2011年、福島第一原発事故から1か月後、国は20km圏内を“警戒区域”に指定、立入りを厳しく制限。同年5月、農水省は放射能に汚染された食肉を流通させないため、20km圏内にいるすべての家畜の殺処分を福島県に通達。強制避難を強いられ明日をも見えない農家は、涙をのんで従うしかなかった。震災当時約3,500頭いた牛は、牛舎につながれたまま残され約1,400頭が餓死した。しかし、「自分たちが育ててきた牛が放射能汚染されたからといって、その命を奪うことはできない」という思いから、国が決定した殺処分の方針に納得できず、膨大な餌代を自己負担しながら牛を生かし続けようと決意した畜産農家が現れた。本作は、故郷も仕事も奪われ、それでも経済価値のない牛を生かし続ける農家の静かな闘いとふるさとへの想いを見つめ、生き物の命の尊厳を問う渾身のドキュメンタリー。
cocoレビューを見る松原保