商船学校の学生、西条英司は十数年前に台湾で別れたきりの母が、きっとどこかで生きていると信じていた。夏休みを妹のところで過ごしている英司は、台湾から航海を終えた先輩の訪問を受ける。彼は妹の婚約者であった。そして英司の母への思慕を察してか、妹との結婚式の準備を理由に、次の一航海を英司に頼んだ。英司は思いがけない先輩からの申し出に心から喜んだ。母が終戦直後、台北の中山小学校で音楽教師をしていたことを唯一の手がかりに、英司の母探しの旅が始まる。
森永健次郎