらに、村のアジュンマ軍団には、『愛の不時着』で北朝鮮の人々を演じた、チャン・ヘジン、チャ・チョンファなど、韓ドラ好きなら「ああ、あの人!」となる顔ぶれが揃う。さらに、テハの同級生精神科医ギジュン役にはイ・ジェウォン。『21世紀の大君夫人』でIU演じる主人公の腹違いの兄を演じたが、今回も絶妙な立ち位置でいい味を出している。こうした名脇役たちとの関係が、自分のことをほとんど語らないテハという男の輪郭を少しずつ浮かび上がらせる。そして、テハとウンセを追い詰める犯罪組織のボス、ペク・サンギル役には、『イカゲーム』で強烈なヤクザを演じたホ・ソンテが、今回も憎々しさは十分で、ノワール部分の緊張感を一気に引き上げている。

作品を見終わって改めて気になるのが、『恋は飴模様』というタイトルだ。原題は「이런 엿같은 사랑」。ここで使われている「엿(ヨッ)」は韓国の伝統菓子である飴を指す一方、「엿같다」となると「最悪だ」「クソみたいだ」という俗語的な意味になる。つまり、タイトルそのものに「甘ったるい恋」と「なんて最悪な恋なんだ」という二面性が込められているのだ。甘くねっとりと絡みつくようなロマンスがありながら、過去や秘密、裏社会が絡み、苦さや危うさもある。だからこそ、気づけばこの“飴”から抜け出せなくなっている。
(文=田名部 知子/Xで気ままなソウルの日常を発信中:@t7joshi)
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