鹿児島県の最北端、青い海に囲まれた長島町。佐藤茜は1年近く前に都会からこの島に一人でやって来て、港の食堂で働いている。一方、島で生まれ育った日野五月は、家業のブリの養殖を継いだ夫の優一、義母のミエ、7歳になる里子の豊和と平穏に暮らしている。五月はかつて不妊治療を行なっていたが、心身と家計に多大な負担がかかったために断念。幼なじみで町役場の福祉課に務める秀幸の紹介で児童相談所から豊和を預かり、養育してきた。最近やっと生活が安定したことから、日野夫妻は豊和の戸籍上の親になるべく、特別養子縁組の申し立てを行う。特別養子縁組が家庭裁判所で認められるためには、いくつかの要件がある。手続きはスムーズに進むかに見えたが、準備を行う中で思いもよらぬ事実が発覚。なんと豊和は、7年前に東京のネットカフェで起きた乳児置き去り事件の被害者だったのだ。そして懲役1年執行猶予3年の判決を受けたという豊和の母親の名は、佐藤茜だった――。
cocoレビューを見る越川道夫