1996年に突如文壇に現れ、女装の男娼となった過去を綴った自伝「サラ、神に背いた少年」で時代の寵児となった謎の天才美少年作家、J.T.リロイ。その才能にほれ込み、映画監督のガス・ヴァン・サントは『エレファント』の脚本を依頼。二作目の著作「サラ、いつわりの祈り」はアーシア・アルジェントによって2004年に映画化された。しかし、2006年ニューヨーク・タイムスの暴露記事によって事態は一変する。天才少年J.T.リロイという人物は実在すらしない、その正体はサンフランシスコ在住の40歳女性、ローラ・アルバートだったというのだ。世界を驚かせたこの事件を、彼女自身の言葉と、記録されたガス・ヴァン・サント、トム・ウェイツ、コートニー・ラブ、ビリー・コーガンらとの通話音声や留守電メッセージによって解剖していく。“作家”である彼女に宿る抑えきれない創作のエネルギー、それによって紡がれる壮大で複雑なJ.T.リロイの世界。その真実はいまも多くの人を困惑させるが、自分以外の人間になりきって語ることは、ローラ・アルバートにとって自己を表現する唯一の方法だった。本作で語られる一見、風変わりなこの事件の奥にある“さらなる真実”は、あなたの中にも“アバター”が存在しているということを、きっと気付かせてくれるだろう。
ジェフ・フォイヤージーク