父と息子は2人きりで山の稽古場へ向かう。狂言方の家に生まれた大藏基誠は、少年時代に父や兄と訪れていたこの場所に、十歳になる息子・康誠を初めて連れてきた。基誠は幼い頃を思い出しながら、父が自分にしたように、康誠に稽古場の掃除から手ほどきをする。しかし康誠は、ふだんより厳しさを増して接する父に戸惑い、稽古を投げ出しそうになる。そんなある日、近くに住む老人・宮下と、その孫・咲子が訪ねてくる。狂言の厳しく真剣な稽古を目にした咲子は、自分より幼い康誠が懸命に稽古する光景に目を奪われる――。大蔵流狂言方の実の親子を迎え、伝統芸能をモチーフに、「伝えること」という普遍的なテーマを昇華させた稀有な作品が誕生した。
cocoレビューを見る土井康一