戦前から工業都市として発展した川崎市は、高度経済成長期に多くの労働者を抱え、ベッドタウンとしての宅地開発が進められた。当時の公営住宅は地方から来る若き労働者の、そして現在は単身高齢者の受け皿となっている。本作はその公営住宅のひとつ、川崎市にある市営「野川西団地」で暮らす高齢者たちの生活にカメラを向けた。団地の中には歌があり、踊りがあり、笑いがある。孤独を感じながらも楽しく逞しく生き、自らの死とも向き合う高齢者たちには、まるで繰り返される生と死が生活の一部であるかのごとく存在している。2015年の山形国際ドキュメンタリー映画祭の日本プログラムに正式招待、満員となり多くの評判を呼んだ本作の監督は、これが商業デビュー作となる20代の田中圭。若き女性監督が着目した、小さなコミュニティーで繰り広げられる日常という名の人生劇場からは、老人たちの旺盛な生のエネルギーが確かなものとして静かにも力強く伝わってくる。
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