第一話『無口なピアノ』――閑散としたフェリーターミナルの片隅、学校帰りにピアノを弾くのが里奈の日課。ある日コロナ禍による客足減少に伴い航路は廃止、ピアノも使用禁止に。
落ち込む里奈に無愛想な清掃員、村岡が「うちにもピアノがある」と自宅へ招く。そこは、廃業したばかりの喫茶店だった――。/第二話『記憶と水音』――小さな画材屋を営む津田は、⼊院中の幼なじみ川瀬の病状が気がかりだ。やがて自宅療養になった彼と、その娘奈々を交えた思い出語りのなかで、幼少時に故郷の長万部町で河童を見た話にいきあたる。翌日、3人は故郷へ向かい朧げな記憶を辿って沼を探すのだが…。/第三話『昨日の煙』――S L の乗務員だった元国鉄職員の吉井は、妻に先立たれてからの一人暮らしをあきらめ⾼齢者施設への⼊所を決める。家財処分のため呼び出した引取り業者の杉⼭に「私も捨ててくれ」と言い出した彼の願いは「繰り返し夢に出てくる場所」を探すことだった。
坪川拓史